コリアうめーや!!第262号

コリアうめーや!!第262号

<ごあいさつ>
2月になりました。
今年の冬はずいぶん本格的な寒さです。
外に出るだけで、指先から耳までかじかむ感じ。
僕の住む東京など、北国に比べればマシなのですが、
寒さに対する備えがないぶん厳しい気もします。
韓国のようにオンドルがあればいいんですけどね。
短パン、Tシャツで暮らせる韓国の室内を、
日本の住宅にも持ち込めないものでしょうか。
さて、そんなことをぼやきつつ。
今号のテーマでは季節と向き合ってみます。
僕にとってこの2月というのは特別な月。
しかもこれが喜ばしい意味での特別ではなく、
寒さと同様、悩ましいほうの特別なのです。
コリアうめーや!!第262号。
カレンダーを睨みつけて、スタートです。

<韓国料理と2月の苦しい関係!!>

今日から2月である。

新年にかけたカレンダーの1枚目を、
ビリビリと破って、また新たな月が始まる。
正月がずいぶん遠くなったな、という気分もあれば、
もう12分の1が過ぎ去ったかとの驚きもある。

だが、個人的な感想をいうならば、

「ああ、また憂鬱な2月が来てしまったか」

というのが本音だったりする。

よく2月と8月は「ニッパチ」と呼ばれ、
商売が低調で景気の悪い月とされる。
正月、お盆で出費がかさんだ反動ともいわれるし、
暑さ、寒さで外出が減るからともいわれる。

僕はライターなので商売人とは違うのだが、
不思議なことに、僕らもニッパチの影響がある。

ライターの仕事は月単位の締切が多いため、
そもそもの日数が少ない2月は忙しさが増す。
今年は閏年で1日多いからまだよいが、
30~31日でこなす仕事が28日に減るのは厳しい。

また、8月は編集者さんの夏休みで影響を受ける。

1月の正月休み、5月の連休はみな同時に休むが、
不思議なことに夏休みは前後するのが一般的。
日本人にとって「お盆」の習慣が希薄になったためか、
会社によっては9月、10月の夏休みも珍しくない。

すると僕らフリーライターの立場から見ると、

・A社の編集者さんが8月中旬に夏休み
・B社の編集者さんが8月下旬に夏休み
・C社の編集者さんが9月上旬に夏休み
・印刷会社はお盆がまるまる休み

といった感じで、みな休みが異なったりする。
当然、休み前には仕事が前倒されたりするので、
普段とは違った締切がぐちゃぐちゃに設定される。

これに加えて自分の夏休みもあったりすると、
8月は目も当てられない修羅場となる。
仕事の総量はまったく変わっていないのに、
日程的な制限で苦しむのがライターのニッパチだ。

しかし、憂鬱な2月というのはそれだけではない。

ライターとしての2月が厳しいことに加え、
コリアン・フード・コラムニストとしての2月もある。
韓国の2月というのは、どうも目立った料理がなく、
うまいこと季節を絡めた原稿を書きにくい。

冬はもう終わりかけだし、春の話題にはまだ早い。
旧正月が2月にずれ込んで季節の話題になることもあるが、
今年のように1月の旧正月だと目も当てられない。
2月らしい話を書こう、と思ってもネタがないのだ。

例えば、こんな感じで仕事を頂くとする。

「月に1度、季節の韓国料理を紹介してください」
「スタートは年度初め4月号からになります」
「まずはどんな料理がありますでしょう?」

すると、僕は当面の料理をピックアップし、
その編集者さんに月ごとの候補として投げ返す。

<4月>
・チャジャンミョン(韓国式ジャージャー麺)
4月14日は「ブラックデー」と呼ばれ、
恋人のいない男女がジャージャー麺を食べる日。

<5月>
・カンジャンケジャン(ワタリガニの醤油漬け)
4月下旬から5月にかけてワタリガニが旬を迎える。
生のまま醤油漬けにした料理が一般的。

<6月>
・マッコリとチヂミ
チヂミを焼く音は、雨音に似ているといわれる。
雨の日にはチヂミを焼き、マッコリを飲む習慣がある。

この後は、7月のサムゲタン(ひな鶏のスープ)、
8月のパッピンス(カキ氷)といった感じで続いていく。
ある程度、先が見えたところで、

「いいですね、これでいきましょう!」

ということになって仕事は始まる。
秋冬までは、まずまず順当に進んでいくのだが、
終わり間際ではたと困るのが2月の存在だ。

最終回のひとつ前という位置付けで、
いわばクライマックスのような場面である。
盛り上げるだけ盛り上げたいところだが、
それに匹敵する料理が何もない。

2月に何を書くかはけっこうな難問なのだ。

まず考えるのが歳時記とイベントデーだ。

旧正月は季節感からも1月に回すことが多いので、
その後にやってくる、別の何かから考える必要がある。
候補としては、こんな感じである。

・ヤッパプ(黒砂糖を入れた甘いおこわ)
上元(旧暦1月15日)に作る習慣がある。
新羅の王様がカラスに命を救われた逸話に由来。

・インサム(高麗人参)
数字の「2・3(イ・サム)」に似ているので、
2月3日はインサムデー(高麗人参の日)。

・テンジャン(味噌)
味噌作りは旧暦1月頃の「午の日」が最適。
韓国では鬼神のいない吉日と考えられる。

いずれも小ネタとするには申し分ないのだが、
年間を通して考えると、やや地味過ぎる感がある。
秋夕のソンピョン(松葉餅)なら韓国人みなが食べるが、
上元にヤッパプを食べる人はそう多くないだろう。

むしろ、上元の日は年が明けて最初の満月なので、
歳時記などを調べると縁起食がけっこうある。

五穀飯や干し野菜のナムルを食べると夏負けせず、
クルミや松の実を食べると皮膚病にかからない。
早朝に清酒を1杯飲むと耳がよくなるなど、
いずれも地味ながら、まとめてみると存在感はある。

なので、企画によっては上元の話題を採用するが、
地味なものをまとめて、地味さに拍車がかかる気もする。
2月の中では、もっとも有力候補なのだが、
ほかに何かないかとは2月のたびに思うことだ。

高麗人参のほうも、それ自信の知名度は高いものの、
インサムデーを2月23日とする説もあってはっきりしない。
4月14日のブラックデーにぐらい有名ならまだしも、
近年に作られたイベントデーは記事としても弱い。

テンジャンは実際、過去にも記事にしたのだが、
これも話としては、ややマニアックに過ぎる。
もっと晴れやかな2月の話題はないものか。

次に考えられるのは旬の存在である。

冬の終わりで、春には早い半端な時期ではあるが、
探せば2月がベストという旬の素材はあるかもしれない。
この機会にあれこれ調べてみたところ、ひとつ素材として、
2月に行われる特産品関連の祭りを見つけた。

主産地でその時期に祭りが開催されているとなれば、
それは2月を旬とする味覚といえないこともない。

手元の資料から発見したのは以下の3つである。

・高城スケトウダラ祭り(2月下旬)
・龍垈里ファンテ(干しスケトウダラ)祭り(2月下旬)
・蔚珍ズワイガニ祭り(2月下旬)

スケトウダラ、ズワイガニはいずれも冬が旬で、
普段なら2月に限定できないが、祭りがあるなら話は別。

「ここに可能性を見いだせれば!」

と思ってさらにネットで詳細を調べたところ、
見つかったばかりの希望は、すぐに色あせていった。

高城スケトウダラ祭りは昨年11月に早々と開催。
龍垈里ファンテ祭りも昨年は5月に開催と大幅変更。
僕が資料とした本の時点では2月だったのだろうが、
必ずしも毎年2月にということではないようだ。

韓国のこうした祭りは毎年日程がコロコロ変わり、
しかも開催日がギリギリまで決まらないのが常。
こんな情報をもとに、2月の料理を語るのは危険だ。

一方、蔚珍ズワイガニ祭りは昨年も2月開催だったが、
こちらはもっと有名な盈徳という地域の祭りが3月だった。
盈徳ズワイガニ祭りが3月に開催されるのを無視し、
2月がシーズンだとズワイガニを語ることはできない。

祭りを根拠とする策は、あっという間についえた。

すると、残る手段は「ネタに走る」ぐらいだが、
これはほとんど禁じ手ともいえる最終手段だ。

例えば、日本で2月3日の節分に食べる恵方巻き。

韓国に同様の習慣がある訳でもなんでもないが、
よく似た見た目のキムパプ(海苔巻き)が韓国にはある。
そのあたりから話をうまく持っていって……。

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日本の韓国ファンは「恵方巻き」を韓国式に食べる。
キムパプという韓国式の海苔巻きを韓国料理店で購入し、
あるいは自作をし「恵方キムパプ」として味わうのだ。
日本で生まれた韓国料理の新習慣といえよう。
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といった記事に仕上げるのはどうか。

そんなことを思いつつネットで検索してみると、
「恵方キムパプ」のトップは僕のブログ「韓食日記」だった。
これではネタどころか、ただの自作自演である。

かくしてメルマガ1本を丸ごと費やしたのに、
2月に書くべき、韓国料理の素材は見つからなかった。

ああ、今日から悩ましい2月が始まる。
誰か僕に、2月向けのいいアイデアをください。

<リンク>
ブログ「韓食日記」
http://koriume.blog43.fc2.com/
Twitter
http://twitter.com/kansyoku_nikki
FACE BOOK
http://www.facebook.com/kansyokunikki

<八田氏の独り言>
韓国で恵方巻きを流行らせる方法を大募集。
2月3日をキムパプの日にしましょう。

コリアうめーや!!第262号
2012年2月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com

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