コリアうめーや!!第170号

コリアうめーや!!第170号

<ごあいさつ>
4月になりました。
僕の住む東京では桜がほぼ満開です。
気温もぽかぽかと暖かくなって、
春だなぁ、としみじみ感じております。
唯一、花粉症に苦しめられるのが春の難点ですが、
僕は現在、日本を飛び出し韓国にいます。
杉の生えていない、韓国へ一時避難。
本日からは、食都と呼ばれる全州に移動の予定です。
今年は韓国に来るチャンスを順調に確保しています。
それもソウルだけでなく、地方を積極的に探索。
この調子で今年いっぱい、あちこち巡りたいですね。
そんな中、今号のメルマガですが、
ちょっとした大皿料理の魅力を語ります。
大皿料理という言葉からして幸せを感じますね。
コリアうめーや!!第170号。
ずらり並んだ迫力の、スタートです。

<個人的大興奮料理のモドゥムジョン!!>

盛り合わせという単語に限りない興奮を覚える。

聞いた瞬間から鼻の下がびよーんと伸び、
締りのないイヤラシイ感じのえびす顔になる。
ニヤニヤというより、ニタニタかニマニマ。
笑い声も、ムフフないし、グフフが適当であろう。

欲望に忠実な興奮であることを積極的に認める。
隠しても仕方ないくらいの興奮ぶりだからだ。

見た目の華やかさや種類豊富な魅力もあるが、
なんといっても保証されたボリューム感が嬉しい。

「たっぷり食べたい! ガッツリ食べたい!」

食い意地の張った僕には何よりの安心感。
盛り合わせは、イコールたっぷりだからである。

例えば、居酒屋に出かけたとしよう。

それもメニューの豊富ないい感じの居酒屋。
焼きとり、天ぷら、刺身といったメニューがさらに細分化され、
それぞれにバリエーション豊富という状況設定だ。

焼きとりはモモ、ネギ間、つくね、砂肝、ぼんじり、せせりなど。
天ぷらはエビ、イカ、アナゴに加え、珍しいアシタバの名前が見える。
刺身は白身魚を中心に、トビウオ、初ガツオがあるようだ。

こうなるとどれを食べようか果てしなく悩む。
あれも食べたい。これも食べたい。全部食べたい。

鼻の穴から脳髄が流れ出るほど悩みに悩み、
気絶直前の状態で、メニューの最後に盛り合わせを発見。
途端に肩の力が抜け、安堵の表情で店員さんに声をかける。

「すいません。焼き鳥、天ぷら、刺身を全部盛り合わせで!」

これでまんべんなく美味感動を味わえるという、
いわば究極のマジックワードなのである。

いやはや、よかった。よかった。天下太平。
余は満足じゃ! の表情で冷えた生ビールを飲んでいると、
ほどなくして大皿に乗った盛り合わせが届く。

さあ、どこから手をつけてくれようかな、
とニコニコ顔のまま箸をえいやっと伸ばすのだが……。
往々にしてこの時点で問題発生。

盛り合わせの名に隠された店側の陰謀に気付くのだ。

「こ、この盛り合わせ、なんかショボイ……」

焼きとりはモモ、ネギ間、砂肝に、ネギ焼きとシイタケ焼き。
天ぷらはエビ、イカ、エリンギのわずか3種類。
刺身はマグロの赤身にイカと甘エビだけのラインナップだ。

「脂の乗ったぼんじりは? うまみの濃いせせりは?」
「独特のほろ苦さが魅力のアシタバは?」
「いまが旬のトビウオは? 初ガツオは?」

わざとらしくツマの下あたりを箸でまさぐってみるも、
当然のごとく、そんなところに初ガツオは隠れていない。
結局、その盛り合わせを不機嫌なままつついた後、
もの足りずに、単品メニューを追加してしまうのだ。

「盛り合わせなんざ、でえっ嫌えだ!」

あれ、冒頭の書き出しと逆の話になったな。

まあそんなハプニングが予想されることも含めて、
それが盛り合わせの魅力ではと思っている。

いい居酒屋に行けば、それこそメニューに載っている以上の、
素晴らしい盛り合わせが出てくることもあるしね。
そのあたりで店側の姿勢を判断することもできる。

さて、そんな盛り合わせ好きの僕が韓国に行くと、
同じように頼んでしまうのが「モドゥム」である。
モドゥムというのは韓国語で「すべて」という意味。
飲食店では盛り合わせによく似た用語として使用される。

例えば、韓国で刺身専門店に行くとしよう。

刺身といえども、韓国で食べるとスタイルが異なる。
韓国では刺身というと1匹単位で頼むのが一般的。
マダイならマダイ1匹、ヒラメならヒラメ1匹。
尾頭付きで大皿に乗り、どどーんと運ばれてくる。

その迫力で食卓が一気にヒートアップするのだが、
ややもすると、途中で食べ飽きてしまうこともあるのが難点。
同じ刺身だけだと、どうしても味の変化が乏しい。

韓国では刺身の後にアラで辛い鍋を作るのが定番だが、
結局、その鍋に残った刺身も放り込んでいたりする。

「せっかくイキのいい刺身なのにもったいない!」

とはいえ、それはそれで美味しいので否定はしない。
軽く熱を通したしゃぶしゃぶも、しっかり美味なのである。

ただ、そんな後付けの工夫をせずとも、
最初からモドゥムで注文しておけば問題なし。
刺身の盛り合わせ、すなわちモドゥムフェである。

大皿に美しく盛りつけられた刺身の数々は、
ヒラメ、マダイ、クロソイ、スズキ、メバルなどなど。
モドゥムならではの実に贅沢な光景である。

まあ、韓国では白身魚以外を刺身であまり好まないため、
モドゥムといえども、見た目は白1色だったりする。

であるがために、やっぱり途中で食べ飽き……。

「結局、モドゥムでも最後はしゃぶしゃぶなんだよ!」

という結論に至る。

あれ、また話の展開が逆になったな。
ともかくもモドゥムは魅力的なのである。

キムパプ(韓国式海苔巻き)もモドゥムがいい。
この場合は盛り合わせよりも、全部入りという表現が妥当。

韓国式の海苔巻きは具を多めにして太巻きで作り、
卵焼き、ホウレンソウのナムル、ハム、たくあんなどが常連の具。
専門店ではそこに、メインの具を加えて巻いてくれる。

ツナを巻き込んだチャムチキムパプ!
スライスチーズを巻き込んだチーズキムパプ!
炒めた牛肉を巻き込んだソゴギキムパプ!

個性的な味のキムパプがいくつも揃うが、
モドゥムキムパプはそのメイン級の顔ぶれをすべて投入。
オールスター豪華絢爛キムパプとなるのだ。

韓国料理は味の複合こそが魅力の料理。
モドゥムはその最高形態であるといえよう。

焼肉店で出てくる部位の盛り合わせもモドゥム!
プデチゲ(ソーセージ鍋)やタッカルビ(鶏と野菜の炒め焼き)の、
トッピングも全種類投入するのがモドゥム!
四の五のいわず全部持って来いというのがモドゥム!

その豪快さは、フレーズを口にするだけで心が浮き立つ。

中でも個人的にナンバーワンと推したいのがモドゥムジョンだ。

ジョンとは野菜や白身魚、キノコなどに小麦粉をつけ、
溶き卵をくぐらせて衣焼きにした料理の総称。
韓国では祭祀料理や宴会料理として多く作られるほか、
マッコルリの定番おつまみとして人気を集める。

民俗酒店(ミンソクチュジョム)と呼ばれる伝統様式の居酒屋では、
巨大な鉄板を用意し、常に多くのジョンを焼いている。

店の外から見えるように店頭で焼いていることも多く、
それを見るとついつい吸い寄せられるように入ってしまう。

「おや、ここはジョン焼いてるな」
「うーん、これは美味しそうだなぁ……」
「美味しそうだ……あ、あ、あああ、あーれー!」

その吸引力たるや、新製品の掃除機よりも凄まじい。
ハラホロヒレハレなどと呟いているうちに、
あっという間に、ジョンとマッコルリを交互にやっつけている。

韓国におけるさまざまなおつまみの中でも、
抗いがたい吸引力を持つ、料理として推薦したい。

素材のうまさをさっと焼いて活性化させるとともに、
油を吸った小麦粉と卵の衣が、柔らかい甘味を加える。
天ぷらよりも薄衣だが、卵の味わいは強く感じる。
ひとつひとつが小ぶりで、つまみ安いのも嬉しい。

モドゥムジョンの代表的顔ぶれはこんな感じ。

・センソンジョン(白身魚のジョン)
・エホバクジョン(カボチャの未熟果のジョン)
・キムチジョン(キムチのジョン)
・カムジャジョン(すりおろしたジャガイモのジョン)
・トゥブジョン(豆腐のジョン)
・クルジョン(牡蠣のジョン)
・プッコチュジョン(ひき肉を詰めた青唐辛子のジョン)
・ポソッジョン(シイタケなどキノコのジョン)
・トングランテン(ひき肉のジョン)
・ケンニプジョン(エゴマの葉のジョン)

個人的にはセンソンジョンとトングランテンがお気に入り。

モドゥムジョンは大皿に盛られて出てくるので、
少なからず、どのジョンがどれだけわからないこともある。
そんなときに、自分好みのジョンを素早く見極め、
さりげなくするするっと手を伸ばすのも楽しさのひとつだ。

時折り、意外な具に出会えるのも魅力だろう。

カニカマとネギ、牛肉などを指した串焼きのジョン。
たっぷりのエノキダケを衣で包んだシャキシャキのジョン。
ランチョンミート(スパム)や、魚肉ソーセージなど、
加工肉を素材としたジョンもチープだがよろしい。

先日、出会って感動したのはエゴマの葉に、
チャプチェ(春雨炒め)を包んで焼いたジョン。
エゴマの葉にひき肉を詰めたものはよく見るが、
そこにチャプチェを詰めるというのは初体験だった。

韓国でもそこまでたくさんの種類を見ることはないが、
おそらく工夫次第で、かなり楽しめる料理なのではと思う。

気分としてはオデンの具を開発するイメージ。

餃子巻きにヒントを得て、餃子のジョンはどうだろう。
ゆで卵のジョンなども、こってり濃厚でいいかも。
あるいはオデンの練り物もジョンになりそうだ。
意外性の具、トマトも爽やかなジョンになるかもしれない。

おそらくジョンの意外な境地を発見できる気がする。

たっぷりの小麦粉、たっぷりの卵、たっぷりの具。
それと巨大な鉄板を用意して、新作ジョン大会を開催したい。
評価の高かったジョンを10種類ほど選抜し、
それを大皿に盛りつけて、キングオブモドゥムジョン!

そんなことができたら、あまりの幸せで死んでもいい。

ぜひみなさん、できる限りの知恵を絞って、
いつの日か新作ジョン大会を実現させましょう。

<お知らせ>
仕事が忙しくHPの更新ができません。
落ち着いたら、まとめて更新したいと思います。
http://www.koparis.com/~hatta/

<八田氏の独り言>
モドゥムジョン同好会を結成します。
今日はエイプリルフールですが結成します。

コリアうめーや!!第170号
2008年4月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



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