コリアうめーや!!第190号

コリアうめーや!!第190号

<ごあいさつ>
2月になりました。
あっという間に12分の1が終了です。
1年が過ぎるのは早いといいますが、
カレンダーをめくるたびにそれを実感。
このやたらと寒い日々は早く去って欲しいですが、
時間の経過は緩やかであるのを希望します。
忙しいのは充実している証拠、ともいいますが、
貧乏暇なし、という言葉もチラつきます。
ゆったりとした時間の過ごし方をマスターするには、
あとどれだけの歳月が必要なのでしょうか。
年齢だけの大人ではなく、人生的な大人になりたい。
そんなことを思う今日この頃です。
さて、ひとしきりぼやいたところで今号のテーマ。
昨年末に出かけた済州島取材からの一品です。
久々に興奮する地方料理を見つけたかもしれません。
コリアうめーや!!第190号。
麺好きの自分を再確認しながら、スタートです。

<済州島名物ラーメンのような麺料理!!>

韓国で美味しいラーメンを食べる。
たったそれだけのことに日本人は夢中になる。

韓国ではラーメンといえばインスタントが主流。
飲食店でもインスタントの袋ラーメンを調理して出し、
日本でいうラーメンは「生ラーメン」と別に呼び分ける。
珍しい外国料理として都市部にちらほら存在する程度だ。

だがその「生ラーメン」も多くは韓国人の好みに合わせ、
微妙に韓国化しているか、あるいはそもそも水準に達していないか。
これなら韓国式のラーメンを食べていたほうがマシ、
という例が、いまだに少なくない。

近年は意欲のある店も少しずつ増えているが、
全国的にみると、まだまだ希少な存在である。

僕などは普段、日本で暮らしているのだから、
思い立てばいくらでも、日本式のラーメンを食べられる。
だが、韓国で渇望していた時代が長いせいか、
韓国で日本式のラーメンを見ると、つい足を踏み入れてしまう。

「うおっ、日本式のラーメンだ!」
「せっかくだからちょっと食べておこうか……」
「でもまたハズレかもしれないし……」

「やっぱり辞めておこうか……」
「いや、今度こそアタリのラーメンかも……」
「ええい、ハズレてもともと!」

そしてまた失敗し、深い後悔に襲われる。

もう韓国でラーメンを食べるのは辞めよう。
いつもそう思うのだが、その誓いは守られた試しがない。
僕の写真フォルダにはそんな失敗ラーメンがたくさんある。

ちなみに、韓国でわざわざ自作したこともある。

留学時代は簡易的な味噌ベースのスープを作り、
スーパーで見つけた中華料理用の乾麺を茹でて作った。
渇望した状況では、それなりに美味しかったが、
満足のいくラーメンとは決していえない出来だった。

また、釜山に住んでいた日本人の友人と協力し、
釜山名物を加工したラーメンを作ったこともある。

ベースとしたのはテジクッパプのスープ。
テジクッパプは豚骨を煮込んだスープにごはんを入れた料理で、
豚骨ラーメンのスープとよく似ている。

また、釜山にはミルミョンという料理がある。
普通は蕎麦粉で作る冷麺を、小麦粉でアレンジした料理。
中華麺と違って押し出し式で作られた麺ではあるが、
食べると、冷やしラーメン風の味がする。

この両者を有効活用したらラーメンになるのでは。

そんな思いつきからふたつの専門店でテイクアウトをし、
友人の自宅で、醤油ダレと背油まで作って掛け合わせた。
時間をかけたせいで、麺がやや伸び気味にはなったが、
それなりの味に仕上がって、僕らはおおいに喜んだ。

韓国における本格的なラーメンの追求。

それはある種の日本人が労苦を惜しまず立ち向かう、
情熱的かつ浪漫に溢れた、求道的活動なのかもしれない。

……と大風呂敷を広げておいて。

先日、済州島に行って来た。
取材仕事がメインで、4日ほどの滞在。
現在はその原稿書きに追われている。

今回は飲食店だけでなく、観光地の取材も多く、
比較的、自由な食事をとれる隙間があった。
同行したカメラマンさんも韓国通で、一緒に食べ歩く中、
ひとつの掘り出し物的な情報を頂いた。

「こないだ来て美味しかった店があるんだよ」
「たぶん済州島だけの珍しい料理なんじゃないかな」
「八田くんも食べたらきっと気に入ると思うよ」

その料理というのがコギグクス。

直訳すると「肉麺」という意味になる。
聞いた時点では、恥ずかしながら初耳の料理だった。

取材の傍ら、ネットで調べてみると、
確かに済州島にしかない独特の料理であるようだった。
ただ、いわゆる郷土料理というよりも、ややB級色が強く、
日本でも流行のご当地モノに近い気がした。

地元ではごく当たり前の料理として食べられているが、
他地域には存在せず「何それ!?」となる料理。
にもかかわらず地元民は郷土料理と思っていないので、
「え、知らないの!?」という反応だったりする。

僕にとって、そういうネタは大好物。

「ぜひ行きましょう!」

と盛り上がって、取材仕事が終わった午前0時。
コギグクスの専門店に行って、その料理を味わってみた。

訪れたのは新済州にある「オルレグクス」という店。
ほかにもコギグクス専門店は市内にたくさん存在するが、
有名店のひとつとして、ネットでも情報が多い。

店に到着してみると、午前0時過ぎにもかかわらず、
客席はほぼ埋まっており、後からもどんどん客が訪れた。
見ていると酔客が多く、シメの役割を果たしているようだ。
確かに飲んだ後の麺料理はたまらなくうまい。

メニューはわずかに3種類。

・コギグクス
・ミョルチグクス
・ピビムグクス

場所柄、日本人客も多く来ると見えて、
メニューは日本語も併記されている。

コギグクスは「豚骨スープ肉うどん」。
ミョルチグクスは「いりこスープうどん」。
ピビムグクスは「激辛うどん」。

ピビムグクスは味の想像が出来たので、
コギグクスとミョルチグクスの両者を頼んでみた。

ほどなくして白いどんぶりが運ばれてくる。

2つの麺料理は見た目からだいぶ違った。
コギグクスはネギとともに豚肉が大量に乗っている。
ミョルチグクスは刻んだ油揚げに白ゴマとネギ。
見た目のボリューム感はコギグクスが圧倒する。

まずはコギグクスから味わうことにした。

おもむろにスープをすすると濃厚な豚肉の旨み。
豚のげんこつを長時間煮てスープを作っているようだが、
日本のラーメンに比べて、脂の感じが非常に少ない。

背脂が浮いているようなこともなく意外にさっぱり。
たっぷりの刻みネギ、白ゴマに加え、粉唐辛子が卓上にあり、
これを振りかけて食べるようになっている。

豚骨ラーメン風の味わいを想像していたが、
むしろ、釜山のテジクッパプのほうに似ている。

麺は「うどん」と書かれているが、それよりも細く、
素麺とうどんの中間ぐらいで、標準的なスパゲティぐらい。
韓国語ではチュンミョン(中麺)と呼ばれる麺だ。

具として入っているのは煮込んだ豚バラ肉。
1センチ弱の厚さにスライスして、どっさり入れてある。
けっこうな量なので、具だけでもかなりのボリューム感だ。

全体としてラーメンとはやや異なる味わいだが、
韓国版「チャーシューメン」と表現したくもなる感じだ。
飲んだ後にシメとして食べられている点も含め、

「うむ、これはラーメンだ!」

とその場で断言してしまった。

これも立派な済州島料理なので、安易なレッテル貼りは失礼だが、
ずずっと麺をすすった瞬間に感じた、正直な本音である。
ソウルあたりで不出来なラーメンを食べるぐらいなら、
済州島でコギグクスを食べたほうがよっぽど満足感がある。

一方、ミョルチグクスは煮干味のスープ。
全体にあっさりした味わいで、コギグクスとは対照的だ。
麺もぐっと細いものを使っており、素麺ほどの太さ。
いわゆるチャンチグクス(宴会用の麺料理)とよく似ている。

韓国で食べるウドンにも近いようなスープだが、
やや強めぐらいに煮干ダシが効いている。
コギグクスとはまた違う、これも魅力的な麺料理だ。

まわりを見ていても、コギグクスとミョルチグクスの注文は、
ほぼ半々か、ややコギグクスが優勢という感じであった。
ミョルチグクスは他地域でも見られる料理ではあるが、
地元での認識としては、どちらも似たレベルなのだろう。

コギグクスもミョルチグクスもありふれた麺料理で、
コギグクスに驚くのは、韓国人も含めて観光客ぐらい。
済州島での定着具合も一緒に確認できたのはよかった。

日本に戻って来てから来歴を少し調べてみた。
なぜ済州島にコギグクスという料理があって他地域にないのか。
そもそもこの料理はいつ頃から食べられているのか。

調べた限りでは、明確な答えが出てこなかった。

コギグクスという料理自体、古くからあったという説があれば、
ここ20年ぐらいの間に出来た新しい料理との説もあった。
済州島の人でも意見は分かれるらしい。

済州島には古くから豚肉をご馳走とする習慣がある。
結婚式などの祝いには、飼っている豚をつぶし、
家族や親族で食べるほか、周囲の人へも振る舞った。

そのため豚肉を使った料理が発達しており、
ほぼ1頭まるごと、余すことなく調理して食べる。
豚骨を煮込んだスープに、ホンダワラという海藻を入れた、
モムククという料理は済州島の伝統的料理のひとつ。

かわりに麺を入れれば、コギグクスとほぼ同じになる。
飲食店で販売され始めたのは最近かもしれないが、
古くからあった料理という可能性も捨てきれない。

だが、その一方で小麦粉麺を使っているのが気になる。

済州島はもともと蕎麦粉を多く栽培していた。
米作りに向いていないため、大麦、粟などの雑穀料理も多い。
蕎麦粉は冬場における貴重な食料として活躍しており、
済州島の麺料理も蕎麦粉を主として使っている印象がある。

その代表であるクォンメミルグクス(キジスープの蕎麦)のように、
古くからあった料理なら蕎麦粉麺であってもよさそうなものだ。

釜山のテジクッパプとの関係にも留意せねばならない。

テジクッパプは朝鮮戦争後に北からの避難民が作った料理。
同じく済州島にも、北からの人たちが大勢渡っている。
故郷を思って作ったスープに釜山ではごはんを入れて食べ、
米の少ない済州島ではかわりに小麦粉麺を入れた。

あるいは釜山のテジクッパプが済州島に伝わり、
そこでごはんから、麺へと変化が起ったのかもしれない。
それならばコギグクスの歴史は数十年程度だ。

いろいろ仮説は立てられるが現時点ではここが限界。

いずれ済州島に行き、店の人に話を聞いてみたいと思う。
済州島の人に、有名店をいくつか教えてもらったので、
そこを巡りつつ、情報をまとめれば答えにも近づけるだろう。

その機会を模索しつつ。

まずはコギグクスという料理に出会えたことを喜びたい。
韓国で無性にラーメンが食べたくなったとしても、
国内線に乗って済州島に行けば解決するのだから。

<お知らせ>
仕事が忙しくHPの更新ができません。
落ち着いたら、まとめて更新したいと思います。
http://www.koparis.com/~hatta/

<八田氏の独り言>
済州島では豚関係の珍料理をもうひとつ発見。
今回は食べ逃したので、それも宿題にしたいと思います。

コリアうめーや!!第190号
2009年2月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

 

 
 
previous next