コリアうめーや!!第126号

コリアうめーや!!第126号

<ごあいさつ>
6月になりました。
いよいよワールドカップ開催の月です。
すでに明け方から日本対ドイツの試合を見てしまったり、
徐々にワールドカップモードの生活になっています。
今回は時差の関係で深夜の中継が多いんですよね。
この分だと寝不足になるのも間違いなし。
4年に1度の祭典ということで、
今から覚悟を決めたいと思います。
さて、今号のコリアうめーや!!ですが、
ふとした思い付きから韓国料理の食べ方に着目してみました。
料理そのものではなく、いかに食べるかという部分。
文化の似通った隣の国とはいえ、
やっぱり独特の食べ方があります。
コリアうめーや!!第126号。
通を目指して、スタートです。

<韓国料理の通なる食べ方大研究!!>

先日、インドカレーを食べていてふと思った。
これはスプーンで食べていてよいのだろうか。

そこはインド人が経営するカレーの専門店。
日本のいわゆるカレーショップではなく、
本格的なインド式カレーを提供する店であった。

もちろんスプーンで食べてよいのだろうが、
インドでは手で食べるのが正式だと聞く。
となると、このカレーも本来は手で食べるものなのか。
手で食べれば店の人も喜ぶのだろうか。

というようなところからひとつの記憶が蘇った。

今からすでに10年以上も前のこと。
僕はネパールを旅行し、ある店でカレーを食べていた。

初めは出されたスプーンで食べていたが、
見ると周りのネパール人はみな手を使って食べている。
それに興味を覚えて真似してみたところ、
給仕をしていたネパール人が、

「おお! キミはネパリ(ネパール人)だな!」

と大喜びしたのである。
機嫌をよくしたのかサービスが途端によくなった。

おそらく納豆を食べているイギリス人を見たとか、
豪快に音をたてて蕎麦をすするフランス人と見たとか、
そういった種類の喜びなのではないかと思う。

外国人が自国の文化に積極的な姿は素直に嬉しい。

この着想をヒントに韓国料理についても考えてみた。
同じように韓国ならではの食べ方があるのだろうか……。

少し考え始めたところで、いくつもの食べ方が思い浮かんだ。
そうだ。韓国にも個性的な食べ方がたくさんあるではないか。

その姿を見た韓国人が思わず、

「おお! キミはハングッサラム(韓国人)だな!」

と叫んでしまうような、
韓国式の「通なる食べ方」をまとめてみた。

まずは基本的な作法から抑えていこう。
韓国料理における食べ方の基本的要素は、

1、混ぜる
2、包む
3、飯を汁にぶち込む

の3つが軸になると思われる。

中でも「混ぜる」という食べ方は、
韓国料理全般にまたがる重要な作法だ。
韓国料理は個々の素材を楽しむ日本料理と違い、
複合的に交じり合った味を好む傾向にある。

しかも混ぜるといってもその度合いが半端ではない。

さっくりと軽く混ぜるなどは言語道断。
入念かつ徹底的な姿勢で混ぜていくのが正しい。
目安としては料理のどこを食べても同じ味になる程度。

例えばビビンバは全体がオレンジの単色になるまで混ぜる。
あるいはカレーライスも全体が黄色の単色になるまで混ぜる。
果ては氷アズキなども全体が紫色の単色になるまで混ぜる。

適度な混ぜ具合を会得するには8年ほどかかるだろう。
これを韓国では「桃栗3年、混ぜ8年」と言う。

あるいは麺料理を混ぜるのもなかなか難しい。
韓国にはチャジャンミョンをいう国民食的麺料理があり、
平たく言うと韓国式のジャージャー麺である。

真っ黒な肉味噌を麺の上にどろっとかけた料理で、
これも食べる前に全体をよくかき混ぜなければならない。

麺を巧みにほぐしつつ、均一に味噌を混ぜ込んでいくのだが、
意外に技術が必要で、下手をすると味噌が服に飛んだりもする。
ビビンバを混ぜるよりもはるかに難しいので……。

「麺打ち3年、茹で8年、混ぜは一生」

という格言にまでなっていたりする。
韓国料理において混ぜるという作業は実に奥が深い。

2番目の「包む」という食べ方も重要である。

主に焼肉類を食べるときの作法でだが、
焼肉以外にも刺身を包んだりとその用途は広い。
包む野菜はサンチュ、エゴマの葉などが代表的なところで、
料理によっては湯通しした白菜なども活躍する。

難しいのは何を一緒に包むのかという選択。

焼肉の場合だと、まずサンチュとエゴマの葉を重ね、
肉、ニンニク、青唐辛子、ネギの和え物、
サムジャンと呼ばれる合わせ味噌などを乗せていく。

場合によっては副菜のナムルなどを包んでもよいし、
酢漬けにした薄切り大根などをはさむこともある。
あるいは、ごはんを一緒に包んだりしても美味しい。

どれとどれを組み合わせるかによって味は変わり、
自分の好みに仕上げるのはなかなかに難しい。
組み合わせの数はそれこそ無限であり、
食材構成によって、ありとあらゆる味わいを生み出せる。

従ってここから「包みの極意は円周率」という言葉が出てくる。

円周率は無限に続く数であり、また包む際の黄金比率にも関係する。
野菜3(サンチュ、エゴマの葉、薄切り大根)に対して肉1切れ、
味付けがニンニク、青唐辛子、ネギ、サムジャンの4種類。

3.14の黄金比率で食べる焼肉はたまらなく美味しい。

最後の「飯を汁にぶちこむ」は日本人にとって禁断の味である。

日本では味噌汁にごはんを入れて食べたりすると、
周りから白い目で見られたり、非難の言葉が飛んでくる。
どんなに美味しくとも、行儀の悪い食べ方でしかない。

ところが韓国に行くと当たり前の食べ方どころか、
むしろ積極的に奨励される食べ方となるから面白い。

牛肉を煮込んだコムタンやソルロンタン、
あるいはミヨックク(ワカメスープ)などは、
どれもごはんを入れてこそ真価という料理である。

飲食店では最初からごはんが入っているケースもあり、
こうした料理を総称して、クッパプ(クッパ)と呼ぶ。
汁をたっぷり吸い込んだごはんは柔らかくて食べやすいうえ、
ごはん噛み締めることによって汁のうまみも際立つ。

日本人の中には抵抗を覚える人もいるかもしれないが、

「韓国ではOKなんだ!」

と力強く念じつつ、心の扉を開いてもらいたい。

心理学的にはこの乗り越えてゆく葛藤を、
扉を開ける鍵になぞらえて「シルモンの鍵」と呼ぶ。
典拠は中世に書かれた魔術書によるらしい。

さて、基本的な食べ方についてはこの程度とし、
引き続いてさらに「通なる食べ方」を紹介してゆく。
段階でいくと中級編くらいの食べ方だ。

思いつくままにずらりと並べていくとしよう。

1、冷麺は冬に食べる
夏のイメージが強い料理だが本当の旬は真冬。
朝鮮時代の料理書にも旧暦11月の季節料理として出ている。
空気が乾燥する時期に冷たいスープは何よりのご馳走。
オンドル(床暖房)のおかげで室内が暖かい韓国ならではの味だ。

2、冷麺の麺は切らずに食べる
飲食店では店員がハサミで切ってくれるが、
これをビシッと断るのが真の麺好きだとされる。
冷麺の醍醐味はコシのある麺を歯で噛み切ることにある。
麺が短いとノド越しだけで、麺そのものを味わえないのだとか。

3、ビビンバはスプーンでなく箸で混ぜる
ビビンバはよく混ぜて食べなければならないが、
米粒をつぶしてしまっては、また味を損ねることになる。
スプーンで一気に混ぜるよりも箸で混ぜたほうが丁寧。
具の味わいとともに、米の味も最大限に楽しめる。

4、暑い日にこそ熱いものを食べる
真夏のジリジリ暑い日にチゲなどの熱い料理を食べる。
韓国には「以熱以治(イヨルチヨル)」という言葉があり、
文字通り熱を以って熱を治めるとの考え方である。
食べ終えたら「シウォナダ(涼しい)!」と満足げに言う。

5、焼酎のビン底にヒジ打ちをくらわせる
厳密に言えば食べ方ではないが酒席での正しい作法。
ヒジ打ちをくらわせたら、上澄み部分を灰皿などにちょっと捨てる。
かつての焼酎は不純物が多かったので、それを除く意味がある。
醸造技術が発達した今では特に意味のない習慣。

この手の話はいくらでも出てくるが、
細かく語りだすとキリがないので適当でやめておく。

ほかにも冷麺は茹で卵の黄身をスープに溶いてから食べるとか、
ビビンバは混ぜるまえにモヤシスープをひと匙振り掛けるとか、
こだわった食べ方というのは料理ごとにずいぶんある。

ただ、この手の食べ方は人それぞれであり、
好みによっては、違う食べ方でもよいと思われる。

僕自身、冷麺を切らずに食べると断ったにもかかわらず、
途中であまりの固さに、店員を呼んでハサミをもらったことがある。
またビビンバを箸で混ぜるという話は、
よく聞く割に実践している人を1度も見たことがない。

これらは通なる食べ方ではあるものの、
迂闊に真似をすると半可通になる危険性も秘めている。
興味のある人は自己責任のもとに試して欲しい。

最後に究極の「通なる食べ方」を紹介して終わろう。

それは包み野菜のサンチュを主役として食べる方法。
韓国人の友人が、焼肉を食べていた際に、
特別にということで教えてくれた食べ方である。

この食べ方ではヤンニョムカルビやテジカルビのように、
タレに漬け込んである肉を焼くスタイルでなければならない。

まずはメインである焼肉をバババッと食べてしまい、
追加を注文する際に、肉の乗っていた皿を下げないでもらう。
皿の上には漬けダレが残っており、これが重要となる。

サンチュをこの漬けダレにまんべんなく浸し、
しんなりとしてきたところで肉と一緒に焼く。

野菜なので肉よりもはるかに火の通りは速い。
うっかり焦げてしまわないように注意を払いつつ、
火が通ってきたなと思ったら、そこでさっと素早く食べる。

漬けダレの甘味と、サンチュのほのかな渋み。

生野菜としてのシャキシャキ感をわずかに残しつつ、
隠れていた野菜らしい味わいを表に出してくれる。
中華料理でレタスに火を通すような意外性のある味わい。

サンチュの新たな個性に出会える食べ方だ。

これぞまさに究極の通なる食べ方。
機会があったら是非試して欲しい。

ただし、教えてくれた友人との間に……。

「こういう食べ方は初めてだよ」
「そうだろう、そうだろう」

「韓国でもあんまりやる人いないよね」
「まあ、いないだろうねえ」

「やっぱり韓国でも知る人ぞ知る食べ方なのかな」
「ううん、これウチの親父が好きなだけ」

「えっ?」
「韓国でもこんなことするの我が家だけだね」

という会話があったことを付け加えておく。

<お知らせ>
通なる食べ方の写真がホームページで見られます。
よかったらのぞいてみてください。
http://www.koparis.com/~hatta/

<お知らせ2>
今年から新たにブログを始めています。
日々食べている韓国料理の記録を残しています。
http://koriume.blog43.fc2.com/

<八田氏の独り言>
念のために書いておきますが、
文中の格言モドキはみんな大嘘です。

コリアうめーや!!第126号
2006年6月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



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