コリアうめーや!!第209号

コリアうめーや!!第209号

<ごあいさつ>
11月15日になりました。
すっかり気温も下がって冬支度も本格化。
暖房に頼らない暮らしをいつまで維持できるか、
もはや時間の戦いとなっている気がします。
実家にいる頃から祖母が暖房嫌いで、
冬になると家の中が凍えるほど寒いのが普通。
暖房をつけると窓の結露がひどい!
というのが暖房をつけない理由でしたが、
そのため皆が家の中でも厚着していました。
いまは家を出たので暖房をつけても怒られませんが、
なぜか妙に我慢してしまう習慣がついていたり。
暖房をつけると、妙に悔しかったりするのです。
と、そんな我が家話はさておき。
今号のメルマガではちょっと珍しい地方料理を紹介します。
韓国も地方を巡っているといろいろな出会いがあるもの。
その地域だけの、特別な食習慣は興味をそそられます。
コリアうめーや!!第209号。
探究心旺盛に、スタートです。

<全州名物のソバとはいったい何ぞや!!>

事の発端は小さな違和感だった。
気付かなければ、さらっと見過ごすほどの小さな違和感。
引っかかったのは長年鍛えた「目」の力だろう。

僕の目には、

「韓国料理探索アイ」

というものが備わっており、
韓国料理関連の情報を、街中で素早く認識できる。

初めて行った街でも韓国料理店がすぐ目に入るし、
慣れた街でも、新しく店が出来たらすぐ気付く。
看板に珍しい料理名でも掲げられていたらなおさらだ。

特に韓国の地方に行くと珍しい郷土料理が多いので、
普段よりも目の力が活発化する傾向にある。
全州(チョンジュ)の街で「ソバ」を見つけたのも、
そんな特殊能力があったからだと自負している。

そのとき僕の目に飛び込んできたのは横断幕。

路地の電柱から電柱に伝う感じで張られており、

「○○ソバが新規オープン!」

といった文字が刻まれていた。
○○に入るのは地名であり、ソバまでが店名。
開店のお知らせということで横断幕を出したのだろう。

だが、そこで引っかかったのがソバである。

日本でソバといえば、ほぼ「蕎麦」である。
場合によって「中華そば=ラーメン」を示すこともあるが、
普通に解釈すれば、蕎麦粉を麺状に仕上げたのがソバ。
だが、そこは韓国であり「ソバ」もハングルで書かれている。

韓国語がわかる立場からすると、

「なんだこりゃ!?」

というような横断幕であった。

ちなみに韓国でも日本料理としてのソバはあるが、
一般的には「メミルグクス」という名前で呼ばれている。
メミルが蕎麦、グクスが麺なので、直訳するなら蕎麦麺。
日本でいうざるそばを主にメミルグクスと呼んでいる。

また、韓国にはウドンも広く定着しており、
こちらは日本語そのままにウドンと呼ばれている。

だが、メミルグクスをソバと呼ぶことは少なく、
可能性はゼロでないものの、店名とするには違和感が強い。
僕の韓国料理探索アイが反応したのはその点を、

「妙だな……」

と感じ取ったからである。

その瞬間から少しずつ気をつけて見ていくと、
全州の街では、至るところでソバの文字が見られた。

例えば、粉食店と呼ばれる韓国式ウドンの専門店でも、
店頭のメニューを見ると、

・カルグクス(韓国式ウドン)
・コングクス(豆乳麺)
・チョルミョン(生野菜と辛いタレの混ぜ麺)
・ソバ
・マンドゥ(餃子)

といった感じの構成になっている。
これまた、非常に違和感のあるラインナップで、
ソバという料理が、ごく自然に調和している。

また別の店では、

・ウドン(日本式のウドン)
・ソバ
・トンカス(トンカツ)
・トッパプ(どんぶり料理)

となっていた。
こちらの店はやや日本料理に傾くメニュー構成。
ウドンの直後にソバが並んでいるところから察するに、
おそらくこの料理は蕎麦を意味するのだろう。

ソバと書いて、実はまったく別の料理でした!

という可能性も頭の片隅で考えていたが、
見ていくほど、ソバは蕎麦であるように思えた。

「これはぜひ1度食べてみなければ……」

と思いつつ、その時点ではタイミングを逃した。
横断幕を確認したのは2008年10月のことだったが、
実際に僕がソバを食べられたのは翌年の6月である。

と、ここまで書いて少し脇道にずれる。

念願だった全州ソバ体験は後回しにして、
まずはより一般的なメミルグクスについて語ってみたい。
韓国にもメミルグクスを専門とする飲食店があり、
店によっては50年以上の歴史を誇るところもある。

ただ個人的に断言してしまうのだが……。

「日本人の口に合うことはまずない!」

もちろん僕の知らない名店があるかもしれないし、
韓国のメミルグクスが大好きという人もいるかもしれない。
どんな場合にも例外というのは付き物だが、
少なくとも僕が好んでメミルグクスを食べることはない。

メミルグクスは往々にして、つゆが甘すぎるのだ。

先日も食に詳しい韓国人の紹介で有名店に行ったが、
やはりつゆの甘さは他の店と大差なかった。
麺はまあまあ、つゆもカツオダシの風味が効いていたが、
それを打ち消すぐらい大量の砂糖がぶち込まれている。

たぶんそばつゆに求めるベクトルが違うのだろう。
有名店らしく、たくさんの客で賑わっており、
まわりで食べている人たちも、満足している風だった。

そんな背景があったからこそ。

僕は全州ソバに期待をしたのかもしれない。
そもそも、ソバという日本名を使っていること自体、
日本の味に近いのではないかと思えてくる。

また、後々インターネットなどで調べたところ、
全州のソバは隠れた名物として扱われていた。
郷土料理というほど有名な存在でもないようだが、
グルメな人がわざわざ訪れて食べたりもしている。

その一方で全州在住の人に聞いてみると、

「全州にソバってありますよね」
「ええ、私も大好きでよく食べますよ!」
「全州名物と考えてもいいんですか?」
「さぁ、どこでも食べられるんじゃないですか?」

となぜか反応が悪い。

だが、これは裏を返せば、全州のソバは独特だが、
地元では一般的なものとして認知されていることを示す。
その感覚はいま日本で流行中のB級グルメにも似ている。
うまく発掘すれば、いずれ花開く料理になるかもしれない。

「これは大ネタをつかんだか!」

まだ食べもしない段階から、僕の興奮は頂点に達した。
僕は全州一帯にある、有名なソバ店を丹念に調べ、
まず行くならどこかと悩みつつ、全州を訪れる機会を待った。

そして、来る2009年6月。

ようやく待ちに待った全州ソバとの対面が成った。
僕が選びに選んで訪れた店は「チンミチプ」。
全州内でも、ソバの名店として名高い1軒である。

訪れたのは食事時にはやや早い夕方4時。

半端な時間ながら、切れ目なく客が入ってくる。
車で来ている人も多く、やはり結構な人気店のようだ。
入口近くの座席に陣取り、名物のソバを頼んだ。

ほどなく出てきたのはステンレス製の器が2つ。

大きなほうに茹で上がった麺が入っており、
もうひとつの小さな器にはつゆが入っている。

ざるそばのように麺を浸して食べるのかとも思ったが、
周りを見る限り、ざばっと麺につゆをかけている人が多い。
冷やし麺のかけそば、といった感じに食べている。
黒っぽい麺と、黒っぽいつゆで、見た目は真っ黒だ。

ちなみに全州はコングクスも有名で、
この黒いソバを、大豆をミキサーにかけた汁でも食べる。
黒麺と白いスープのコントラストが見事だが、
それは食べ逃してきたので、またいずれの機会に語ろう。

まずは全州のソバである。

僕はおもむろにつゆからすすってみた。

「……」
「……」
「……」
「……甘っ!」

やっぱりつゆは甘かった。
だが、煮干系のダシもそれなりに効いている。
カツオダシでなく、煮干ダシというのがひとつの特徴らしい。

麺も悪くないだけに、強い甘さが残念ではあるが、
こういう料理と考えれば、まあ悪くはない。

非常に印象的だったのが同行した韓国人の反応。
猛烈な勢いで食べ終え、

「いやぁ、うまい! これはうまい!」
「さすが八田はいい店をよく知っているなぁ!」
「麺もいいが特につゆがいい!」
「見ろ、全部つゆを飲んでしまった!」

と満面の笑顔で語ってくれた。
やはり日本人が考える蕎麦の姿とは異なるが、
韓国人にとっては好みの味付けなのだろう。

事前の期待がやたらと大きかっただけに、
自分の中でもやや消化が難しいソバ初体験だった。

意気込んで食べにいったにもかかわらず、
こうしてメルマガで報告したのが5ヶ月後。
そのタイムラグが僕の正直な感想を証明している。

だが、いまになって少し思う。

僕が期待した姿は、

「韓国で食べられる日本風の蕎麦」

だったが、よく考えるとそれを望む意味はない。
美味しい蕎麦なら日本でいくらでも食べられるし、
日本と違ってガッカリするのは筋違いだろう。
なにしろ全州ではその味で高い人気を誇っているのだから。

なので、僕は全州のソバをこう報告しようと思う。

全州にはソバという名物料理がある。
日本の蕎麦とも、メミルグクスとも違う独特の麺料理である。
日本人が蕎麦を想像して食べると多少の違和感はあるが、
話のタネにはなると思うので、興味のある人はぜひ。

なにか妙にフワフワとした結論だが、
全州ソバの報告は以上である。

勝手に膨らませておいて、ふわっと霧散した期待のように、
ふわっと終わるのが、なぜか全州ソバらしい気がする。

<お知らせ>
仕事が忙しくHPの更新ができません。
落ち着いたら、まとめて更新したいと思います。
http://www.koparis.com/~hatta/

<八田氏の独り言>
全州にはなぜか珍しい食習慣が多いです。
探せばまだまだ珍料理が埋もれている予感。

コリアうめーや!!第209号
2009年11月15日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com

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http://www.melonpan.net/mag.php?000669



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