コリアうめーや!!第181号

コリアうめーや!!第181号

<ごあいさつ>
9月15日になりました。
昨日14日が韓国では秋夕(チュソク)でした。
日本でいうお盆のような日に相当し、
親族一同が集まって先祖の霊を祀ります。
ソンピョンと呼ばれる新米の蒸し餅を供え、
ご先祖様にその年の収穫を感謝したりも。
ご馳走もたっぷり作ってみんなで食べ、
家族、親族の親睦を深める日でもあります。
日本ではお月見の日として知られますよね。
中秋の名月、みなさんはご覧になりましたか。
僕も家の窓からちらっと眺めてみました。
さて、今号のコリアうめーや!!ですが、
7月の訪韓で感じたことを語ってみます。
自分の中で日増しに募るある思い。
コリアうめーや!!第181号。
いつか必ずと誓う、スタートです。

<ソウルで見つけた北への思い!!>

「第1回ハラハラドキドキ韓国料理クイズ~!
「さてさて第1問! 以下に3つの料理を提示します!」
「その共通点をビシッと答えてください!」

ジャジャジャン!

1、ネンミョン(冷麺)
2、チョッパル(豚足の醤油煮)
3、ピンデトク(緑豆のお焼き)

ぴんぽーん!

「はい、富渡雷太(とみわたりらいた)さん」
「料理名がいずれも5文字です!」

ぶぶぶぶー。

「残念。そんな簡単な答えではないですぞ!」
「くうっ、じ、自信があったのに……」

がっくりと崩れ落ちる富渡雷太氏。
しかし場内からは失笑が漏れている。

ぴんぽーん!

「はい、久田朗(ひさだあきら)さん」
「いずれの料理にも豚肉が関わっています!」

ぶぶぶぶー。

「うーん、惜しい。マニアックな線をつきましたね」
「チョッパルは豚の足を煮込んだ料理ですし……」
「ピンデトクにも具として豚肉を入れる場合が多いです」
「冷麺も店によっては豚肉の薄切りを乗せますよね」

「じゃあ正解でもいいじゃないですか!」

激昂して立ち上がる2番解答席の久田朗氏。
後ろに座る応援席も、激しいブーイングを司会者に投げかける。
だが騒然とする場内にも関わらず、司会者は涼しい顔だ。

「確かに久田朗さんの答えにも共通点はあります」
「しかし、我々が望むパーフェクトな答えではない」
「評価するならば30点の答えですね」

ぴんぽーん!

「はい、大石岩音(おおいしいわね)さん、どうぞ!」
「すべて北朝鮮が本場の料理です!」

ぶぶぶぶー。

「いやあ、惜しい! ほぼ正解なんですけどね」
「久田朗さんと比較しても70点はあげたい答えです」
「ほかに答えは出ませんか?」

無念の表情を浮かべる大石岩音嬢。
場内はしばしの間、水を打ったような静寂に包まれる。

ぴんぽーん!

「はい、八田靖史(はったやすし)さん!」
「僕が7月にソウルで食べてきた料理です!」

「……」
「……」

「……」
「……」

ぴんぽんぴんぽんぴんぽーん!

「正解! 大正解です! おめでとうございます!」
「うおおおおお! よっしゃあああ!」

大盛り上がりの司会者と解答者。
だが、それに比して会場の反応はあまりに冷ややかだ。
興奮はいっぺんにどっちらけとなり、
このクイズ大会は第1問目で終了となった……。

「って、なんですかそれは!」

冷ややかな会場どころか、あまりに投げやりな冒頭。
読者諸氏の罵声、怒声、罵詈雑言が聞こえてきそうだ。
書いている僕自身も、なぜこんなことになったかわからない。

「メルマガらしい砕けた冒頭にしたかったんです!」

という言い訳もむなしく、
狙いからして砕け散っていることこの上ない。

急転直下で本題に戻そう。

今年は幸いなことに韓国での仕事が多く、
1月、3月、5月、6月、7月と5回の訪韓機会があった。
今月下旬にもソウル取材に出かける予定なので、
例年と比べても、ずいぶん多い状況である。

そのほとんどが仕事目的で訪れているのだが、
ソウルにいるよりも、地方に出る機会がぐっと多い。

1月:ソウル、釜山、済州島
3月:ソウル、議政府、全州、淳昌
5月:ソウル、沃川、錦山
6月:済州島
7月:ソウル

ひたすらソウルにいたのは7月だけ。
後はなんかしらの形で、地方料理を食べ歩いている。
今年の個人的テーマが韓国の地方料理なので、
まずまず順調に進めているということだろう。

従って7月のソウルは10日間の長丁場だったが、
「珍しく」と表現してもよいほど貴重な時間であった。

前半が旅行雑誌の取材で主に飲食店巡り。
後半は語学本作成のための写真資料収集を行った。
前半部は取材先が事前に決まっていたが、
後半部は比較的自由に食事を取ることができる。

これがなんとも嬉しい。

韓国に行ったとしても取材目的では自由時間が少なく、
思いのままに食べ歩きをするのは難しいのだ。
ここぞとばかりにソウルの宿題店を食べ歩いた。

「いやあ、久しぶりにソウルの味を楽しんだ!」

と非常に有意義な時間だったのだが、
なぜか振り返ってみると、モヤモヤが少し残っている。
このモヤモヤはいったなんなのだろう。
自分自身の心中を分析してみると……。

「んー、やっぱり地方に行きたいな」

ということに尽きる気がする。
ソウルでも充分すぎるほどの感動を得られるが、
自分のアンテナがいまはそっちに向いているのだろう。

それを裏付ける証拠ではないが……。

7月に食べた印象的な料理をピックアップしたところ、
そこにある共通点を見つけて自分自身が驚いた。

それが冒頭の駄クイズ。

1、ネンミョン(冷麺)
2、チョッパル(豚足の醤油煮)
3、ピンデトク(緑豆のお焼き)

冒頭では「僕が食べた料理」を正解としているが、
ひとつ前の答えである「北朝鮮料理」が本当の正解である。
冷麺はもともと北朝鮮の首都である平壌の郷土料理。
チョッパルとピンデトクは、平壌の北に位置する平安道の料理。

南でも一般的な料理として親しまれているが、
元をたどれば、北部地域の名物なのである。

こういった例は意外に多く、
全国的に食べられているメジャーな韓国料理や、
地方料理の中にもけっこう埋もれている。

・スンデ(腸詰め)
・カムジャジョン(ジャガイモのチヂミ)
・マンドゥ(韓国式の餃子)
・マンドゥクク(スープ餃子)
・テジクッパプ(豚スープごはん)
・ミルミョン(小麦粉の冷麺)
・ピジチゲ(おからのチゲ)
・キムチマリグクス(麺入り水キムチ)
・キムチマリパプ(ごはん入り水キムチ)

このあたりが代表的な例であろう。

7月の訪韓ではソウルを意識して料理を食べたが、
無意識に地方料理の姿を追い求めていたのかもしれない。
駄クイズの3料理がもっとも色濃く記憶に残っている。

1の冷麺は地下鉄6号線大興駅近くの「乙密台」。
1966年創業という老舗冷麺店で食べた。
目を引いたのは、中央に丸くまとめられた麺である。

出てきた瞬間に……。

「うわ、太っ!」

と思わず口に出してしまったほど。

最近の冷麺はコシの強い細麺が主流だが、
平壌冷麺の老舗店に行くと、太めの麺を使用している店が多い。
この店はそれに輪をかけてという太さであった。

麺のベースとなるのは蕎麦粉で、サツマイモの澱粉を追加。
しっかりとした噛み応えのあるコシの強い麺だが、
ハサミで切らないと食べるのに困る、というほどではない。
個人的にこのぐらいの噛みごたえがいちばん気に入っている。

最近はこの麺の太さというのが妙に気になっており、
分化して日本で定着した盛岡冷麺や別府冷麺も太めが特徴。
神戸にある戦前からの老舗平壌冷麺店も同じように太い。

韓国の焼肉店などで出てくる冷麺は細麺が主流だが、
古い時代はもっと麺が太かったのではないか。
そんな仮説をいつか実地で検証したいと思っている。

スープは半シャーベット状で濃い牛肉味。
塩気は利いているものの、酸味系の味はほとんどない。
肉系のストレートな味わいは平壌冷麺における特徴の一端で、
なるほどと納得のゆく、老舗らしい組み立てであった。

2のチョッパルは専門店が並ぶ奨忠洞で食べたもの。
3のピンデトクは広蔵市場内の屋台で食べた。

この店は取材店舗でもあるので詳細は書かないが、
それまで食べてきた、同じ料理の評価を入れ替える感動があった。
こういう出会いがあるから、食べ歩きは楽しい。

さて、ここからがまとめである。

自分の気持ちが地方に向いている。
そしてソウルで感動した料理がいずれも北朝鮮料理。
ここから導く答えは……。

要するに北へ行ってみたいのだろう。

韓国の地方を歩き、郷土料理の魅力にハマるほど、
その奥深さに感動して、残りの半分(北朝鮮)が気になる。
そんなジレンマに陥っているような気がする。

韓国における北朝鮮料理の普及は朝鮮戦争が発端。

1950年からの戦争で人々が散り散りになり、
故郷を離れて、別の土地で生活せざるを得なくなった。

国家は分断し、現代にまで続く不幸な歴史ではあるのだが、
これをきっかけに料理いう分野ではダイナミックな進化があった。
人の移動が食の融合を生み出し、新たなステージに上った。

北から避難してきた人たちが、南で故郷の味を再現しつつ、
作り上げた料理は、各地で郷土料理として定着している。

その郷土料理そのものにも大きな感動はあるが、
原点を味わうことができないという部分がもどかしい。
いうなれば、そう……。

ビビンバの具だけを食べているような気分だ。
冷麺の汁だけを飲んでいるような気分だ。
アイスのフタだけを舐めているような気分だ。

……最後はちょっと違うな。

アホな冒頭から、妙にシリアスな結末で恐縮だが、
10日間ソウルだけにいた経験は自分にとって貴重だった。
自分自信の知的欲求がどこに向かっているのか。
その立ち位置を、明確にしてくれたような気がする。

折りしも、指導者の体調不安が報じられる北朝鮮。

豊かな食文化を平和的に楽しめる時代は、
いつになったら来るのだろうか。

<お知らせ>
仕事が忙しくHPの更新ができません。
落ち着いたら、まとめて更新したいと思います。
http://www.koparis.com/~hatta/

<八田氏の独り言>
北に行「きた」い!。
なんて駄洒落でどっちらけ。

コリアうめーや!!第181号
2008年9月15日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



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