白金高輪「高矢禮」で高矢床(5万円コース)。

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昨日、2月末日で「高矢禮」が休店しました。

閉店ではなく、あくまでも一時休業ということなので、
また場所を変えて、新たに営業を始める予定だそうです。
また、錦糸町と名古屋の栄にある「高矢禮火」は営業しています。

ただ、鳴り物入りでオープンした白金高輪の「高矢禮」は、
その凝った外装、内装も含めて、これで見納め。

これまでも取材で行ったり、友人の結婚式に参加したり、
イベントに呼んで頂いたり、韓国のテレビ番組の取材を受けたり。
いろいろな形で「高矢禮」には足を運んできましたが、

「そういえば食事を目的に行ったことがなかった!」

という重大な事実に気付きました。
もちろんそれぞれのときに料理は頂いていましたが、
純粋に食事だけのために足を運んだことはありません。
それを反省し、2月中旬にプライベートで行ってきました。

まあ、ちゃんと自分で電話をし、八田の名前で予約したにもかかわらず、

「え、本当に八田さんだったんですか!?」

と店の人に驚かれましたけどね。
それもそのはず、予約したのが5万円のコース。
最後だからと奮発して、いちばん高いコースを選んだ次第です。

ちなみに同行したのは妻なので、僕の出費は10万円+もろもろ。

いっそ「港区オフ会」を会費6万円でやろうかとも考えましたが、
富山オフ会」以上に人が集まらないだろうと思ってやめました。

ということで冒頭の写真は、VIPルームに用意された2名席。

5万円コースを頼むと、自動的にこの部屋へ案内されます。
というか、この部屋の利用料を含めての5万円コース。
そもそもの入口も違いますし、トイレなども専用です。

これまでもイベントの控室として利用していましたけどね。

なので、どうせ2名だし、普通の個室でと最初はお願いしたのですが、
いえいえ、せっかくですからと、お店の方からこちらをすすめて頂きました。
妻も喜んでいたので、結果的にはこちらにしてよかったです。

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座席についた時点で、並んでいた器はこんな感じ。
ひもがついている左の紙は、高矢床用の専用メニューでした。

また、器も他のコースとは違って人間国宝の作ったもの。
方字鍮器と呼ばれる真鍮の器で、李鳳周先生の作です。
こういったものも5万円コースの一部だそうです。

以下、すべての料理を漏らさず紹介したいと思います。

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まず、前菜から。
この皿のみ2名でシェアする形でした。
後の料理は食事を除き1皿が1人前となっています。

・宮中おつまみ

中央にあるのがエビを粉状にして甘く味付けて固めたもの。
エビ味のタシク(らくがん)というような味わいでした。

その手前がキムプガク(海苔に粉をつけて揚げたもの)。
左がスンオアル(からすみ)、上がドライフルーツ、右が干し柿。
ドライフルーツはプルーンとパイナップルの2種でした。

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・チョンボッチュク(アワビ粥)

柔らかなアワビがどっさり入っていました。
コースの最初にお粥が出てくるのは宮中料理の基本。
胃に少し入れることで食欲を増進させます。

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・トンチミ(大根の水キムチ)

酸味が絶妙でしたね。お粥と一緒に味わいます。

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そして、実際には後から運ばれてきましたが、
ここまでの4品が、前菜ということになっていました。

・大地の恵みの生野菜

手前からアイスプラント、赤カブ、ミニトマト。
左奥に見えているのはサムジャン(合わせ味噌)です。

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生野菜を除いた前菜とともに、最初からあったのがこちら。
前菜に続いてメニューに並ぶ、惣菜4品です。

・チャンジョリム(牛肉の醤油煮)

ロールになって出てくるのは初めて見ました。
外側を葉ネギで巻いていますが、芯にも葉ネギが使われており、
葉ネギを牛肉で巻いて、それを葉ネギで巻いたもの。

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・ホンハプチョ(ムール貝の煮付け)

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・季節のナムル3品

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・オジンオガンフェ(イカの刺身)

素材をロール状に仕立てた刺身をカンフェといいますが、
一般的には葉ネギやセリをぐるぐるっと巻いて作ります。

最初はミルサム(小麦粉のクレープで野菜を包んだもの)に見え、
料理説明でイカの刺身だと聞いて、びっくりしました。
赤いソースはチョジャン(酢とコチュジャン)です。

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最初に1杯ビールを飲みましたが、次からは「GRAVELLO」。
漫画『神の雫』で韓国料理に合うと紹介された銘柄です。

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ここからが主料理。

2品ずつ5回に分けて料理が出されました。
まず最初の主料理。

・ナムルクジョルパン

そば粉のクレープで周囲の素材を包んで食べます。
クレープの中央には「高矢禮」の焼き印が押されていました。

具は12時の位置から時計回りに、赤パプリカ、錦糸卵(卵黄)、
エビ、キノコ、カニ、ピーマン、ニンジン、牛肉、錦糸卵(卵白)。
味は具についているので、包んでそのまま食べます。

ただこれ、食べたときにも思ったのですが、
周囲の具を数えると、9種類あるんですよね。

たいていクジョルパンって、中央のクレープを入れて9種類。
ひとつ具が多いような気がするのですが、これは意図があるのか……。
いずれ機会があれば、料理長に聞いてみたいと思います。

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・イセエビの刺身

イセエビには砕いた松の実が降りかかっています。
左上のチョジャンか、ゴマ油と塩のタレで味わいます。

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2回目の主料理。

・季節の串焼き3品

手前から、

・ファヤンジョク(牛肉と野菜、卵の串焼き)
・サスルジョク(牛肉と白身魚の串焼き)
・安東パサンジョク(牛肉と葉ネギの串焼き)

というラインナップです。
上の2種はともかく、安東パサンジョクは初めて存在を知りました。
調べたところ、安東地方で作られてきた両班の料理である様子。

「高矢禮」の料理長は宮中料理の腕もさることながら、
地方のマニアックな郷土料理にも精通していらっしゃるんですよね。
「高矢禮」の料理はよく宮中料理としてひとくくりに語られますが、
各地域の班家料理(両班家庭の料理)も重要なポイントのひとつです。

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そして、串焼きと一緒に出てきたのが、

・キュウリと栗のセンチェ

センチェというのは生野菜の和え物です。
いちばん上の飾りはナツメ。ほんのり甘いソースと、
キュウリ、栗の食感がよくマッチしていました。

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3回目の主料理。

・インサムティギム(高麗人参の天ぷら)
・オクトムグイ(アマダイ焼き)

なんとも立派な高麗人参でしたね。
にもかかわらず、柔らかくてほろ苦さも控えめ。
アマダイもずいぶん脂が乗っておりました。

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いずれも脂の強い料理だったので、
一緒に添えられてきたのはこちら。

・メシルチャンアチ

刻んだ梅をコチュジャンに漬けたもの。
甘さ、辛さが上品で、いい箸休めになりました。

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このあたりでワインが1本空いて伝統酒に。
ひと口ずつ試飲できるセットがあったのでそれを頼みました。
左から、

・ムンベ酒(梨の香りがする蒸留酒)
・高麗人参酒
・梨姜酒(梨とショウガの蒸留酒)

の3種類です。
いずれもアルコール度数が高く、いい感じに酔っ払いました。
ちなみにムンベ酒は韓国に3つしかない文化財指定酒です。

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4回目の主料理。

・テハチム(エビの蒸し物)

すり身状にした身と野菜などを混ぜ、
エビの殻に戻して蒸したもの。
食感がふんわり柔らかでした。

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一緒に登場したのは……。

・ミニポッサム

ひと口サイズに作った包みキムチですね。
中には果物が入っており、甘味がさわやかでした。

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いよいよ最後の主料理。

左のかたまりがトッカルビ(叩いたカルビ焼き)で、
その隣に特選カルビと、特選ハラミが並んでいます。
トッカルビに重なって高麗人参、いちばん右に大黒シメジ。
牛肉はいずれも米沢牛を使っております。

味付けもさることながら、肉のよさが際立っていました。
あと個人的には、付け合わせの大黒シメジが好印象。

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肉料理と一緒に、

・コッチョリ(浅漬けキムチ)

が出てきました。
ここまででだいたい主料理の組み合わせがわかるかと思いますが、
メインの料理とそれを引き立てる料理がセットになっています。

以上で5回に渡った主料理が終わり、今度は食事です。

アルコールと一緒に味わう酒肴的な料理ではなく、
麺料理やごはん料理など、最後を締めくくるための料理。
運ばれてきたのは……。

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・神仙炉(シンソルロ)

中央が筒状になっており、炭火を入れて、
熱しながら食べる鍋のことを神仙炉と呼びます。
料理の正式名称は、

・口資湯(クジャタン)
・悦口資湯(ヨルグジャタン)

と呼ばれますが、現在は通称として料理名も神仙炉。
宮中における代表的な鍋料理のひとつです。

牛スープをベースに、塩、醤油であっさりと味付け、
魚介類、ジョン(衣焼き)、野菜などを彩りよく配置。
肉団子やギンナンなども入る贅沢な料理です。

これを汁物としつつ……。

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・釜炊きのごはん

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・焼海苔

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・白菜キムチ

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・明太子

が一緒に並びます。
明太子は卵の間に挟んで蒸してありました。
上に飾ってあるのはクコの実です。

最後の最後まで手が込んでいましたね。

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デザートに、

・季節の果物(メロン、イチゴ)
・ホバクチャルトク(カボチャ餅)
・五味子茶(チョウセンゴミシ茶)

が出て、これでコースは終了。
全部で何品出たのか、数え切れないほどでした。
当然のごとく満腹で、一部は食べきれず持ち帰りに。
翌日自宅で、もう1度楽しませて頂きました。

以上が、「高矢禮」が誇る5万円コースの全容。

高いと感じるかどうかは、人それぞれだと思いますが、
僕にとっては貴重な体験であり、充分納得の額でした。
韓国料理としては最高峰のコースだったと思います。

ただ、それは僕が韓国料理のライターだからであり、
今後、この体験を蓄積として活かせるからかもしれません。

普段の食事で5万円を使える人はさほど多くないでしょうし、
特別な日だとしても、1人5万円はけっこうな予算です。
「高矢禮」のコースは5万円の下が2万円のコースですが、
それと比べても、倍以上の価値がある料理かは難しいところ。

VIPルームを使えるとか、器がより高級になるとか、
そういったまわりのもろもろを含めての5万円コース。
満足できるかは、結局のところ個人の感じ方かと思います。

食べながら思ったのは、こういった5万円のコースを、
日常的に食べているような世界の人がどう感じるかということ。
僕はその世界を知らないので、実際に食べても判別つきませんが、
真に問われるべきは、その人たちが5万円の価値を感じるかでしょう。

言いかえれば、同じ予算で中華やフレンチなどを食べ、
同程度の満足感があるか、といった比較でも語れると思います。

そしてそれは「高矢禮」という店単体がどうこうではなく、
むしろ世界化を目指す韓国料理そのものが抱えるポテンシャル。
料理の周辺にあるサービスや文化などもろもろを含めて、
韓国料理の成熟度がどの地点にあるかを証明するものでもあります。

その意味からも、現状韓国料理の5万円コースはこういうものだと、
ひとつの目安を体感、そして記録できたのは何よりの喜びです。

今後、「高矢禮」がどのような形で営業を再開するかわかりませんが、
個人的な予想では、再開したとしても単価は落とすのではないかなと。
新大久保の好景気とは対照的に、韓国料理の高級店は撤退が目立ちます。

韓国料理の高級化はチャングムブームに端を発したものですが、
そこから数年経って、韓流の主流もK-POP方面に移りました。
大きな流れの一部として、韓国料理の在り方も変わっているのでしょう。
「高矢禮」の休店はその象徴的な例といえるのかもしれません。

新たに生まれ変わる「高矢禮」がどのようなスタイルになるのか。
そういった意味からも、おおいに興味深いところです。

ちなみに、ふと思ってソウルの「宮宴」のメニューを見てみましたが、
いちばん高いコースで1人前15万5000ウォンでした。
「チファジャ」でもやっぱり同じ値段のコースが最高値ですね。

もちろん料理の値段なんて、上を見ればキリがないのでしょうが、
ソウルにおけるコースの上限は、このあたりに設定されているようです。
それを考えると、「高矢禮」の5万円はやはり破格の値段ですね。

「今後、5万円の韓国料理に出会える機会はないかもしれない」

と思ったのも今回食べに出かけた大きな動機。
貴重な体験をさせてくれた「高矢禮」に感謝したいと思います。

店名:高矢禮(休店中)
住所:東京都港区白金1-25-19プレシーズビル新館1、2階
電話:03-5791-3331
営業:11:00~15:00、17:00~23:00
定休:なし



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