新大久保「ソウル本家」~済州島の郷土料理といえば鶏しゃぶしゃぶだ。

 話は2011年の済州島取材から。

 済州島の肉料理といえば黒豚やキジなどが有名ですが、鶏のしゃぶしゃぶを思い浮かべる人はどれだけいるでしょう。日本では限りなく少ないのではとも思いますが……。

「橋来里(キョレリ)の鶏しゃぶしゃぶ(닭샤브샤브)!」

 といえば地元ではそこそこの知名度を誇ります。というか、もとをたどれば地元の人たちがちょっと外食でもしに行こうか、というニーズから始まった料理だそうですね。

「最初はタッペクスク(丸鶏の水炊き、닭백숙)だったんだよね。鶏を茹でてもらっている間に、花札でもしながらのんびり待つのが楽しみで」

 なんて話を地元の方から聞きましたが、それもそのうち有名になって観光客がやってくるようになると、のんびり茹で上がりを待つような余裕がない人もいて……。

 丸鶏を茹でる前にちょっと胸肉だけを切り出し……。

 薄くスライスをして……。

 まず、しゃぶしゃぶとして出すというアイデアが生まれました。鶏足を煮込んだダシに、白菜とエノキダケを入れ、そこで薄切りの鶏胸肉をしゃぶしゃぶ。これをつつきながら、メインの鶏肉が茹で上がるのを待つという趣向です。

 つけダレは大根おろしと、タマネギおろしを加えた酢醤油。これがまたさっぱりと味わえていいんですね。

「いいじゃないか、鶏しゃぶしゃぶ!」

 というのは忙しい観光客にぴったりというだけでなく、煮込むことでパサパサしがちな胸肉を、しゃぶしゃぶだと柔らかく味わえるという点も大きかったとか。これがウケたことによって、マネをする店が増え、橋来里あたりではまず鶏しゃぶしゃぶから出すという文化が定着します。

 一方、その間に圧力鍋でしゅんしゅんと煮込まれた鶏肉は……。

 ひとしきり鶏しゃぶを満喫したほどよいタイミングで大皿に盛られて出てきます。こちらはシンプルに、塩、またはゴマ油と塩を混ぜたタレで。

 最後に緑豆粥が出てくるところまでがワンセット。

 済州島料理としての優先度はそこまで高くないものの、2~3度行ってあらかたの郷土料理は食べたなという人には、ぜひおすすめしたい済州島名物です。特に夏の済州島には似合う料理ではないでしょうか。

 なお、僕が2011年に行ったのは「ソンミガーデン」という店。冒頭のメニューはそのときに撮ったものなので、いまはネットで調べる限り、大サイズが6万ウォンになっているようです。

 さて、そんな6年も前の話をなぜいま書いているかというと、橋来里の鶏しゃぶしゃぶを新大久保に持ち込んだという店が出てきたからですね。大久保通り沿いの「ソウル本家」は社長さんが済州島の出身で、長らく済州島の料理を出したいと考えていたそうです。

 そこで数ある済州島料理の中から、あえて鶏しゃぶしゃぶを選ぶ、というのがまた珍しいことだとは思いますが、済州島の出身者だからこそこれを、というチョイスなのかもしれませんね。

 スライスした胸肉をまずしゃぶしゃぶで味わい……。

 後に、胸肉以外の丸鶏が茹で上がって登場。高麗人参にアワビまで足されているあたりが贅沢ですが、これも済州アピールのひとつでしょう。

 最後はしゃぶしゃぶのスープにごはんを入れて雑炊に。緑豆粥ではありませんでしたが、しゃぶしゃぶ、水炊き、ごはんという一連の流れは意識されていました。

 まだ新メニューということでいろいろ試行錯誤があるようですが、なんとか済州島の料理を新大久保から発信したい、ということで社長さんと、同じく済州島出身の料理長さんが熱く語っておられました。

 いまの新大久保はチーズタッカルビ全盛の時代であり、ほぼそれ一色といった感じにもなりつつありますが、ブームである以上はいずれ終わりが来るもの。いつぞやのサムギョプサル(豚バラ肉の焼肉、삼겹살)ブームで同じような店ばっかりになってしまい、ブーム後に差別化が図れず多くの店が苦しんだことを考えると、

「当面はチーズタッカルビで攻めつつも、同時に次の切り口も模索する!」

 という店の姿勢はいいことじゃないかなぁと。そんなことを思って久しぶりにお店紹介の記事を書いてみました。鶏1羽のセットが2~3人前で4980円(税別)だそうです。

店名:ソンミガーデン(성미가든)
住所:済州道済州市朝天邑橋来1キル2(橋来里532)
住所:제주도 제주시 조천읍 교래1길 2(교래리 532)
電話:064-783-7092

店名:ソウル本家
住所:東京都新宿区百人町2-1-3K-PLAZA3、3~4階
電話:03-3204-4378

 

→韓食生活のトップページに戻る

→最新記事の一覧を見る

この記事のタグ:



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

 

 
 
previous next