コリアうめーや!!第248号

コリアうめーや!!第248号

<ごあいさつ>
7月になりました。
僕の住む東京は、暑い日が続いており、
昨日まで6月だったのが信じられません。
感覚としては、もはや盛夏ですね。
節電を心がけて扇風機で頑張っていますが、
パソコンの前で汗ダラダラの毎日です。
もともと夏生まれで暑いのは好きなのですが、
この夏を乗り切るとなるとやっぱり不安。
熱中症などにも注意を払いつつ、
賢く節電していきたいと思っております。
さて、そんな中、今号のメルマガですが、
前号、前々号に引き続いての韓国出張話です。
今回取り上げる地域は麗水(ヨス)。
麗しい水で、麗水という名前がいいですよね。
そんな麗水の地で、どんな料理に出会ったのか、
早速、語っていきたいと思います。
コリアうめーや!!第248号。
来年を見据えての、スタートです。

<フェリーに乗ってハモを食べに!!>

人生、後ろを振り返ってみると、
恥の山積に、思わず頭を抱えることがある。
ネット上ではそれを「黒歴史」と呼ぶが、
僕の過去にも、真っ黒な部分は多い。

拙い文章に、むしろ顔が真っ赤になる思いだが、
まずはここから始めるべきという過去がひとつある。
2002年10月15日に配信した第39号。

第39号/韓国のアナゴ、ウナギ、ハモ!!
http://www.koparis.com/~hatta/koriume/koriume39.htm

この号で僕は……。

・日本ではウナギやハモに比べて、アナゴは格下
・だが、韓国ではむしろアナゴのほうが格上
・韓国のアナゴは炭火焼きに真価がある

といったことを書いた。

これは要するに、この数ヶ月前に釜山へ行き、
アナゴの炭火焼きを食べて美味しかったという話だ。
ならば、それをストレートに書けばよいものを、

「ウナギ、ハモを蹴散らしてアナゴにステータスを!」

というようなことを考えたのだろう。

日本のアナゴは決してウナギ、ハモに劣らないし、
増して、韓国における扱いが取り立てて高い訳でもない。
アナゴはアナゴで、ウナギ、ハモもそれぞれ。

ただ、この当時の僕は「強引な文脈」を気に入っており、
話に無理があればあるほど面白いと勘違いしていた。
事実、文章のいちばん最後、独り言の部分で、

=========================
ウナギとハモの本場にも行くつもりです。
アナゴ派からウナギ派、ハモ派へと素早い変わり身を見せる予定です。
=========================

というようなことを書いている。

これはアナゴを絶賛したけど、あくまでもネタで、
別の地方でウナギやハモを食べたら手のひらを返しますよ。
と、姑息な手段で、予防線を張っているのだ。

文中でも全羅北道高敞(コチャン)のウナギと、
全羅南道麗水(ヨス)のハモについて触れている。
ちょうど時期的にも長期で韓国の地方を巡る予定があり、
僕はこれらを訪れて3部作にしたかったのだろう。

だが、その予定は残念ながら果たされなかった。

よって、第39号は韓国のアナゴをもてあそび、
ウナギとハモを軽視しただけの結果となった。
振り返るに、惨憺たる気分となる黒歴史である。

結局、僕が高敞でウナギを食べたのは2008年10月。

第199号/干潟で育てる天然「化」ウナギとは!!
http://koriume.blog43.fc2.com/blog-entry-996.html

そして、今年5月に僕は麗水を初めて訪れ、
3部作の最後を飾るハモをついに食べたことになる。
ここから始まるハモに関するレポートは、
実に8年半にも渡る、黒歴史の解消でもあるのだ。

さて、麗水。

長いこと、個人的にな憧れもありながら、
行く機会がなかったのは地理的な問題も大きい。

南海岸沿いにあって行政的には全羅南道に属すが、
地理的にはちょうど慶尚道との境目に位置する。
ソウルからも、釜山からも行きにくい場所であり、
何かのついでで立ち寄るということもまずない。

ちなみに、ソウルから高速バスで4時間半。
釜山からだといくらか近いが、それでも2時間40分。
一応、麗水空港があって金浦空港から1日8便出ているが、
基本的には、なかなか足の向かない地域である。

その、麗水に今回、強い意思を持って出かけたのは、
やはり来年に控えた「麗水万博」の存在が大きい。

「生きている海と沿岸」

をメインテーマとしつつ、
環境保護や海洋資源開発を考えるのが狙い。

愛知や上海に比べると規模の小さな認定博覧会だが、
それでも現在までに100を超える国と地域が参加を表明。
日本も含まれており、来年は麗水の話題が増えるはずだ。

「ならば、先手を打ってネタを拾っておかねば!」

ということで麗水を訪れた次第である。

麗水の市外バスターミナルに到着すると、
その近辺には、安いモーテルがたくさん集まっていた。
まずは、そこに荷物を置いて情報収集を行う。

事前にハモ料理の専門店は目星をつけておいたが、
土地勘がないので、移動方法がよくわからない。
距離があるならタクシーをつかまえて……。

と思っていたら、意外な情報にぶつかった。

ハモ料理の専門店「鏡島会館」へのアクセス方法。
大鏡島行きの船着き場からフェリーで5分。

……フェリーで5分?

ガイドブックの取材などもしている関係上、
飲食店へのアクセス情報は自分でもよく書く。
だが、普通は徒歩5分とか、車で5分とかであり、
フェリーで5分という表記は初めて目にした。

麗水には全部で300ほどの離島があり、
そのひとつにハモ料理店が集まっているようだ。

実際、そのフェリー乗り場まで行ってみると、
乗り場というか、ほとんど海岸沿いの道路であった。
海に面して道路がスロープのように下がっており、
そこにクチバシの長い船がずずずっと入港してくる。

目的地の大鏡島はすぐ対岸に見えており、
フェリーというよりも、渡し船に乗るような感覚。
ランドセルを背負った小学生の一団と一緒に、
ばらばらっと乗りこんで往復3000ウォンを支払った。

フェリーで5分という表記に戸惑いはしたが、
地元の人にとっては日常の足なのだろう。

海風を楽しむヒマもないまま大鏡島へ着き、
船着き場のすぐ隣が、目指した「鏡島会館」だった。
海岸に突き出たテラスのような席に陣取り、
壁掛けのシンプルなメニューを眺める。

・ハモユビキ(6万ウォン)
・ハモサシミ(5万ウォン)

このほか、ハモは夏場だけの料理なので、
シーズンオフ用のアナゴユビキが(5万5000ウォン)。
あとは、ユビキ後のお粥とラーメンが1000ウォンと、
アルコールを含むドリンク類でおしまいだった。

ちなみにハモはハングルでもハモと表記。
ユビキ(湯引き)、サシミ(刺身)も同様である。

もともと麗水は日本に向けてハモを輸出しており、
地元でも盛んに食べ始めたのは1990年代からという。
その名残から、いまでも日本語が色濃く残っている。

なお、正しい韓国語でハモはケッチャンオ(干潟の長魚)。
麗水では敬意を込めてチャムジャンオ(真の長魚)とも呼ぶ。
同様にユビキはテチムフェ(ゆがいた刺身)、
そしてサシミはフェと呼ぶのが正しい。

まず、登場したのはサシミである。

見た目としては細造りにしたものを、
どっさりまとめて、まな板に盛った感じであった。
韓国ではアナゴの刺身も同様に出てくる。

ハモといえば、日本では骨切りが大事だが、
この場合の骨切りはどうなっているのだろう。
アナゴなどは骨ごと食べて食感を楽しむが……。

最初のひと口をおそるおそる食べてみると、
やはりきちんと骨切りはなされているようであった。
多少、骨が触ることもなくはなかったが、
基本的には骨を感じずに食べる刺身である。

あるいは、ハモは骨抜きという方法もあるので、
もしかすると、そちらの調理だったかもしれない。
逆に、後から出てきたユビキのほうは、
見るからに骨切りしたものであった。

サシミの食べ方は、他の韓国式刺身と同様、
ワサビ醤油か、チョジャン(唐辛子酢味噌)が基本。
そして、サンチュやエゴマの葉といった葉野菜に、
サムジャンと呼ばれる合わせ味噌も一緒に出てきた。

どの方式で食べてもよい、ということであるが、
ひとつ珍しかったのが生タマネギの存在であろう。

4分の1にカットされた小ぶりのタマネギに、
ハモの刺身とサムジャンを載せて味わうのが麗水式。
要するに、タマネギをサンチュのかわりにするのだが、
これが意外に食感もよく新鮮な味わいだった。

韓国でもハモは梅雨を過ぎるぐらいからが旬だが、
タマネギのほうは、新タマネギが出回る春が旬。

麗水でのハモは5月中旬以降から始まるので、
タマネギを基準にするなら、5月がよいとの話だった。
名残のハモと走りのマツタケが絶妙に出会う、
土瓶蒸しのような出会いが韓国にもあった。

続いて出てきたのはハモユビキである。

こちらはハモのしゃぶしゃぶ的な料理であるが、
鍋に張られたダシが変わっていて、韓方のスープであった。
鍋の中を見ると、高麗人参やナツメも入っている。

これを卓上で火にかけ、ぐらぐらっときたところに、
骨切りされたハモを入れ、軽くゆがいて味わう。

このとき、柔らかな細ニラを一緒にゆがいておき、
ハモと一緒に、特製の韓方醤油につけるのがポイントだ。
季節の割に脂の乗ったハモの上品な味わいに加え、
ニラと韓方の香りも足されてなんとも韓国的である。

料理名から日本的な調理法を想像したが、
実際に食べてみると、これはやはり韓国料理。

そして、ハモユビキをひとしきり食べた後、
残ったスープにラーメンを入れるのも韓国的だ。

ハモという高級魚のイメージをあざ笑うかのように、
投入されるのは、インスタントの三養ラーメン。
ハモのダシが出た韓方スープは途端にジャンク化し、
路地裏のプデチゲと見分けがつかなくなった。

「粉末スープは入れすぎないこと!」

という店の人の真剣なアドバイスが、
なんとも韓国的であり、しみじみとおかしい。

そして、そのジャンクなハモラーメンが、
これまた笑えるほどに美味しかったのである。

サシミとユビキを食べながら海に目をやると、
ちょうど日暮れの時間帯で、真っ赤に染まっていた。
全羅南道の地元焼酎であるイプセジュに酔いつつ、
海を眺めてハモを味わえるのは幸せだ。

やがて夕暮れは、暗闇へと変わっていき、
その頃から、常連とおぼしき団体客が増えた。
会社帰りといった一団が目立ってくる。

仕事終わりの1杯がハモとはやや豪勢だが、
地元の人にとっては馴染みの食材なのであろう。
ソウルで焼肉を食べるぐらいの感覚だろうか。

そんな想像をしながら、ふと気付く。

地元民であるこの人たちも、ハモを食べるためには、
往復3000ウォンのフェリーに乗るのだ。

仕事が終わって、同僚と飲みに行くのに、
ふらっとフェリーに乗って対岸の島に渡る生活。
それは僕らが赤ちょうちんの暖簾をくぐるぐらいに、
ごくごく当たり前の日常風景なのだろう。

その事実に気付いて、僕はなぜかドキッとし、
直後にじわじわとうらやましさがこみ上げてきた。

なんとも粋な暮らしではないか。

来年、万博が開催される麗水。

「生きている海と沿岸」

を具現化したかのような人々の姿を見て、
麗水はいいなぁ、と心から思った。

<店舗情報>
店名:鏡島会館
住所:全羅南道麗水市鏡湖洞621
電話:061-666-0044

<リンク>
ブログ「韓食日記」
http://koriume.blog43.fc2.com/
ツイッター
http://twitter.com/kansyoku_nikki

<八田氏の独り言>
黒歴史を塗り替える深紅の夕焼け。
麗水は本当にいいところでした。

コリアうめーや!!第248号
2011年7月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



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