コリアうめーや!!第124号

コリアうめーや!!第124号

<ごあいさつ>
5月になりました。
町はすっかり春の気配に包まれています。
涼しい風が吹き抜けて心地よかったり、
あるいはぐっと気温が上がって汗ばんだり。
新緑がまぶしく、また空は抜けるように青く、
外を歩いていると実にすがすがしい気分。
この時期が連休なのは本当に嬉しいことです。
ちょうど韓国から友人が遊びに来ており、
連休中は同行して東京近辺の観光を楽しんでいます。
さて、今号のコリアうめーや!!ですが、
いま日本の韓国料理勢力図に変動が起きています。
韓国では定番のあの料理が急浮上。
あちこちで熱い注目を集めております。
韓国にいた頃によく食べていた料理なので、
ここはひとつ力を入れてレポートしたいところ。
コリアうめーや!!第124号。
春風を鼻息で吹き飛ばす、スタートです。

<来たぞスンドゥブチゲ新時代!!>

2005年はサムギョプサルの時代だった。
2006年はスンドゥブチゲの時代である。

などと、いきなり時代を斬るような書き出しだが、
どのみち僕が考えたフレーズなので信憑性は薄い。
周囲の様子をキョロキョロとうかがいつつ、
なんとなくこんな感じ? 程度の分析に過ぎない。

あくまでも僕なりに状況を見つめて検討した結果だが、
スンドゥブチゲの時代は着実に来ているように思う。
2006年はスンドゥブチゲの時代なのだと、
勇気を出して声高々に提唱してみよう。

ちなみにここで言う「時代」とは日本でのこと。
本場韓国での流行とは一切関係がなく、
日本、それも僕の住む東京近辺の話が中心となる。

この話題は本メルマガのバックナンバー、

「第103号 東京にて豚焼肉戦争勃発!!」
「第111号 日本に押し寄せる食の韓流!!」

の続編的な話と位置づけることとしたい。

さて、まずはスンドゥブチゲの基本から抑えよう。

スンドゥブチゲとは豆腐を具にしたチゲのこと。
押し固める前の柔らかな豆腐をスンドゥブと呼び、
フルフルととろけるような食感が持ち味である。

歯触りよりも、舌触りとノド越しで味わう豆腐なので、
軽快なる味わいが、唐辛子たっぷりのスープとよく合う。
噛まずとも「テュルルン!」とノドの奥へと消えていく。

韓国ではどこの食堂にも必ずある定番メニュー。
キムチチゲ、テンジャンチゲ(味噌チゲ)と並んで、
韓国チゲ界3本柱のひとつとして人気を集めている。

僕が留学生だった頃は、主食にも等しい料理だった。

値段が安く、栄養価に富み、そして何よりも美味しい。
近所の食堂や、学生食堂などで、日々嬉々として食べていた。

あまりにたくさん食べたので、自分なりのこだわりもできた。

スンドゥブチゲの魅力として、僕は卵の存在をあげたい。
卵への火の通り具合にこそ大騒ぎする価値があるのだ。

グツグツと煮立ったチゲに生卵をコンコンカシャッ。
いわば日本のソバにおける、月見の状態になるのだが、
スープが高温であるがために火の通りが非常に速い。

卵は通常調理の最終段階で落とされるので、
普通であれば生と半熟の中間程度で運ばれてくる。

店が混んでいたり、ちょっと運ばれてくるのが遅れると、
無残にも卵の黄身がガチガチボソボソに固まってしまうのだ。

僕は半熟の黄身をチゲの中からすくい出し、
ごはんの上に着地させて、卵かけごはん状態にするのが好きた。
黄身が完熟では、その歓喜の移動が無意味になる。

黄身が固まっていたり、あるいは中で崩れてしまったり。
望まない卵のスンドゥブチゲが出てきた日には全力で落ち込み、
今日は縁起が悪い、と自室でフテ寝を決め込むほどだった。

「スンドゥブチゲの卵が割れていたから宿題はしない!」

小学生よりも大人気ない、自己中心的な留学生だった。

他にも柔らかい豆腐が熱いままノドに流れ込んだとか、
ダシであり、具でもあるアサリがいつもよりも少なかったとか。
些細なことでへこんだり、あるいは逆に浮かれまくった。

卵のの半熟具合がカンペキに自分好みだったりすると、

「スンドゥブチゲの卵が絶妙でめでたいから宿題はしない!」

などとまで言い出す始末。
満面の笑みを浮かべながら、幸せの昼寝を決め込んだものだ。
思えば本当に宿題をしない留学生であった。

それほどスンドゥブチゲを愛していた僕なので、
留学を終えて、日本に帰国してからの生活は不幸であった。

なにしろ気軽にスンドゥブチゲを食べることができない。

東京に何箇所かあるコリアンタウンに行けば食べられるが、
そうそう通い詰めるわけにもいかず、食べられる回数が激減。
理想の卵に出会える頻度も、同じく極端に減ってしまった。

日本にいるのだから仕方ない話ではあるのだが、
悲しいことに、日本の他地域では状況が異なるのである。

東京はまがりなりにも日本の首都であるが、
ことスンドゥブチゲに関しては完全なる後進地域だった。
前を走っていたのは大阪、名古屋といった地域。

東京よりも早く、スンドゥブチゲ専門店が進出している。

2003年8月、大阪に1号店を構えたのは「まん馬」。
「すんどぅーふ」という大阪らしい柔らかなネーミングを考案し、
スンドゥブチゲという新しい料理を地域に定着させた。

2006年5月現在までに大阪だけで4店舗が展開。
着実にスンドゥブチゲという料理で地位を固めつつある。

また「まん馬」の直後には「OKKII(オッキー)」が開店。
こちらも豊中市、箕面市と2店舗を展開中だ。

対して、名古屋では2004年6月に韓国のチェーンが進出。
「BSD DUBU HOUSE」の名でオープンし、
同じく現在までに名古屋内で3店舗が営業中である。

東京に住む僕はこの不遇な事実に嘆くよりほかなく、
ことあるごとに、ブチブチと不満をぶちまけていた。

「スンドゥブチゲを自由に食べられないなんて!」

金輪際宿題はやらないぞ! とストライキでも起こそうと思ったが、
すでに学校は卒業しており、そういうわけにもいかなかった
不満は頂点に達し、爆発寸前の状況に追い込まれていた。

正直、そのイライラ状態があともう少し続いていたら、
スンドゥブの角で頭をぶつけて、自殺を図っていたかもしれない。
だが喜ばしいことに、寸前のギリギリで状況が変わったのである。

スンドゥブチゲ時代の流れが、東京にもやって来たのだ。

口火を切ったのは2005年11月に新大久保でオープンした、
ロサンゼルス生まれの「BCD TOFU HOUSE」。

韓国料理界における逆輸入的存在のチェーン店で、
ロサンゼルスの韓国人コミュニティから生まれている。
ヘルシーブームに乗って、まずアメリカで確固たる地位を築き、
その後韓国に舞い戻って支店をオープン。故郷に錦を飾った。

新大久保に出来たのはその店の日本1号店。
東京を代表するコリアンタウンからまず店を構えたのは、
ある意味、ロサンゼルス発の店らしい選択でもある。

僕はこの情報を聞きつけるや、早速店へと飛んで行き、
久しぶりにスンドゥブチゲの魅力を堪能した。

豊富な具に、石釜で1人前ずつ炊いたごはん。
卵は自ら割り入れる流行のスタイルなので、
重要な黄身の固さも、自分好みに自由自在である。

「いやあ、いい時代になったなあ」

と僕はえびす顔でひとり喜んでいたのだが、
事件はこれが始まり。ここからさらなる展開が待っていた。

小さく燃え始めたブームの火を、さらに育てたのが、
今年1月15日から始まったTBS系ドラマ『輪舞曲(ロンド)』。
主人公であるチェ・ジウ(ユナ)とイ・ジョンヒョン(ユニ)の姉妹が、
劇中でスンドゥブチゲの専門店『チャメ(姉妹)』を始めた。

これだけでもスンドゥブチゲ好きには大きなニュースだが、
驚いたのは、劇中の店を現実世界でもオープンさせてしまったこと。

神奈川県の溝の口に作ったロケ用の店舗を改装し、
撮影を続けながら、営業体制を整えて一般客に公開したのだ。
劇中の料理を現実に食べることができるというのは画期的で、
ドラマファン、韓国ファン入り乱れて大きく注目を集めた。

オープン日の2月12日には150人の客が詰めかけ、
あまりの大行列に店側が整理券を配る騒ぎとなった。

そして、この店の経営母体が『牛角』で有名な、
レインズインターナショナルだったのも展開に拍車をかけた。
溝の口のロケ地店舗以外に、『牛角』『土間土間』などの系列店舗でも、
「チャメのスンドゥブチゲ」としてほぼ同時に発売を開始。

同じく系列コンビニの『am/pm』でも商品を展開し、
首都圏を中心に、スンドゥブチゲの名は急速に広まっていった。

ドラマとの相乗効果でひとつの韓国料理が大ブレイク。

「これは本当にスンドゥブチゲ時代が来るかもしれない」

色めきたった僕は、宿題どころか昼寝までも放り投げ、
東京近辺のスンドゥブチゲ事情調査に没頭した。

すると、驚くべきことに、さらなる専門店の存在が発覚したのである。

4月12日表参道に『東京純豆腐(東京スンドゥブ)』がオープン。
これまた、まったく新しいスンドゥブチゲの専門店で、
表参道という場所柄からも、スタイリッシュな雰囲気をウリにしている。

ホームページでは

「韓国で産声をあげ、ロスでブレイク、東京で進化する……」

というキャッチコピーのもと、ラーメンやカレーのように、
日本の食文化に定着する韓国料理を目指すとしている。
表参道だけでなく、今後はさらに支店を増やす計画らしい。

溝の口の『チャメ』も同じくチェーン店化を宣言しており、
すでに4月25日には恵比寿で2号店のオープンにこぎつけた。
3号店もすでに準備中で、遠からず開店となる見込みである。

スンドゥブチゲを取り囲む状況は、短期間にバタバタと一変した。
これを「時代」と呼ばずしてなんと呼べばよいのだろう。

2006年はスンドゥブチゲの時代である。

僕が韓国で日々食べていたスンドゥブチゲが、
日本でも同じように、日々食べることが可能になる。
ここしばらくの成り行きを見ていると、
それは遠い未来のことではないような気がする。

空腹を覚えて周囲を見渡すと、カレーやラーメンの店と並び、
スンドゥブチゲの専門店がのれんを掲げている。
すかさず入って、卵が半熟だの完熟だのと一喜一憂し、
あるいは豆腐が熱いだの、アサリが少ないだのと大騒ぎする。

そんな暮らしが日常のものになろうとしている。

韓国で愛されるスンドゥブチゲという料理が、
日本でも同じように愛される日は近い。

そう思ったらもういても立ってもいられない。

「スンドゥブチゲ新時代でめでたいから宿題はしない!」

くらいの意気込みで新時代を喜ぼうではないか。

<おまけ>
メルマガに登場したお店データ

店名:まん馬(まんま)西新地本店
住所:大阪府大阪市北区曽根崎新地2-4-19
電話:06-6344-4448
HP:なし

店名:OKKII(オッキー)本店
住所:大阪府豊中市上野西3-17-18
電話:06-6852-0110
HP:なし

店名:BSD DUBU HOUSE桜通本町店
住所:愛知県名古屋市中区錦2-4-8宮崎錦ビル2階
電話:052-221-0234
http://meisei777.com/bsdtop.htm

店名:BCD TOFU HOUSE
住所:東京都新宿区大久保1-15-15秋山ビル1階B号室
電話:03-5292-6086
http://www.bcdtofu.co.jp/

店名:姉妹(ちゃめ)
住所:神奈川県川崎市高津区溝口2-7-18
電話:044-811-6644
http://www.reins.co.jp/brands/brandfactory/chame.html

店名:姉妹(ちゃめ)恵比寿店
住所:東京都渋谷区恵比寿南2-1-1荻原ビル1階
電話:03-5724-4566
http://www.reins.co.jp/brands/brandfactory/chame.html

店名:東京純豆腐(とうきょうすんどぅぶ)
住所:東京都港区北青山3-12-1 O24ビル地下1階
電話:03-5766-1121
http://www.tokyo-sundubu.net/

<お知らせ>
スンドゥブチゲの写真がホームページで見られます。
よかったらのぞいてみてください。
http://www.koparis.com/~hatta/

<お知らせ2>
今年から新たにブログを始めています。
日々食べている韓国料理の記録を残しています。
http://koriume.blog43.fc2.com/

<八田氏の独り言>
スンドゥブチゲの店は他にもまだあります。
美味しいお店があったらぜひ教えてください。

コリアうめーや!!第124号
2006年5月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

 

 
 
previous next