コリアうめーや!!第68号

コリアうめーや!!第68号

<ごあいさつ>
あけましておめでとうございます!!
そして、セヘポンマニパドゥセヨ!!
年が明けて、いよいよ2004年です。
今年もコリアうめーや!!は、
韓国のうまいものをどんどん紹介していきます。
どうか宜しくお付き合いください。
さて、そんな年明けの第1弾。
ちょっと珍しい料理の紹介です。
通常は豚肉を使うはずの料理なのですが、
最近になって牛肉で応用した料理が開発されたとのこと。
2004年にブレイクするのではないか、
なんて噂もちらほら聞こえてきています。
さっそく韓国に行って、取材してきました。
コリアうめーや!!第68号。
可能性を追いかけるスタートです。

<ブレイクなるか、牛のサムギョプサル!!>

韓国から友人が遊びに来たときのこと。
新宿、渋谷、原宿、浅草、お台場などをひと通り観光し、
1日ガイドをつとめた僕に友人が言った。

「いやあ、本当にありがとう。次韓国に来たらおごるよ」
「ほー、何をおごってもらおうかな」
「あ、そうそう。最近すごいいい店みつけたんだ」
「どんなの?」
「ウサムギョプ! 牛のサムギョプサルって食べたことないでしょ」
「牛のサムギョプサル……?」

サムギョプサルといえば、豚バラ肉の焼肉のこと。
安い値段と、したたる脂のうまさが魅力の焼肉である。
それの牛バージョンということか。

いや、まてよ。

牛バラ肉といえば、それはカルビのことではないか。
牛カルビの焼肉だったら、特に珍しいものではない。

「それって、カルビじゃないの?」
「うーん、よくは知らないけど、カルビとはまた全然違うんだって」
「ふーん……」
「食べてみたけどやっぱり味が違うね」

なるほど。確かに最近の韓国はマニアック部位がブームだ。
日本でもハラミや豚トロといった珍しい部位が人気だが、
韓国はそのさらに上をゆく細分化され具合である。

日本のハラミに相当するアンチャンサルや、
牛の肋間の肉を薄くとったチャドルペギなどは徐々に一般的になってきたが、
それでもまだまだわけのわからない部位がたくさんある。

そういった現状から考えると、
確かにカルビではない、牛バラ肉があっても、おかしくないのかもしれない。
1頭の牛から本当に少量しかとれない肉なのかもしれないし、
あるいは包丁の入れ方、肉の取り方が違うのかもしれない。

一体、牛のサムギョプサルとはどんな肉なのだろう。
そう考えていたら、いてもたってもいられなくなり、
年末の忙しい時期に、あたふたと3泊4日で韓国に行ってきた。

仁川空港に到着したのが18日の夜。
短い日程なので、時間はたいへんに貴重である。
到着してすぐ、牛のサムギョプサルを食べにいく予定を組んだ。

狎鴎亭洞(アックジョンドン)という町のメインストリートから、
小道に1本入ったところにその店はあるとのこと。

「人気のある店だから、はやく行かないと閉っちゃうかも!」

友人は会うなり、そう言って僕をせかした。
総勢5人のメンバーだったが、慌てているので全員が1台のタクシーに乗る。

「もう9時過ぎだな……」
「運転手さん、できるだけ急いでください」

だが、到着してみると店の看板には「24時間営業」の文字が光っていた。

席について、さっそく目当ての牛のサムギョプサルを注文する。
店の壁にはウサムギョプと書かれたメニューが大きく貼り出されていた。

「ほらほら、本当にウサムギョプって書いてあるでしょ」
「ほんとだ。ウサムギョプだ……」

ウサムギョプの「ウ」は韓国語で「牛」を表す。
サムギョプサルがバラ肉という意味なのだが、長いので縮めたのだろう。

メニューはご丁寧にもウサムギョプの「ウ」の字が赤くなっていた。
これは普通のサムギョプサルではありませんよ。
「牛(ウ)」のサムギョプサルなんですよ。
と店中が静かにアピールしているようだ。

ほどなくして店員が運んできたのは、平皿に盛られた薄切りの肉であった。

「お、お、お、お、これがウサムギョプ……」

思わず写真をバシバシ撮りまくる。
店員は何事かと慌てて、目を白黒させている。

「ふむ、思ったよりも肉が薄いな」
「バラ肉だけあって、脂身が多いね」
「カルビとはまったく違うな」
「うまそう。腹へった」

それぞれが好き勝手な感想を述べる。

やや緊迫した雰囲気の中、店員がおっかなびっくり肉を焼き始める。
鉄板の上に乗せられたウサムギョプは、みなが固唾を飲む中、
いきなり焼けて食べごろになった。

「おおっ、肉が薄いからすぐ食べなきゃだめだ」
「脂身が溶けると鉄板が透けてみえるくらい薄いな」

肉の厚さはしゃぶしゃぶ用の肉に匹敵するかというくらい。
それこそ、鉄板に乗せたそばから、どんどん食べごろになっていく。

ちゅるちゅるちゅるちゅるちゅるちゅる。
脂身が溶けて端から丸くなっていく。

じわじわじわじわじわじわじわじわじわ。
身をきゅーっと縮こめていく感じが妙にかわいい。

「このタレにつけて食べるんだよ」

と、友人がタレを指さした。
1人ずつに配られたタレは、
唐辛子と醤油をベースにしつつも、ほどよい甘味と酸味があった。
脂がしたたり落ちるウサムギョプを、タレにつけて口に運ぶ。

「おおっ、うまい!」

思わずみんなから声があがる。

「うーん、これが牛のサムギョプサルか……」
「このタレがいいねえ……」

肉は乗せるなり焼けていくので、
酒を飲んだり、しゃべったりという時間がほとんどない。
なんだかカニを食べているような黙々とした雰囲気になった。

「うん、サンチュで包んでもいいけど、やっぱりタレがうまいな」
「バラ肉だけあって、少し肉がパサパサするかな」
「それにしても、これ、何かに似てないか?」
「何?」

そしてこの時、決定的な転換期が訪れる。

「なんか、牛丼の肉みたいだな」
「牛丼?」

そう言われてみると、確かに牛丼の肉に似ている。
冷静に考えれば、牛丼も牛バラ肉を使っているのだ。
煮るか焼くかの違いはあれど、本質的には牛丼と変わらない……。

その瞬間から、脂身がちゅるちゅると溶けて丸くなり、
きゅーっと身を縮こめたかわいい肉は、ただの見慣れた牛丼の肉になり下がった。

「なんか、牛丼にしか見えなくなった……」
「うーむ、うまいはうまいのだが……」

そして僕は、あることに気付いてしまう。

メニューを眺めてみると、
牛のサムギョプサルは、なんとその店で1番安い肉なのであった。

「あ、そうか、やっぱりこれはサムギョプサルなんだ……」

もともとサムギョプサルとは、焼肉の中で最も安いメニューである。
牛肉ではなく豚肉。それも値段の安いバラ肉。
味もさることながら、豚バラ肉を焼くというシンプルさと、
値段の安さで、絶大な人気を得てきたのだ。

近年、ワインに漬けこんだサムギョプサルなど、
高級化がはかられていたため、ついついその本質を忘れていた。

牛のサムギョプサルという単語を聞いて、
なにか素晴らしい新商品ではないかと思い込んでいたが、
よくよく考えてみれば、牛バラ肉の焼肉なのである。
ロースやカルビなどの部位に比べれば、はるかに格が落ちる。

僕は牛のサムギョプサルをバクバク食べながら考える。

牛のサムギョプサルというのは確かに画期的なメニューだ。
高価な霜降り肉にはない、安さとシンプルさの魅力がある。
だが、それはサムギョプサルとしての本質を理解すればの話だ。

そうしてみると、この牛のサムギョプサルは実に曖昧な地位にあるのではないか。

豚肉よりも高級な牛肉の中で最も安い部位。
それは中国の故事における「鶏口牛後」の「牛後」にあたる気もする。

せっかく牛肉を食べるのなら、もう少しお金を出してカルビを。
あるいはお金を節約してたくさん食べたいなら豚のサムギョプサルを。
その中間に位置する牛のサムギョプサルは、いつ食べればよいのだろうか。

僕は牛のサムギョプサルを、さらに頬張りながら、
うむむ、うむむ、と頭を悩ませた。

現在のところ、牛のサムギョプサルは、
ソウルの南部を中心に勢力を伸ばしている状況である。

雰囲気としてはオギョプサル(サムギョプサルに加え、皮とカルビまでを含めた肉)が
はやり始めてきたときの感じと似ている。
ブームになるか否かの瀬戸際にあるという印象だ。

安い値段で個性的な牛焼肉が食べられるという点では、
充分にブレイクの兆しをもった料理であることは間違いない。
牛丼の魔力にはまったため、やや心象を落としたが、
それまでは夢中になって食べていたのも事実だ。

味と値段の比較で言えば、充分に満足できる焼肉である。
今までに食べたことのない味で、しかもおいしい。

まだ現段階でこの料理を評価することはできない。
ブレイクするのか、ただの珍料理で終わってしまうのか。

牛のサムギョプサル。
2004年1番の注目株である。

<お知らせ>
牛のサムギョプサルの写真がホームページで見られます。
よかったらのぞいてみてください。
http://www.koparis.com/~hatta/

<お知らせ2>
『八田式「イキのいい韓国語あります。」韓国語を勉強しないで勉強した気になる本』は好評発売中です。ホームページでは裏話、ブックレビューなどを紹介しています。
http://www.koparis.com/~hatta/news/news_000.htm

<八田氏の独り言>
その牛丼すら食べられなくなる予感。
また牛肉受難の年になるんですかねえ……。

コリアうめーや!!第68号
2004年1月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



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