コリアうめーや!!第257号

コリアうめーや!!第257号

<ごあいさつ>
11月15日になりました。
いよいよ気温もぐっと下がって冬の気配。
今年も残り1ヶ月半と押し詰まり、
年末気分まであと1歩となっています。
なにしろあと半月もすれば師走の声。
忘年会や、大掃除、年賀状書きに奔走し、
ふと気付けば大晦日という流れが予想されます。
師走の声を聞いてバタバタする前に、
今年やるべきことを整理せねばですね。
そんな殊勝なことを思いつつ。
今号のメルマガのテーマですが、
少し変わった設定で書いてみたいと思います。
端的に表現するならば、楽屋話の一種。
どれだけの人が面白がってくれるか微妙ですが、
ある特定の人には受けるかもしれません。
コリアうめーや!!第257号。
幕の裏から、スタートです。

<取材者K・F・Cの苦悩!!>

僕の日常に「取材」という仕事がある。

僕の肩書きはコリアン・フード・コラムニストなので、
取材先となるのはほとんどが韓国料理店。
日本の韓国料理店ももちろん取材に出かけるが、
年に何度かは韓国に行って取材を行う。

店の人から話を聞いて、撮影、試食をして、
記事に仕上げるというのが基本的な流れ。
これらは仕事の中でも楽しい部類に入るものだが、
その一方で、

「悩ましい!」

部分も無数に含まれる。

どんな仕事も楽しいばかりではないが、
取材中のトラブルは心を直撃するものが多い。

そもそも韓国に出ての取材ということは、
日程に制限があり、編集部とも隔絶されている。
大なり小なり、現場での判断が重要となり、
そういった点でも悩むべき部分は多い。

しかも悩み事の大半は韓国的要素によるもので、
仕方ない反面、行く先々で頻繁に出会う。
むしろ、取材のたびに何らかの苦悩にぶつかる。

もちろん結果オーライならば苦悩も楽しい。

メルマガのテーマとしてはやや異色だが、
今回は取材の体験談を裏話的に紹介してみたい。
場合によっては店側への不満に見えるかもしれないが、
決して悪意はなく、それもまた韓国らしい姿。

少し特殊な「韓国あるある」だと思って欲しい。

シチュエーションごとに区切りつつ、
その状況に応じた苦悩をまとめていく。

<店舗訪問時>

苦悩1、取材を忘れられている
苦悩2、店の責任者に話が通っていない
苦悩3、そもそも店が開いていない

やはりいちばん緊張するのは訪問時。

取材相手がどんな人かもわからないし、
きちんと話が通っているかという不安がある。
時間通りに店を訪れても、

「え、取材って今日だっけ!?」

ということはしばしば。
それでも店にいてくれればまだいいが、

「いま社長いないんですよ」

という状況もある。

なんとか社長に連絡をつけてもらい、
不在でも取材をするか、緊急で来てもらうか。
最悪の場合はスケジュール変更を余儀なくされる。

苦悩2のケースもいきなり胃が痛いが、
アポイントがあれば、話は比較的通りやすい。
責任者さえいれば、一応はなんとかなる。

逆に、

「あ、取材ね。聞いてるよ」

と迎えられると心からホッとする。

苦悩3はほかのふたつに比べれば稀な事例。
だが、店に着いて、シャッターが下りていると、
全身から力が抜けて膝から崩れ落ちる。

<趣旨説明時>

苦悩1、大忙しで取材どころではない
苦悩2、致命的な禁則事項がある
苦悩3、取材がなんだか理解されていない

無事、店の責任者と対面して、
名刺を出したら、改めて取材趣旨の説明をする。
媒体概要、企画の意図、撮影内容など。

たいていはトントンと話が進んでいくのだが、
この時点で初めてわかる苦悩要素もある。

苦悩1の事例はたまたま店が忙しい場合。

昼時など混雑する時間帯は基本的に避けるが、
たまたま団体客が来て、忙しいことはままある。
あるいは店のスタッフが足りていなかったり。

苦悩2の禁則事項とは、

「営業中だから写真撮影は止めてね」

といった事例。
写真が撮れないと紙面が作れないので、
必死に事情を説明することになる。

苦悩3は地方の穴場店にありがちな場合。

取材って何するの? という店がままある。
これは他媒体の取材が入っていないということで、
基本的には特ダネとして喜ぶべき事例である。

だが、こういった店では往々にして、

「なんか日本人が食べに来るって」

ぐらいにしか理解されていない。
撮影機材のものものしさを見て何事かと驚かれ、
そこからまた何度目かの説明が始まる。

<撮影料理の選定時>

苦悩1、予定の料理がない
苦悩2、意図していない料理の推薦
苦悩3、看板料理が超高額

店の人に取材の趣旨を理解してもらえたら、
次は写真に撮るべき料理を相談で決める。
あるいは企画が決まっていればその了解を得る。

専門店の場合はその時点で料理は確定なので、
サイドメニューをどうするかを考える。
メニューの多い店では人気の料理を尋ね、
その中から適宜、選択をしていく。

この時点で起こり得るのが苦悩1、2の事例。

事前調査で撮影しようとしていたものが、
季節や仕入れの関係でなかったりする。
あるいは仕込みが間に合っていないこともある。

そして、苦悩2のケースは人気店に多く、
他媒体での取材が、その背景だったりする。

先週、他の雑誌が人気料理Aの取材をしたので、
今度は別のBという料理にして欲しいという感じ。
取材側としても、同時期の似た記事は避けるべきだが、
この店はこれじゃなきゃ、ということもある。

苦悩3は予算との兼ね合い。

例えば、奮発して超高級魚の刺身を撮るか、
リーズナブルな魚でお茶を濁すかという選択肢。
自信の食べたい欲求もあいまって大変に悩む。

<インタビュー時>

苦悩1、予想外の事実が発覚
苦悩2、料理の秘訣がすべて精神論
苦悩3、時間がないのに先方が話好き

撮影する料理が決まったらインタビュー。
社長、あるいは料理長に話を聞く。

ここで発覚するのが、

「こちらはオープンして何年目ですか?」
「前のオーナーが始めたのは15年前だね」

「前のオーナー?」
「うん、私が後を引き継いだのが半年前」

といった事態。

韓国は店の経営者がコロコロ変わるうえ、
看板やメニューもそのままに店が続いたりする。
人気料理や常連客ごと売り渡すという感覚があり、
場合によっては従業員もそのまま残る。

ほかにも、

「再来月ぐらいに移転する予定」
「メニューを含めてリニューアルを検討中」
「店の名前も変えようかと思っている」

なんて話がゴロゴロある。
取材を始めてから焦るケースは逃げ場がない。

苦悩2は、話に具体性がない場合。

「愛情を込めて料理を作るのが秘訣!」
「ウチはよい材料で丁寧に作るから美味しい!」
「韓国料理は『手』の味!」

といった話はよく出会うが記事にならない。
韓国人の好む漠然とした精神論をくぐり抜け、
具体例を引き出していくのは骨が折れる。

苦悩3は、時間さえあれば嬉しいケース。

また、時間があった場合でも、長く話を聞いたのに、
原稿は100文字とかで心苦しいことも多々。

<写真撮影時>

苦悩1、料理があまりに撮影用
苦悩2、撮影の意図がうまく伝わらない
苦悩3、酔客が俺を撮れアピール

苦悩1の例がもっともよくあるパターン。
取材だからといって、いつもより量を増やしたり、
あるいは特別な材料が載っていたりする。

「いつも通りにしてください!」

とお願いはするのだが、普段を知らないと、
その判別がつかないこともままある。
後々、読者からのクレームにもつながる危険な事例。

苦悩2は、こちら側の都合。

肉をハサミで切るシーンなどを撮りたいときに、
店の人に実演してもらう場合が頻繁にある。

「肉の半分までハサミを入れて止めてください!」

などと頼むのだが、話がうまく伝わらないと、
シャキンシャキンと切られて慌てることに。
撮影のイメージをその場で正確に伝えるのは難しい。

苦悩3は、悩ましいけど微笑ましい展開。

店によってはいいカットになるので、
酔っ払い具合によるともいえる。

<試食時>

苦悩1、撮影料理以外が山ほど出てくる
苦悩2、生ビールまで出てきちゃう
苦悩3、お土産もいっぱい持たされる

話を聞き終えて、写真も撮れたら喜びの試食。
美味しく食べてこそ、よい記事が書ける。

そんな試食時の、嬉しいけど悩ましい3連発。

大歓待されたときにありがちなことで、
取材に来たのか、飲みに来たのかわからなくなる。
その店が最後の取材であれば大変幸せだが、
後の予定があると、これは苦悩が深い。

取材が重なっていれば満腹は禁物であるし、
ましてアルコールの摂取は論外である。
お土産を頂くのも大変ありがたいことなのだが、
キムチを大量に抱えて次の店には行きにくい。

ひたすらに頭を下げて辞退をする。

と、ここまでを経てようやく取材終了。

これらの苦悩がすべて重なる訳ではないが、
まったく苦悩がないというのも少ない。
無事に取材が終わると、心の底からホッとする。

だが、ホッとしたのもつかの間。

韓国取材では1日に何軒もまわることが多く、
その場合はまた、<店舗訪問時>から再スタート。
数多くの苦悩と戦いを繰り広げることになる。

楽しいけども悩ましい取材の日々である。

ちなみに取材は取材で終わったとしても、
ライターの場合は、その後さらに原稿書きがある。

取材内容の整理をして、店舗のデータをまとめ、
原稿を書いて、写真にキャプションをつける。
紙面が出来上がったら、データの確認と校正を行う。
場合によっては店舗に確認をとることもある。

そして、そこで生まれる最後の苦悩。

<校正時>
苦悩1、取材後の予想外

店側の原稿確認で間違いが見つかるのはいいが、
リカバリー不可能な事態がごく稀に起こる。

最悪の展開は、

「ウチ、閉店することになりました」

といった事例だ。

発売直後の閉店よりはまだマシだが、
撮った写真も、書いた原稿も、すべて水の泡。
どころか穴埋め取材の必要まで出てくる。

すべての作業が終わるまで気が抜けない。
それが韓国取材の苦悩であり醍醐味である。

取材は楽しく、そして悩ましい。

<リンク>
ブログ「韓食日記」
http://koriume.blog43.fc2.com/
Twitter
http://twitter.com/kansyoku_nikki
FACE BOOK
http://www.facebook.com/kansyokunikki

<八田氏の独り言>
改めて書きますが不満ではありません。
苦悩を含めても楽しいのが取材です。

コリアうめーや!!第257号
2011年11月15日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



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