コリアうめーや!!第243号

コリアうめーや!!第243号

<ごあいさつ>
4月15日になりました。
前号のメルマガは済州島からの配信でしたが、
取材を無事終え、日本に戻ってきています。
済州島滞在中はとにかく毎日食べまくり、
なんと、7泊8日の間に40軒以上を巡りました。
単純計算して、1日5軒というハイペース。
もちろんそれはよい経験であり財産なのですが、
そのツケがだいぶベルトまわりに来ていますね。
胃袋のサイズもずいぶん広がっているので、
食べるのが止まらない今日この頃です。
んー、いつになったらダイエットできるのか……。
まあ、そんな話はさておき、済州島の話。
仕事にかかわる部分は書けませんが、
短いながらも、自由な時間もありました。
そんな中から、印象的だったことを書き綴ります。
コリアうめーや!!第243号。
記憶の糸をたどる、スタートです。

<済州島で思う大阪式済州島料理!!>

前々号のメルマガで書いた通り、
3月末から1週間、済州島取材に行ってきた。
前々号は震災直後の配信だったため、

「本当に行けるかどうか不安だが……」

なんてことも書いたが、無事に行けた。
無事に行けて、無事に戻ってこれたうえに、
その間、東京の家族もみな無事であった。

余震は続いているし、原発はまだ不安定だし、
被災した人たちの苦労はまだ続いている。
自分の周囲だけが無事でも素直に喜べないが、
出張後にもかわらぬ日常があるのはありがたい。

もろもろ不安だらけの出張ではあったが、
時期が時期だけに、印象的な体験もあった。
本題とは無関係だが少し書き残しておく。

まず、韓国に行って感じたこと。

韓国でも震災、原発の報道が逐一なされており、
日本と同様に、目の前の脅威として扱われていた。
済州空港では乗客全員の放射線検査があり、
スタッフがガイガーカウンターを携えていた。

それを見た瞬間、

「いまの時期、日本人は嫌がられやしないか……」

という想像が頭をよぎったのは本音だ。
自分の身体から放射線が出る訳ではないが、
いまや世界的に迷惑をかけている日本人である。
時期が時期だけに、という危惧であった。

だが、結果からいうとそれは杞憂だった。
むしろ、行く先々であたたかい言葉をかけてもらった。

タクシーに乗れば、家族の安否を問われ、
取材先では、日本人代表としてエールを送られる。
あるクリスチャンの料理長は厨房からわざわざ出てきて、
日本のために毎日祈っていると伝えてくれた。

また、取材先が済州島だったこともあり、

「自慢の三多水を送ったからな!」

という話もちらほら耳にした。

漢拏山の岩盤水を組み上げた済州島の水は、
韓国内でも名水と評判の高いミネラルウォーター。
ボトル詰めされて「三多水」の名で販売されている。
それが震災支援として日本に送られている。

日本人としてはなんとも身に染みる思いだ。

一方で、少し戸惑ったのは空港のレンタル携帯。
済州島到着直後に手続きをしようと思ったら、

「日本の方はいまたいへんなので割引が適用されます」
「基本料金と国内通話がすべて無料となっています」
「料金がかかるのは国際通話のみです」

という説明があって驚いた。

観光客として済州島まで来るような日本人が、
携帯代金に困るとは思えないが、これも気持ちであろう。
ありがたく無料割引の恩恵にあずかってきた。

そんな済州島7泊8日の取材。

ひとつの地域にこれだけ滞在することは稀で、
そのぶん、じっくり済州島の食と向かい合うことができた。
その主な成果は7月頃に報告できる予定だが、
取材とは別に、1日だけ自由な時間を確保してきた。

わずか1日ではあるが、収穫はあったので、
その1日について、しっかりと報告をしたい。

今回語るのはコサリについてである。

コサリというのは日本語でワラビのこと。
済州島はワラビの主産地として韓国では有名であり、
食生活の中でも重要な位置を占めている。

今回、取材中に、

「コサリチャンマ」

という単語を教えてもらった。
直訳するならば「ワラビ梅雨」である。

4月にまとまって降る雨が、ワラビの生育を促し、
その後、収穫時期に入ることからワラビ梅雨。
済州島でのみ使われる言葉だそうだ。

ちなみに日本でも似た例がないか探してみたが、

・菜種梅雨(3月下旬から4月上旬にかけて)
・筍梅雨(陰暦の4~5月頃)

という単語が見つかった。
菜の花が咲いたり、タケノコが生える時期の雨で、
いずれも自然の営みを美しく描き出している。
日本にも韓国にも風流人はいるものだ。

そういえば、僕が初めて済州島を訪れたのも4月。

そのとき泊った民宿のベランダで、
ワラビが干されていたのを思い出した。

そんな済州島のワラビ料理をひとつ。
わずかな自由時間を駆使して食べに行った。

その名も、コサリユッケジャンである。

コサリはすでに説明した通りワラビのことで、
ユッケジャンは牛肉を具とした辛いスープ。

素直に解釈するならワラビ入りのユッケジャンだが、
そこで引っかかるのが、そもそものユッケジャンである。
牛肉以外にも大豆モヤシ、芋茎、長ネギといった野菜が入り、
中でもワラビは、必要不可欠といっていい素材だ。

もともと入っている具を、あえて強調する必要はない。

ならば、なぜ済州島のユッケジャンには、
コサリという単語が加わっているのだろうか。

不思議に思いつつ専門店に足を運んでみたところ、
出てきた料理を見て、

「なんぞ、これは!?」

とえらく驚いた。

スープが茶色いのである。

ユッケジャンといえば真っ赤で出てくるのが普通。
牛肉を煮込んだスープに、粉唐辛子や唐辛子油を入れ、
ピリッと刺激的な味わいに作るのが一般的である。

にもかかわらず、コサリユッケジャンは茶色い。

むしろコゲ茶色に近いような色合いで、
およそ、ユッケジャンとは思えない見た目であった。
だが、この色はどこかで見覚えがある……。

しばし思い悩んで、ふと気付く。

茶色ではなく、これはワラビ色なのである。
鮮やかな摘みたてのワラビでなく、乾燥させたワラビ。
あの色が、そのままスープに溶け出ている。

なるほど、スプーンを突き入れてみると、
確かにたくさんのワラビが入っていた。

驚きはそれだけではなかった。

どろっとしたスープに、スプーンを突き入れると、
ワラビに絡んで、細く裂かれた肉片がくっついてくる。
これがなんと牛肉ではなく、豚肉なのである。

ユッケジャンの肉を鶏で応用することはあるが、
豚肉を使ったユッケジャンがあるとは知らなかった。

そもそも済州島は豚の飼育が盛んな島で、
家庭でも古くから、豚を育てて祝い事のたびに食べていた。
逆に牛を食べる習慣は、近代まで非常に限定されており、
そのせいもあって豚で作るようになったのだろう。

あるいはもともとあったワラビの豚スープに、
後からユッケジャンという名前がついた可能性もある。

ともかく済州島のコサリユッケジャンは豚のスープに、
細く裂いた豚肉と、ワラビをたっぷり入れて作る。
その際、豚肉とワラビは手でよく揉み込んで柔らかくするので、
食べるときにお互いがよく絡み、食感も滑らかだ。

そして仕上げとして、これまた済州島でよく使う、
そば粉を加えて、全体にとろみをつけるところが特徴的。

滑らかな食感が、そこでよりいっそう強調され、
豚肉とワラビの味が、混然一体となって口の中に流れ込む。
辛さの刺激はまったくなく、味付けは塩と醤油が基本。
なんとも素朴さが魅力のユッケジャンであった。

そこで僕は、ふと、ある体験を思い出す。
この料理、この感覚は以前にも味わったことがある。

「なんだろう……」

記憶の引き出しを探ると、突き当たったのは大阪での体験。
済州島式というテールスープを食べたときのことだ。

韓食日記/桃谷(大阪)「どゃ」でテジカルビ&済州島料理。
http://koriume.blog43.fc2.com/blog-entry-1225.html

韓国ではコリコムタンと呼ばれ、スープを味わうとともに、
テールまわりの肉も酢醤油につけて味わう。
具はシンプルで、テールのほかは春雨とネギぐらいだ。

だが、大阪で食べたテールスープにはワラビが入り、
そして小麦粉でつけたというとろみもあった。

「済州島ではこうやって作るんだよ!」

とその店のママさんはいっていたが、
それはもしかしたらユッケジャンが源流ではなかったか。

気になって、済州島の人に、

「テールスープにワラビ入れます?」

と聞いてみたが、

「それは聞いたことない」

という答えであった。

わずかな体験で結論を出すのは早計だが、
想像力を働かせると、こんな仮説に行き着いた。

現在の大阪には済州島にルーツのある人が多く住む。
在日料理のひとつとして、ワラビを使ったスープが好まれ、
どこかでそれが豚のスープからテールスープに変化。

豚から、テールスープに変わった経緯は不明だが、
おそらく焼肉店、韓国料理店の存在が理由ではないかと思う。

韓国系の飲食店ではコムタン(牛スープ)を作って、
いろいろな鍋料理の基本スープとして使用する。
手近にあるスープで、いろいろな料理を作っていくため、
いつしかワラビのスープも牛スープで代用することに。

あるいは、どこかの店がテールスープにワラビを加え、
それが評判を得て、変容していった可能性も考えられる。

あくまでも僕の妄想であり、仮説にすぎないが、
済州島と大阪における、微妙な共通点と相違点は面白い。

ワラビ入りのスープと、とろみの部分は共通点で、
豚と牛、そしてそば粉と小麦粉の部分は相違点。
名前もユッケジャンとテールスープという違いがある。

なぜ、こんな共通点があり相違点が生まれたのか。

それを仮説でなく、結論に導いていくには、
もっと両者の食を深く学んでいくべきであろう。
答えが出るのは、ずっと先になるかもしれないが、
アンテナを立てつつ、じっくり探求したい。

済州島の料理と、大阪の在日料理に見える食の歴史。

今回食べた済州島式のコサリユッケジャンは、
その象徴的な一品となる可能性がおおいにある。

想像力の膨らむ、楽しい食事であった。

<店舗紹介>
ウジンヘジャンクク
済州道済州市三徒2洞831
064-757-3393

<お知らせ>
仕事が忙しくHPの更新ができません。
落ち着いたら、まとめて更新したいと思います。
http://www.koparis.com/~hatta/

<八田氏の独り言>
ユッケジャンが結ぶ済州島と大阪の関係。
情報をお手持ちの方は、ぜひ教えてください。

コリアうめーや!!第243号
2011年4月15日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



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