コリアうめーや!!第221号

コリアうめーや!!第221号

<ごあいさつ>
5月15日になりました。
ゴールデンウィークもすっかり去って、
いつもの日常が戻ってきています。
というよりも連休に遊んでしまったせいで、
普段の倍ぐらい忙しい気もしますね。
連休中に、まあいいやと先送りした雑事が、
今になってどーっと押し寄せています。
休みの間に少しずつでも片付けておけばよかった!
などと後悔しても、時すでに遅し。
夏休みが終わった9月1日の小学生よろしく、
自業自得の苦しみと戦っております。
さて、そんな状況下でのメルマガですが、
先日ソウルで食べてきたものをひとつ紹介です。
古きよき路地の中で、漂う白煙の魅力。
コリアうめーや!!第221号。
よだれを拭って、スタートです。

<市場で味わうガッツリ系焼肉!!>

韓国各地の名物通りを巡っていると、
常にどこが元祖かを意識するようになる。

例外もあるので一概には断言できないが、
たいてい元祖店のほうが繁盛しており味も期待できる。
韓国人も同じく元祖店を探して食べ歩く。

そもそも名物通りが形成されるきっかけは、
どこか1店が大きく当てて始まる場合が多い。
周辺で話題を呼んで、店頭に行列ができ始める頃から
近隣に真似をした類似店が徐々に増殖していく。

ただ、その場合は元祖店がはっきりしているので、
元祖論議で紛糾することは少ない(ゼロではない)。
後発店が看板だけの元祖を主張しても、
口伝えに本当の元祖店が知られていくからだ。

逆に、もともと地元に似たような専門店があり、
何かの拍子に料理自体が注目されるケースもある。

この場合はちょっと話がややこしい。

すでにたくさんの店があるので元祖を判別しにくく、
また各店舗もそれぞれの理屈で元祖を名乗る。

曰く、祖母が市場の露店から始めたのが最古。
曰く、界隈で初めて店舗を構えたのがウチ。
曰く、地域に古くからある料理だからどこも元祖。

もう何を信じてよいかわからない。

そもそも元祖店だからとてよい訳でなく、
後発店のほうが人気ということもある。
また、本当の元祖店が廃業してしまったことで、
自動的に元祖に昇格した後発店もある。

結局は食べて美味しければそれでよいのだが、
どうせならとの思いから、つい元祖を探してしまう。
そしてそのせいで泥沼にハマったりするのだ。

先日足を運んだ某名物通りも複雑だった。

店の看板を見ると「30年伝統」の文字。
日本語にすると少し違和感のある直訳だが、
韓国では「創業〇〇年」を「〇〇年伝統」と書く。

その店の場合は「創業30年」ということだが、
素直にそれで話がおさまらないからややこしい。

というのも看板は毎年すげかえるものではなく、
「30年伝統」なら、翌年は「31年伝統」にせねばならない。
だが、そんな面倒を毎年行う店は皆無であり、
通常5~10年は「30年伝統」のままである。

ならば「創業1980年」と表記すればとも思うのだが、
その方式を取る店は稀で、どこも年数で表記している。
実際に創業年を問いかけても、

「30年!」

という答えで、1980年のほうは出てこない。
むしろ、どの店の社長も、

「えーっと娘が5歳のときに店を開いたから……」
「あんた、いま何歳だっけ? 35歳?」
「じゃあ、西暦からそれを引いてくれる」

という会話がほとんどだ。

また、その「30年伝統」の店であるが、
社長から詳しく話を聞いたところ、

「ここに移って3年。前の店と合わせて26年」

ということだった。

「30年伝統」を掲げつつも、まるで足りない。
なんでも看板を作る際に、25年で注文を出したところ、
看板会社のほうから30年をすすめられたそうだ。

25年なら、どうせまたすぐに変えなきゃいけないから、
30年にしておいたほうが長く使えますよ、との理屈。

でも、その店の社長は、

「それで30年をかけたら隣は35年にしたんだよ」

とぶつぶつ怒っていた。
その店も移転して3年。前の店と合わせて20ウン年。
結局、看板は作ったもの勝ちなのだ。

という、ため息の出るような話を枕として。

真に語りたいのは、ソウル取材の合間に行った、
馬場洞モクチャコルモクでの焼肉話である。
冒頭の例ほどではないが、どの店に行くかで悩みに悩んだ。

馬場洞は韓国語で「マジャンドン」と発音し、
「モクチャコルモク」は飲食店の集まる路地を意味する。
馬場洞にはソウル最大の畜産市場があり、
そこに併設される形で、焼肉店がずらりと並ぶ。

馬場洞という名が示す通り、かつては養馬場があり、
それが1960年代になって畜産市場となった。
かつては屠畜場もあったが、そちらは98年に移転。
現在は卸売店、小売店のみ1900店舗が営業をしている。

場所柄、鮮度の高い牛肉が食べられるうえ、
市場と直結しているので値段もリーズナブル。
焼肉好きには、よく知られた場所である。

だが、僕はここでの焼肉が未体験だった。

かつて市場自体を見学に来たことはあったが、
食事としての訪問は、チャンスがなかった。

初めてゆえに、市場に到着した瞬間、
ひとつの大きな問題にぶち当たったのである。

「えーと、どの店に入ればいいのだろう……」

一応、事前に下調べはしてみたのだが、
市場脇の路地らしく、微妙に元祖がはっきりしない。
元祖らしき店はあるものの、それ以上の有名店や、
人気店が存在する、との情報も出てきた。

そこで実際に路地を歩いて、客の入りを確認し、
入るべき店を決めようと思ったのだが……。

いい時間帯だったので、どの店にも客があふれている。

古びた狭い路地には、後から後から人が詰めかけ、
店の入口からは肉を焼く白煙がもうもうと漏れる。
通りを歩くだけで、ごはん2杯はいけそうだ。

店の前に立つ、呼び込みのお姉さんも熱心で、
声をかけられるまま吸い込まれそうになる。
ふらふらー、ふらふらーっと路地をさまよいつつも、
なんとか納得のゆく店選びをして中に入った。

メニューを見ると、さすが市場らしく、
希少部位がずらりと並んでいる。

・カルビサル(バラ肉)
・サルチサル(サーロイン)
・アンチャンサル(ハラミ)
・ナギョプサル(ミスジ)
・チマサル(トモバラ)
・チャドルバギ(薄切りのバラ)
・トシサル(脾臓と膵臓についた肉)
・チェビチュリ(カルビの内側にある肉)
・ヤンギンモリ(胃についた細く厚い肉)

これに加えて内蔵部位もあるので、
それこそ牛1頭すべてを味わうことができる。
看板の盛り合わせ表記も、

・アムソハンマリ(雌牛1頭)

である。

ちなみにあえて「雌牛」限定なのは、
雄に比べて、雌の肉質が柔らかいから。
韓国焼肉の世界では女尊男卑が基本だ。

とりあえず「雌牛1頭」を注文してみると、
間髪入れずに、まず突き出しから運ばれてきた。

その中にレバ刺し、センマイ刺しの姿が見える。

この両者は1品料理としてメニューにもあるが、
突き出しとしても、無料で提供される。
しかもちょこっとではなく、日本でなら1人前以上の量。
市場ならではの、まことに喜ばしいサービスだ。

続いて、メインの「雌牛1頭」も運ばれてくる。

まるで大皿に花が咲いたかのような盛り合わせ。
真っ赤な赤身の上に、脂身の白が映えている。
日本のように霜降り偏重ではないので脂自体は控えめだが、
そのぶん赤身を噛み締める旨さが楽しめる。

奥歯でギュッと噛んで旨味がじわーっ。
さらに噛み締めてじゅわ、じゅわーっ。

脂身が控えめであるぶん、さっぱり味わえるので、
量をがっつりいけるのも大きな魅力である。
一心不乱に焼けた肉をガツガツ頬張る、
原初的な食の喜びを堪能できる。

あっという間に食べ尽くし、追加の皿を注文。
それとともに、ユッケ(牛刺身)なども頼んでみる

と、ここで意外なメニューに気付いた。

それは馬場洞の名物でもあるトゥンコル。
牛の背骨から脊髄をつるんと抜いたもので、
乳白色のつややかなところを生で頂く。

ただし、これは日本におけるBSEの危険部位。

日本であればまず食べられない部位だが、
韓国ではまだBSEは1件も発生していない。
安全が確認されているとして普通に提供されるのだ。

だが、頭ではそう理解していても……。

「だ、大丈夫ですかね……」
「んー、物は試しというからねえ……」
「えーと、本当に食べます?」

などと緊張感の漂う料理である。

僕らもひとしきり悩んだ後、

「じゃあ、自己責任で!」

と妙な約束を交わしてから注文した。
箸先を震わせつつ、おそるおそるで味わう。

「……」
「……」
「……」
「んー、あんま味ないですね」

緊張したぶん、やや拍子抜けする味。
とろっとした食感や、ミルキーな口当たりは、
タラの白子にも似ているが、甘味がない。

食材としては珍味だが、味で語るなら無味。

ゴマ油と塩につけて味わうことで、
独特のぬめっとした食感を楽しむ料理であった。

とはいえ、宴席が盛り上がったのは事実。

安全性への薀蓄はまた店の人を取材したいところだが、
市場ならではの希少性に富んだ一品だった。

といった感じで、馬場洞を満喫。

路地の雰囲気もよかったので、
思わず2日連続で通ってしまった。
いずれの店もメニュー構成はほとんど同じだが、
よく観察すると細かな違いがあって面白い。

似たような盛り合わせでも、店によって提供部位が異なり、
またサービスで出てくる料理にも違いがある。

できればそんな詳細も見極めて店を選びたいものだ。

まだ確定ではないが、近く取材でも行く予定がある。
メニューの詳細や、元祖問題など、しっかり聞き込みつつ、
違いをわかって通える人になりたいと思う。

個人的にもぜひ通い詰めたい魅力的な路地。

その雰囲気を末永く維持してもらうとともに、
珍味で無味のトゥンコルも、長く提供して頂きたい。
それには何よりも安全な牛の飼育が肝心。

韓国の牛肉業界に真摯な未来あれ。

<お知らせ>
仕事が忙しくHPの更新ができません。
落ち着いたら、まとめて更新したいと思います。
http://www.koparis.com/~hatta/

<八田氏の独り言>
暫定の感想ですが、大勢ならヨンムンチプ。
数名ならテグチプという感想を得てきました。

コリアうめーや!!第221号
2010年5月15日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



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