コリアうめーや!!第292号

コリアうめーや!!第292号

<ごあいさつ>
5月になりました。
すっかりゴールデンウィークまっただ中で、
メールや電話の少ない日中を過ごしています。
連休といえども、のんびりは休めないフリー稼業。
それでも連休は会社員の方々が一斉に休むので、
原稿仕事に集中できるよさがあります。
ああ、幸せ……ってそんな訳はないですね。
どんなに強がっても心の中は波風ばかり。
せめて人並みに、少しは遊びたいところです。
さて、そんな中、今号のテーマですが、
先の出張ネタから、もうひとつ取り上げます。
いったいなんでそんなものをワザワザ……。
というため息がみなさんから漏れたら大成功。
コリアうめーや!!第292号。
アメリカンな気分で、スタートです。

<松炭が誇るアメリカンなグルメ!!>

韓国の地名などを日本語で表記する場合、
ときに旧字体と新字体の扱いがややこしい。

韓国ではハングルが基本的な表記だが、
もともとは漢字語も多く、漢字表記も併用される。
ただし、それは日本でいう旧字体であるため、
日本人が見るとややいかめしい印象もある。

例えば、地下鉄の駅名表記では、

「市廳(市庁/シチョン)」
「海雲臺(海雲台/ヘウンデ)」
「舊盤浦(旧盤浦/クバンポ)」

といった感じである。
個人的にはこういった密度の濃い漢字が好きで、
思わず何画の漢字なのか確認したくなる。

これは僕の出身大学が東京学芸大学で、
正門に掲げられた、

「東京學藝大學」

という看板を日々見ていたのもあるだろう。

ただ、こうした表記が原稿の中に混ざってくると、
これは校正上、ひとつひとつ直さねばならない。
同じ本の中に「市庁」と「市廳」の両方があった場合、
違う駅かと誤解される危険性があるからだ。

なお、僕が原稿を書く場合は固有名詞を除き、
基本的にすべて新字のほうを使うことにしている。
唯一の例外が「竜」を「龍」とすること。

「龍山(竜山/ヨンサン)」
「龍仁(竜仁/ヨンイン)」
「鶏龍(鶏竜/ケリョン)」

といった感じである。
いろいろ理由はあるのだが、最終的には自分の好み。
原稿によっては「竜」とする場合もある。

だが、最近になって。

その「龍」以外にもうひとつ増やそうか、
例外について真剣に悩む事案があった。

問題となったのは京畿道のピョンテクという地名。

僕の中ではずっと「平澤」だったのだが、
よくよく考えると「澤」は「沢」の旧字である。
ならば、ここは「平沢」と改めるべきだが、
なんというかこの……。

押し寄せる「ひらさわ」感!

どうも「平沢」表記は違和感があるのだった。
いや、僕の勝手な思い込みだけどね。

まあ、いたずらに例外を増やすのもなんなので、
とりあえず平沢は脇に置いて話を進める。

というのも、ここで本題としたいのは、
平沢市内の松炭(ソンタン)というエリア。

一見して、松の炭焼きで栄えた町にも見えるが、
松荘、炭ヒョンという2つの地名からとったものだ。
(※炭ヒョンのヒョンは山へんに見)

1981年には松炭邑から松炭市として昇格し、
その後、1995年に平沢市へと統合されている。

現在は駅名として松炭駅が残っているものの、
住所としては新場洞(シンジャンドン)一帯を指す。
ソウル駅から地下鉄で1時間30分程の距離だ。

この松炭を象徴するひとつの単語が、米軍基地。

市内に「烏山(オサン)空軍基地」があり、
その歴史は朝鮮戦争中の1951年からと古い。

基地の周辺には英語の看板が折り重なっていて、
米軍関係者とおぼしきアメリカ人を多く見かける。
ちょうど基地の正門前は、

「新場(シンジャン)ショッピングモール」

と呼ばれる商店街となっているが、
歩いてみると、地方の小都市とは思えない異国感。
ソウルの梨泰院(イテウォン)に近いといえば、
だいたいの雰囲気が伝わるだろうか。

その松炭で、ぜひとも食べたかったのが、
米軍基地の前に店がある名物のハンバーガーだ。

わざわざ韓国まで行って食べなくても、
と思われるかもしれないが、これも地元の味。
韓国の佐世保バーガーとでも思って欲しい。

また、ハンバーガーといえども韓国らしいことに、
基地の前で2軒の店が元祖争いをしている。

一応、創業店とされているのが……。

「Miss Leeハンバーガー」

で、1982年にリヤカー屋台としてスタート。
そして、その創業者が辞めるときにレシピを習い、
屋台を引き継いだとされているのが……。

「Miss JINハンバーガー」

である。

その後、両者が別々に店舗を構えたことで、
よく似た名前の店がすぐ近くで営業することになった。
そんな光景がハンバーガー店でも韓国らしい。

なお、創業時の韓国ではまだファストフードが珍しく、
ロッテリアが1979年に1号店を出したばかり。
地方の小都市では気軽に食べられるものではなかった。

ちなみに他のファストフード店も……。

・バーガーキング(1984年)
・ケンタッキーフライドチキン(1984年)
・マクドナルド(1988年)

と、1982年の段階ではお目見えしていない。

そこで創業者のミス李……。

あ、そうそう、店名は「ミス李」となっているが、
実際の創業者は「ミセス郭」であるらしい。
郭(クァク)という発音がアメリカ人には難しいので、

「じゃあ、ミス李でいいや」

ということになったのだとか。
このへんのユルさも韓国らしい部分だろう。

ともかく、そのミス李ことミセス郭が、
試行錯誤のうえ、自家製のハンバーガーを作って販売。
故郷の味を懐かしむ、米軍関係者から好評を得て、
いつしか地域の名物になったという訳である。

実際にその「Miss Leeハンバーガー」で、
オリジナルバーガー(チーズバーガー)を頼んでみた。

カウンターで注文し、バーガーを受け取るスタイル。
ドリンクのみ、脇の冷蔵庫から自分で取る形だが、
よくあるファストフードの形態そのままといえよう。

ほどなく注文したオリジナルバーガーが登場し、
カウンター前の座席でガブッと頬張った。

「むぅ、なかなかボリュームのある食べ応え!」

ハンバーグ、スライスチーズ、目玉焼きに、
千切りキャベツとスライスタマネギがどっさり入る。
マスタードとケチャップが味付けのベースとなり、
アクセントのピクルスが途中で顔を見せる。

いかにも正統派のハンバーガーにも思えるが、
食べていくと、不思議とひとつのことに気付く。
この目玉焼きの入ったバーガーは……。

「どことなく韓国式のトーストに似ていないか!?」

そう、屋台などで販売されるアレ。
焼いた食パンに、ハム、チーズ、卵焼き、野菜。

気付いてみれば、具の組み合わせはほぼ共通。
おそらくメインのハンバーグにあまり存在感がなく、
サイドの具が、前面に出ているからだろう。

なるほど、韓国式トーストの亜流と考えれば、
ハンバーガーも韓国料理の範疇に思える。

その後、「Miss JINハンバーガー」もハシゴしたが、
味、スタイル、食べての感想はほぼ同じだった。

さて、ここからまとめである。
僕はここまで文中でさりげなく(あからさまに)、

「韓国らしい!」

という点を強調してきた。
ハンバーガーという完全に西洋の料理であるが、
その背景には韓国らしさが詰まっている。

「だからこれは松炭の郷土料理なのだ!」

という落とし所を目指したものだ。
だいぶ強引な力技だが、その無理やりな着地から、
どうせなら話をもう1歩進め、

「京畿道らしい!」

という部分もアピールしたいと思う。

そもそも京畿道は首都ソウルを囲む地域であり、
広域市の仁川(インチョン)を含め、玄関口の役割を担う。
往々にして、こうした玄関口の地域は文化の入口であり、
異文化との衝突、融合が日常として根付いている。

うんうん、うむうむ。

先の「韓国らしい」理論よりもっとウルトラCだが、
異文化との融合は「京畿道らしい」特徴のひとつ。
例えば、他地域にはこんな事例がある。

・仁川の中華料理(中国文化との融合)
・議政府(ウィジョンブ)のプデチゲ(米国文化との融合)
・安山(アンサン)の多文化料理(各国文化との融合)

仁川には国内最大の中華街があって料理も多彩。
議政府は米軍基地から流出したソーセージなどの缶詰肉を、
韓国式の鍋料理に仕立ててプデチゲを生んだ。

最後の安山だけ少しマイナーだが、
市内の元谷洞(ウォンゴクトン)に約2万人の外国人が居住。
東南アジア、中央アジア諸国を出身とする人が多く、
それぞれの国の料理が地元の名物となっている。

この超理論になぞらえれば、

「松炭のハンバーガーはまさに京畿道料理だ!」

という結論に達する。
あきれ顔の読者を尻目に……。

高笑いで幕。

<店舗情報>
店名:Miss Leeハンバーガー
住所:京畿道平沢市新場2洞298-88
電話:031-667-7171

店名:Miss JINハンバーガー
住所:京畿道平沢市新場洞302-94
電話:031-667-0656

<お知らせ>
3月21日(木)に新刊が発売になりました。

タイトルは「韓国料理には、ご用心!」。
版元は三五館、定価は1260円(税込)。

ここ10年ほどの日本における韓国料理事情を、
ギュッとまとめて整理をしたという内容です。
http://koriume.blog43.fc2.com/blog-entry-1503.html

<リンク>
ブログ「韓食日記」
http://koriume.blog43.fc2.com/
Twitter
http://twitter.com/kansyoku_nikki
FACE BOOK
http://www.facebook.com/kansyokunikki

<八田氏の独り言>
松炭はプデチゲ、チャンポンでも有名な町。
そこにも異文化との融合が色濃く見えています。

コリアうめーや!!第292号
2013年5月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com

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