延辺報告(2)~対岸50m先に北朝鮮を眺めて夜は大同江ビールを飲みに。

 延辺報告(1)から続きます。

 延辺報告(1)で地図を示したように、延辺朝鮮族自治州はロシア、北朝鮮との国境地域にあります。延辺を訪れる日本からの観光客にとって大きな魅力のひとつが、未知なる国である北朝鮮を間近に眺められるという部分ではないでしょうか。

 それも韓国とはまた違った感覚の中で。

 韓国でも北朝鮮側を見られる場所というのはあちこちにありますが、板門店にせよ、都羅山にせよ、高城にせよ、江華島にせよ、どうしてもものものしい雰囲気がついてまわります。距離的にも軍事分界線を挟んで南北2キロの非武装地帯が設置されており、またその手前も民間人統制区域となっていて勝手には入れません。鉄条網や警備の軍人を眺めつつ、張り詰めた空気の中で北朝鮮を眺めるのが常です。

 まあ、それが当たり前といえば当たり前ですけどね。

 なので、どう見てもそのへんの公園のような場所へやってきて、鉄条網も警備の軍人も周囲に見当たらないような川べりで、対岸が北朝鮮だと言われても、なんだかあまりピンとくるものがないというのが正直なところでした。

 対岸まで50メートルほどですし、カチカチに凍っているので歩いてでも渡れそうですし。

 一応、注意書きとして「川で活動したり、北朝鮮側に声をあげたり、物を投げたりすることを厳禁する」とあったのですが、これを見ても……。

「渡るなとは書いてないな」

 とか思ったり。

 いや、もちろん誰もいないように見えてきちんと警備はされているでしょうし、実際に渡ろうものならとんでもない大問題になるのはよくわかっていますが、ついそんなことを思ってしまうほど近い、という感想だとご理解ください。

 実際は正式に行き来するための橋が近くにあります。

 川べりにはぽつんぽつんと……。

 ここで写真を撮るべし、と言われているようなところがあります。

 中国の旗の左に書かれている「图们(図們)」が延辺朝鮮族自治州の図們(ともん、トゥーメン)市、北朝鮮の旗の右に書かれている「南阳(南陽)」が咸鏡北道穏城郡南陽(ナミャン)労働区を指しています。

 あと、だいぶ説明が遅れましたけど、目の前の川は豆満江(とまんこう、トゥマンガン)。中国語では少し変わって图们江(図們江、トゥーメンチャン)となるみたいですね。

 寒い時期でなければ遊覧船にも乗れるとか(写真は船着き場)。

 ますます北朝鮮の近くに迫るということになりますが、その数メートル、数十メートルにドキドキするというのがいちばんの楽しみ方でしょう。板門店でも本会議場の建物内限定とはいえ、北朝鮮側に足を踏み入れると独特の気分がありますしね。

 冬に行ったがためにとにかく寒さの極地でしたが、いずれまた暖かい季節に行ければ遊覧船にも乗ってみたいところです。

 個人的には豆満江越しに北朝鮮を眺め、振り返るとそこで図們市民がスケートを楽しんでいるという、日常極まりない空間に立っていることがいちばん印象的でした。

 対岸に北朝鮮があるのは日常なんですよね。

 最近の中朝関係がややギクシャクしているとはいえ、韓国とのように非武装地帯を設けて対峙する必要はありませんし、中国からすれば未知なる国でもなんでもないただの隣国でしょうし。

 お世話になった朝鮮族の方も、北朝鮮に行く用事があれば、

「僕らは普通に行くよ」

 とこともなげに語っていました。むしろ、この場所まで連れてきていただく前に、

「みんな北朝鮮を見るって期待するけど、実際に行ったらただの小さな川だぞ」

 みたいなことを言っていて、まあ確かにその通りではあるなと。道中の車内にはずっとK-POPが流れていたのもなにやら心に残るものがあり、こんな空気感で北朝鮮を眺められたのも新鮮な体験でした。車中で何度か流れたイ・スンチョルの「ソリチョ(소리쳐)」を聞くたびに、きっとまた一連の光景を思い出すような気がしています。

 まあ、それでも日本人としては貴重な体験ですよね。

 時系列としては前後するのですが、今回の旅では北朝鮮レストラン(通称、北レス)にも足を運びました。大同江(テドンガン)ビールの2番を飲んだのは、およそ2年半ぶりということになりますか。北朝鮮を代表するビールはコクがあって甘味もあって、やっぱりコレうまいよなぁ、と改めて思った次第です。

 とはいえ、北朝鮮レストランは延吉でも営業しているところがだいぶ少なくなっているとか。地元の方にここはやっている、というところに連れて行ってもらいましたが、現在の国際情勢ではどうしても厳しい立場に置かれざるをえない存在です。

 ピリ辛に味付けられたパジラッポックム(アサリの炒め物、바지락볶음)。

 ニラがたっぷり入ったムルマンドゥ(水餃子、물만두)。

 チャンジョリム(牛肉の醤油煮、장조림)かと思いきや、マーラーソゴギ(麻辣牛肉、마라소고기)という中国語と朝鮮語がチャンポンになった名前の料理。平壌でも開城でも中国風にアレンジされた朝鮮料理を食べて驚きましたが、その出どころは意外とこういうところからなのかもしれません。

 赤身部位の肉は、大同江ビールが進む味わいでした。

 プッコチュテジゴギボックム(青唐辛子と豚肉の炒め物、풋고추돼지고기볶음)。

 この青唐辛子も辛かったですね。もともと北朝鮮の料理は韓国に比べて辛くない、あっさりとした味付けが多いと評されますが、咸鏡道のほうは寒さのせいか辛い味付けが好まれると聞いています。ここで出てきた料理が辛かったのはほぼまったく関係ないとは思いますが、どのへんの客層に向けた味付けの好みなのかは気になるところです。

 これらを食べながら北朝鮮のお姉さんたちの歌と演奏を鑑賞。

 もちろん行く前の大前提として北朝鮮の外貨獲得に加担するのはよくない、という意見があるのは承知していますが、北朝鮮という国や文化に触れるという意味では数少ない直接的な窓口のひとつではあります。北朝鮮料理を食べたいと思ってもなかなか本国までは行けませんので、そういった意味では距離的に近い延辺にて、雰囲気を感じながらこうした料理を味わえるのはありがたい体験でした。

 ただ、最後にひとつ。

 延辺を旅するうえで北朝鮮の存在はたいへん大きいものですが、そこにばかり目を向けてしまうと延辺という地域や、朝鮮族の文化がむしろ見えにくくなるのでは、との印象も一方で受けました。

 今回お世話になった朝鮮族の方も、

「みんな北朝鮮観光をしに来るんだよね」

 と残念そうにぽつり漏らしていたのが心にチクリと刺さっています。

 よそのお宅にお邪魔して縁側から庭だけを見る感じとでも言いますか。僕自身、短い日程だったためそこまで全体を把握はできませんでしたが、やっぱりこの地域は朝鮮族の町であって、朝鮮族の文化に触れてこその魅力。その中に北朝鮮との関係が大きくあるのは間違いありませんが、それはオプションとしての強力な飛び道具であり、そちらが主になると見えるものが見えなくなっていくように感じました。

 であれば、朝鮮族の文化にこそもっと踏み込まねば。

 次回「延辺報告(3)~朝鮮族のおばあちゃん家で手作りのお昼ごはんを満喫!」に続きます。

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