北朝鮮報告(1)~平壌、開城、元山、咸興の各地域を食べ歩いてきました。

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 4月10日から16日まで出張に出ていました。

 どこか行くたびにブログの更新が途絶えたり、逆に連日出張速報で頑張ったりとまちまちなのですが、今回は更新が途絶えるほう。むしろ、更新しようとしてもネットにすらつながらないエリアに行っていました。

 北朝鮮です。

 と、書いたところで、少し悩むのが国の表記ですが、現地では「北」朝鮮とは言いません。ただの「朝鮮」か、朝鮮民主主義人民共和国から取って「共和国」と呼ぶのが一般的。むしろ韓国のことを「南朝鮮」と呼びます。とはいえ、いまの日本で文章を書くにあたり、「朝鮮」だけだと南北を総称しているようですし、「共和国」だとどこの国かわからないでしょう。なので現地式ではありませんが、日本で一般的な北朝鮮という表記で話を進めます。

 北朝鮮に行ってきました。三進トラベルのツアーです。

 個人的な主たる目的は冒頭の写真、冷麺を食べることでした。南ではネンミョン(냉면)と呼びますが、北ではレンミョン(랭면)と発音が少し変わります。

 写真は平壌でもっとも有名な「玉流館」のチェンバングクス(盆に盛り付けた冷麺、쟁반국수)。冷麺といえばまず「玉流館」と言われるほどの有名店で、今回もっとも行きたかった店がこちらでした。感慨もひとしおでしたが、スープを飲んでビリッと辛かったのには驚き。薄い上品な味を想像していましたが、肉のダシも効いてずいぶんとパンチのある味でした。

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 そして、それと同じぐらいに興奮したのが同じく平壌にある「高麗ホテル」の冷麺。

 僕が冷麺にハマったのは2004年頃からですが、当時「ハングルスタート」という雑誌で浅草橋の「KORYO」という店を取材したのがきっかけでした。現在は「サンムーン」と名前を変えて営業を続けているようですが、ここでは「高麗ホテル」直伝の冷麺を味わえます。以前には銀座でも営業していましたが、そちらは閉店してしまったようですね。

 牛肉、豚肉、鶏肉を使ったスープは肉のうま味が濃く、水キムチのような酸味の要素は入れず、キリッとした仕上がりに作るのが特徴。その原型を味わうというのも大きな目的でしたが、それも無事に果たすことができました。

 個人的には「玉流館」よりも感動が大きかったり。

 麺の色が黒っぽいという違いはありましたが、確かに「KORYO」や「サンムーン」で食べた冷麺の記憶と合致するものでした。

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 一方で、いろいろ学んできた情報とまったく合致しなかった冷麺も。

 こちらは咸興(ハムン)にある「新興館」という店で食べた冷麺ですが、平壌に「玉流館」あれば、咸興に「新興館」ありと並び称されるような有名店。冷麺の本場は平壌と咸興の2地域に大別されるのですが、咸興式の冷麺を食べるというのも大きな目的のひとつでした。

 その違いは主に平壌式がそば粉を中心として麺を作り、咸興式がジャガイモや緑豆、サツマイモなどのでんぷんを主として麺を作るという点にあります。どちらも押し出し式で作るコシの強い麺ですが、比較をすると平壌式は麺自体がやや太めで噛み切るのも容易。対して咸興式は細麺ながらも噛み切るのにもだいぶ苦労します。

 そのうえで平壌式はスープのあるものが中心。咸興式は薬味ダレと絡めたピビムネンミョン(混ぜ冷麺、비빔냉면)が中心とよく語られるのですが、咸興でいろいろ尋ねたところ……。

「咸興冷麺もスープのあるほうが普通だよ」

 という回答。

 僕らの旅に付き添ってくれたガイドさんを始め、咸興在住の旅行社スタッフ、「新興館」の店員さんに至るまで、咸興式がビビムネンミョンを中心とするなどという常識は存在しないとの意見で一致しました。

 これは衝撃的でしたね。

 もっともこれは旅行客としての簡易な調査であり、さらに詳細な情報収集が必要だとは思いますが、日本や韓国で仕入れていった情報がアテにならないことは痛感しました。

 そして、そんなカルチャーショックは冷麺に限らず、他の料理においても同様。旅の間ずっとガイドさんや飲食店の人などにしつこいほどいろいろ尋ねて歩いたのですが、もう知識の総入れ替えが必要なほどでしたね。

 聞くと見るとでは大違い。

 僕が15年かけて学んできた北朝鮮料理に関する知識は、かなりの部分で間違いであるか、あるいはかつてそうだったかもしれないものの現状に即していない情報ばかりでした。今回いちばんの収穫は、そんな事実を肌で実感できたことではないかと思います。

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 さて、そんな冷麺紀行が個人的な目的の中心ではありましたが、一般的な観光も満喫してきました。写真は平壌市内にある凱旋門。金日成主席が1945年に平壌へと戻り、凱旋演説をした場所に建てられています。右後ろに見えているのは平壌テレビタワー。

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 万寿台には金日成主席と金正日総書記の巨大な銅像が建てられています。もともとは金日成主席の銅像だけでしたが、金正日総書記が亡くなったことで2012年4月に新しく並ぶ形で作られました。

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 今回の旅では平壌に合計3泊、開城(ケソン)1泊、咸興1泊というスケジュールで、地方都市を見られたのも嬉しかったですね。途中の元山(ウォンサン)では昼食ついでに停泊したままの万景峰(マンギョンボン)号を眺めたりも。

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 開城では高麗の建国者である王建の陵墓などを見に行きました。

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 個人的に印象深かったのは板門店(パンムンジョム)ですかね。2009年と2010年に南側から眺めたところに、自分が実際に立っているというのは不思議な感覚でした。

 写真を撮っている場所が北側の建物である板門閣。正面に見える大きな建物が南側の建物である自由の家。真ん中にある青い建物の中心を軍事分界線が通っています。青い建物のひとつが「軍事停戦委員会本会議場」で、この中でのみ南北両方の地に足を踏み入れることができます。

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 板門店の見学をした後は、開城市内に戻ってインサムタッコム(丸鶏と高麗人参のスープ、인삼닭곰)の昼食。南でいうサムゲタン(삼계탕)のことですが、呼び名が異なるところにも南北の違いを感じます。

 その一方で、食べれば当たり前のようにほとんど同じ味がするわけで。

 南北が分断された状態でも、同じ文化や歴史を共有しているため、呼び名は違っても結局は同じ料理ということも多々ありましたね。それが当たり前だと頭ではわかっていても、なにかこう奇異に感じる部分もあって、その不思議な感覚というのは旅の間ずっと続きました。

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 なお、開城でインサムタッコムが有名なのは古くから高麗人参の名産地として栄えたため。

 なんて話は、つい半月前に訪れた江華島(カンファド)での話ともリンクする訳ですね。現在、韓国で食べられている料理の中にも、北にルーツを持つものは山ほどあります。冒頭に書いた冷麺などはもっとも象徴的な存在ですが、韓国料理を深く知るほど南北合わせての食文化という部分にぶつかる壁があります。

 今回、北朝鮮を訪れたのはそういった壁の向こうを知りたいとの思いから。

 5泊6日という短い日程で知り得たことは限られたものですが、この記事をイントロダクションとしつつ、学んだことをまとめてみたいと思います。ただ、僕自身の中でも消化しきれていない部分が多く、手探りの状態が続くと思います。関心のある方はお付き合いください。

 最後にいつもの宣伝ですが、開城にルーツのある江華島の高麗人参は5月のツアーでも掘るところから体験できます。なかなか人が集まらず最低催行人数に届くかだいぶ微妙な状況ですが、ご関心のある方はぜひ。お近くに興味のありそうな方がいらしたらぜひ宣伝してください。

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