コリアうめーや!!第65号

コリアうめーや!!第65号

<ごあいさつ>
なぜか寒い夏と、不思議に暑い秋が過ぎ、
気がつけば風がずいぶん冷たくなってきました。
カレンダーに目をやると、もう11月も半ば。
コートのえりを立てる季節がやってきています。
先日、シーズン初の寄せ鍋を食べ、
その温かさに思わず落涙いたしました。
いよいよ鍋の季節到来。
本格的な冬もすぐそこです。
ひゅー、ぴゅるるるー。
さて、今号のコリアうめーや!!ですが、
とある悩ましい韓国語について考察してみました。
日本語と韓国語は文法的に似ているといいますが、
やっぱり韓国語は外国語なのです。
ちょっと不思議な感覚に身を浸しつつ。
コリアうめーや!!第65号。
シメにこだわるスタートです。

<喜びの後にさらなる喜びの味!!>

ドキッとするセリフというのがある。

「八田くんって、好きな子いるの?」
「ドキッ!!」

「八田くんみたいな人が彼氏だったらいいなあ……」
「ドキッドキッ!!」

「ねえ八田くん、アタシのことどう思う?」
「ドキッドキッドキッ!!」

中学生、高校生くらいの頃は、
こんなドキドキがたくさんあった気もする。
だが、今ふと周りを見渡してみると、
そんなドキッとするセリフがずいぶん少なくなった。

「八田くん、鼻毛出てない?」
「ドキッ!!」

「八田くん、こないだ貸した5000円いつ返してくれるの?」
「ドキッドキッ!!」

「八田くん、最近メルマガのネタに苦しんでる?」
「ドキッドキッドキッ!!」

気がつけばこんなドキドキばかり。
ああ、人生がつくづく不毛だ……。

しかし、こんなドキドキのセリフも、
僕が韓国で経験したあの一言に比べれば、まだかわいいものである。
世の中にドキッとさせられるセリフというのはいくつもあるが、
その中でも相当上位にくいこむセリフだ。

「八田くん、食事はどうする?」
「えええええええっ?」

いやはや、なんとも。
これほどまでに信じがたいセリフがあるだろうか。
今まで培ってきた常識が根底から覆され、
目の前にあるすべてが信じられなくなる。

一体どのような思考回路を経たら、
このように突飛で、奇妙奇天烈で、常識はずれな質問ができるのだろうか。

そう、思わないか諸君。
うーむむむむむ……あっ、あれれ?

ありゃりゃりゃりゃ。
いかんいかんいかんいかん。

あんまり悩んだから、大事な話が抜けてしまった。
これだけでは、何が衝撃的な質問かわからないではないか。

「八田くん、食事はどうする?」

このセリフがいつどこで飛び出したのか。
それを説明するのを忘れていた。

そう、このセリフは、韓国で焼肉を食べた直後。
カルビだ、ロースだ、ハラミだと、がっつり食べたそのすぐ後に、
目の前の韓国人が僕に言ったセリフなのである。

焼肉を腹一杯、目一杯食べました。
もう満足、満腹、満面の笑顔です。
そんなときに、こんなセリフが飛び出てきたら、
それはやっぱり驚くことであろう。

「八田くん、食事はどうする?」

しょ、食事ですか?
あれだけ食べた後に、まだ食事するんですか?
ていうか、今まで食べていた焼肉は食事じゃなかったんですか?
この上、一体何を食べようというのですか?
ねえ、ねえ、ねえ、ねえ。

果てしなく疑問で、どこまでも悩ましい。
僕の困惑度合いと驚きを、わかって頂けるだろうか。

だが、しかし。

僕を驚かせた、この奇奇怪怪なセリフは、
実は韓国語において「100%」正しいのである。
恐るべきことであるが、韓国人は焼肉を腹一杯食べた後に、
なんと「食事」をするのである。

ただし、この場合の「食事」というのは、
日本語における「食事」と完全なイコールにはならない。
焼肉を食べた後という特定状況下においてのみ、
辞書にも載っていない特別な意味が存在するのである。

ここでの「食事」というのは、
焼肉後の「シメの一品」を指すのだ。

例えば焼肉をたっぷり食べた後に、さっぱりとした冷麺。

この展開は韓国のみならず、日本でも充分に定番だろう。
あるいは石焼きビビンバなどを、シメにもってくる人もいるかもしれない。
はたまたカルビクッパを食べるという人もいることだろう。

焼肉とともにビールや焼酎を飲み、
いい気持ちになったところで食べるシメの一品は確かにおいしい。

韓国にも、この「シメ」が存在し、
この「シメ」のことを、韓国語では「食事」と呼ぶのである。

「八田くん、食事はどうする?」

最初に聞かれたときは、おおいに驚いたが、
その意味さえわかってしまえば、これほど魅力的な言葉もない。

「えーっとね。冷麺がいいな!!」

これが質問に対する、正しい答えである。

では、その「食事」の魅力をもう少し語ってみよう。

まずシメとして、最もポピュラーなのは冷麺である。

牛肉でとった透明感のあるダシに、
酸味のきいたトンチミ(大根の水キムチ)の汁を加える。
こうして作ったスープをキリキリに冷やし、
細くてコシのある麺を入れたのが韓国の冷麺だ。

焼肉の後に食べる冷麺は、まさに至福の味。

器に盛りつけられた冷麺に、チョキンチョキンとはさみを入れ、
酢を少々、カラシを少々加えて、ちゅるるとすすりこむ。

脂じわじわ、肉汁ジューシー、こってり一色だった口の中が、
刹那、涼風吹き抜けたかのように、さっぱりと洗い流されていく。
口から食道、胃に至るまでのラインが、熱を奪われて一気に静まりかえる。

冷たさという御馳走。

それを一際リアルに感じられるのが、焼肉後の冷麺である。

そんな冷麺の対極にあるのがテンジャンチゲだ。
焼肉の後に食べるシメの一品としては、むしろこちらを推奨したい。
あくまでも独断と偏見にまみれた個人的推奨ではあるが、
冷麺よりもテンジャンチゲのほうがよく合うと思う。

テンジャンチゲというのは、味噌で味をつけたチゲのこと。
いわば、韓国の味噌汁である。

ただ一口に味噌汁といってしまうには、
ちょっともったいないくらいのボリュームがある。

ダシはイワシ、牛肉、アサリなどでしっかりととり、
そこに豆腐、長ネギ、ジャガイモ、ホバク(カボチャの未熟果)などが具として入る。
日本であれば味噌汁は煮立てないのが普通だが、
韓国ではこれでもかというくらいグツグツと沸騰させる。

たっぷりの具に、たっぷりの汁。
汁物でありながら、おかずにもなるのが韓国の味噌汁だ。
どっしりと地に足のついた、骨太の味噌汁。
それこそごはんが、いくらでもいくらでも進む。

焼肉でひとしきり焼酎を飲んだ後に、
この味噌のぐつぐつ煮える香りはたまらない。

適度に塩気のきいた汁をスプーンで口に運び、
それを追いかけるかのように、白ごはんをガッポガッポと放り込む。

ああー、生きててよかったぁ……と思う瞬間である。
このシメがあってこそ、焼肉は感動のフィナーレを迎えるのだ。

焼肉の後に訪れる幸せは、焼肉そのものの幸せを倍化させる。
シメのない焼肉なんて、お金のない3連休みたいなものだ。
それ単体だけではなんの喜びもない。

日本ではまだ「韓国=焼肉」というイメージが強く、

「韓国で本場の焼肉を食べよう!」

などといったキーワードがあふれているが、
これはあまりにも安易であり、旧時代的な認識だと言わざるを得ない。

僕はこの安易な常識を徹底的に粉砕したい。

韓国で焼肉を食べるのが悪いわけではないが、
喜びは決してそれだけではない。

「韓国で本場の焼肉とテンジャンチゲを食べよう!」

せめてこのくらいは言えるようになって欲しい。

焼肉の魅力を知り、シメの魅力を知る。
それでこそ本場の焼肉を味わったと言えるのだ。

<おまけ>
「焼肉のあとには何を食べますか?」
(解答者37名、複数回答あり)

1位、テンジャンチゲ……35%
2位、冷麺…………………27%
3位、石焼ビビンバ…………5%
4位、ヌルンジ………………3% 
5位、食べない………………8%
6位、その他………………22%
(コリアうめーや!!がややいい加減に集計)

<お知らせ>
シメの一品の写真がホームページで見られます。
よかったらのぞいてみてください。
http://www.koparis.com/~hatta/

<お知らせ2>
『八田式「イキのいい韓国語あります。」韓国語を勉強しないで勉強した気になる本』は好評発売中です。ホームページでは裏話、ブックレビューなどを紹介しています。
http://www.koparis.com/~hatta/news/news_000.htm

<八田氏の独り言>
最近ドキッとしてますか?

コリアうめーや!!第65号
2003年11月15日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



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