コリアうめーや!!第238号

コリアうめーや!!第238号

<ごあいさつ>
2月になりました。
と書いた瞬間に驚きました。
いつも2月の到来は驚きを伴いますが、
いやあ、1月がもう終わっちゃいましたか。
ついこないだ年末でバタバタしたと思ったら、
あっという間に松が取れて1月も終わり。
2月は逃げるとよくいいますが、
この体感速度は本当に驚異的です。
何もしなかったまま終わった1月……。
とは思いたくないところですが、
実際にやるべき仕事は山積みのまま。
このままだと、すぐにまた年末でしょうね。
短い月日を最大限に有効活用すべく、
なんとか毎日を充実させたいと思います。
と月並みな誓いを書き連ねつつ。
今号のメルマガでは、前号で募集した、
10周年企画の中間報告を冒頭に。
まだ準備整わず、中途半端な状態ですが、
一応、日程だけでもお伝えしたいと思います。
そのうえで、実際のテーマは別に選定。
最近、企画モノばかりで書くことが少なかった、
地方の郷土料理をまたひとつ紹介します。
ずいぶんマニアックな話題になりましたが、
これも続けることで積み重ねたいと思います。
コリアうめーや!!第238号。
スポットライトを絞り、スタートです。

<パサッと仕上げる網焼きプルコギ!!>

前号で呼びかけた10周年企画。

最後の独り言で泣き落した効果があったのか、
なんだか過去にないほどの反響を頂いた。
自分で呼びかけておきながら、

「何事が起ったのだ!」

とメールを読みつつ慌てた次第。
しかもなんだか僕がイメージした企画以上に、
ユニークなアイデアが満載であった。
返信して頂いた皆様に深く感謝感謝である。

中には、

「これどうやって実現するんだ!?」

みたいな荒唐無稽企画もあったが、
それはそれで、発想が広がって楽しかった。
オフ会のアイデアというのはまだまだある、
ということを改めて実感した気がする。

今号でそのいくつかを紹介しようとも思ったが、
実はまだ、企画実現に向けてあれこれ調整中。
無事確定した時点で、10周年オフ会の詳細とともに、
大々的に発表させて頂きたいと思う。

要するに、

「もうちょっとだけ待ってね!」

ということである。

ただ、会の日程だけは創刊日に合わせて、
3月20日(日)、21日(祝)のどちらかで確定。
まだどこでやるのかすらも決まってはいないが、

「どんな企画でも参加するぞ!」

という方は日程を空けておいて欲しい。
企画によっては、かなりハードかもしれないが、
僕も30代半ばになって、無理ばかりはしたくない。
常識的な範囲のオフ会に仕立てたいとは思う。

という冒頭のお知らせを踏まえて。

今号ではとりあえず10周年オフ会は脇へ置き、
ごく普通のコリアうめーや!!としてお届けする。
というか、ここしばらくの間……。

第235号/2010年これがうまかったベスト10!!
http://www.melonpan.net/letter/backnumber_all.php?back_rid=674252
第236号/韓国料理ハンター試験(中級編)公開!!
http://www.melonpan.net/letter/backnumber_all.php?back_rid=675540
第237号/メルマガ創刊10周年記念を考える!!
http://www.melonpan.net/letter/backnumber_all.php?back_rid=676525

なんだか企画モノを続け過ぎた気がする。

あんまり企画モノに頼ると、書き方を忘れるので、
初心に戻って、きちんと料理をテーマにしたいと思う。
コリアうめーや!!の王道である、

「韓国にはこんな料理があります!」

というストーリーである。

いまは韓国に関する情報が巷にあふれ、
紹介されていない料理など、ほぼありえないぐらい。
ただ、それでもまだ韓国料理の世界は奥深く、
スポットライトを浴びていない料理は残っている。

韓国の地方を巡りつつ、そんな隠れた料理を掘り出し、
報告するというのも、このメルマガの重要なテーマ。
ややマニアックに過ぎるかもしれないが、
それも韓国料理の可能性として紹介したい。

ということで今号のテーマは……。

「プルコギである!」

「……(読者A)」
「……(読者B)」
「……(読者C)」
「……(読者他全)」

「プルコギである!(ドヤ顔で)」

「……(読者A、眉をひそめる)」
「……(読者B、首をひねる)」
「……(読者C、舌うちをする)」
「……(読者他全、投げるべき石を探す)」

そして飛び交う石。あたふた避ける八田。
ここまでまじめに聞いていたことを読者は後悔しつつ、
怒号を上げ、糾弾をし、あたりは混乱に包まれる。

「いえ、違うんです、違うんです!」
「ちょっとフェイントをかけてみたかったんです!」
「ただのプルコギではないんです!」
「痛っ、あたっ、い、石を投げないで!」

「僕が、しょ、紹介したいのは!」
「た、ただのプルコギではなくて!」
「あの、その、慶尚南道昌原市の郷土料理で!」
「ソクセプルコギっていうんですっ!」

声が響くに従い、少しずつ減っていく投石。
やがて場内は静まり、読者はパソコンチェアに腰を落とす。
突然、なんだったんだこの展開は、とあきれ返りつつも、
メルマガの続きを読み始めるのである。

いや、読んでね。止めないでね!

急転直下、舞台は慶尚南道昌原市。

この街の特徴をひと言で表すのであれば、
単刀直入に「地味!」ではなかろうかと思う。
あくまでも僕の勝手なレッテルでなので、

「違うわ!」

という意見があれば積極的に受け入れたい。
ただ、僕がこれまで昌原の存在を考えたところ、
都市の大きさに比して、話題にのぼる機会が極端に少ない。

なにしろ昌原は慶尚南道の道庁所在地であり、
人口100万人を超える、けっこうな大都市である。
韓国ではこの100万人という数字がひとつの目安であり、
これを超えると、制度上は広域市に昇格できる。

ちなみに韓国にある広域市は現在、

・釜山広域市
・仁川広域市
・大邱広域市
・大田広域市
・光州広域市
・蔚山広域市

という6都市のみ。
これにソウル特別市と、同じく市に留まっている、
京畿道水原市を加えれば100万都市は網羅。
かつ僅差で、昌原の人口が水原を上回る。

すなわち昌原は人口で見れば第8位であり、
日本でいえば仙台市の人口に匹敵する規模なのだ。
日本と韓国の人口比を考えればさらにである。

にもかかわらず、昌原には目立った観光地がない。

人口比でいえば全州や春川よりも上なのに、
観光客が訪れないため、日本での知名度は上がらない。
一時期、モータースポーツでの地域起こしを目指し、
F3の自動車レースを誘致したが、これも5年で頓挫。

釜山からバスで1時間足らずの距離にあって、
慶州に行くより、よっぽど近いのに足が伸びない。
これを「地味!」といわざるしてなんといおう。

ただ、そんな昌原における一筋の光明がある。

昌原は昨年7月に、馬山市、鎮海市と合併。
突然100万都市になったのもこれが理由だが、
この合併により、観光の要素が増えたのだ。

馬山は韓国で初めてアンコウ料理を作った街。
現在もアンコウ料理の本場であり、また海産物が豊かなため、
海の幸を楽しみに、多くの観光客が訪れる。

また、鎮海はかつて軍港都市として栄えた土地柄。
日本統治期に、海軍が拠点として利用したことから、
桜がたくさん植えられ、名所として知られる。
食の面では、海の街だけあってタラ料理が有名だ。

合併によってこの2都市は「区」という扱いになり、
名目上は昌原の観光地ということになっている。
これで「地味!」一辺倒のイメージもかわるはずで、
昌原万歳! ということでめでたしめでたし……。

では、ないのだ!

昌原という都市はもともと「地味!」であり、
そこへたまたま華やかな2都市がくっついた。
だが、それを昌原の魅力と胸を張ってよいのか。
もとからの昌原にもいいところはある!

という、いつにも増して長い前フリを経て。

昌原という街の「地味!」な郷土料理を語りたい。
それが、僕が石を投げられつつも語った、

「昌原のソクセプルコギ!」

である。

ソクセプルコギとは直訳すると網焼きの牛焼肉。
「ソクセ」が網を意味し、プルコギは焼肉を意味する。
この料理に使う網は、真ん中でたためるようになっており、
味付けをした牛肉を挟んで、直火で両面から焼く。

この焼き方から、別名をパサップルコギとも呼び、
「パサッ」というのは、汁気がないことを表す。

現在、主流のプルコギは鍋のふちに牛スープを注ぎ、
肉を浸しながら焼くため、汁気があるタイプのプルコギ。
それと比較する形で、パサップルコギの名がついた。

ただし、もともとは網焼きのほうが歴史は古い。

中央の盛り上がった鍋で、牛スープとともに焼く方式は、
実は1960年代に生まれた、新しいスタイルである。
それ以前は、熱源の上に網を置いて焼く方式が主流であり、
むしろソクセプルコギは原点に返った焼き方ともいえる。

昌原では1970年代になってこの料理が流行。

それは当時、近隣で南海高速道路を建設していた、
作業員たちの好みによって誕生したという。

当時、作業員たちは1日の仕事を終えて食堂に入り、
カルビよりも値段の安い、プルコギと焼酎で鋭気を養った。
ただ、そのプルコギも毎日食べれば飽きてくる。

「おっちゃん、ちょっと網焼きにしてくれない?」

ということで作ってもらったものが人気を呼び、
いつしか昌原名物として定着したそうだ。
いうなれば偶発的な伝統回帰の調理法である。

なお、実際に食べての感想は、香ばしいプルコギ。
直火で網焼きにするため、スモーキーさが際立っている。
肉汁とともに、香りを味わう焼肉といってよい。

味付けはいわゆるプルコギとさして変わらず、
ゴマ油、醤油、砂糖、ニンニクあたりが主。

焼かれた状態で、皿に盛られて運ばれてくるので、
鍋ほどのご馳走感はないが、晩酌的な気軽さはある。
これで焼酎をやりたいね、という料理だ。

もちろん牛肉を網焼きにした料理は韓国各地にあり、
昌原だけの特別な料理という訳では決してない。

その点でやっぱり「地味!」なのではあるが、
それでも市民の間で古くから愛されていたのは事実。
2008年には地元産の豆腐料理とともに、
市民投票で昌原市の代表料理によって選ばれた。

この事実をぜひ大事にして欲しいと思う。

馬山、鎮海というキャラの立った2地域を加え、
それらも含めて、昌原ということにはなっている。
だがそこに頼るというのももったいない話だ。

旧昌原ならではのよさも忘れてはいけない。

ちなみにソクセプルコギの専門店に行くと、
牛骨ベースのソゴギクッパプ(牛スープごはん)もある。
ヤンジモリ(牛胸肉)、サテ(牛モモ肉)など、
牛肉もたっぷり入れた濃厚仕立てのピリ辛スープ。

ソクセプルコギで焼酎をひと仕切り飲み、
シメにソゴギクッパプという流れも悪くない。

釜山から車で約1時間。

僕が勝手にレッテルを張る「地味!」さも含め、
足を運ぶことがあれば、ぜひ満喫してみて欲しい。

<店舗情報>
店名:元祖板門店食堂
住所:慶尚南道昌原市新月洞6-6
電話:055-287-5514

<お知らせ>
仕事が忙しくHPの更新ができません。
落ち着いたら、まとめて更新したいと思います。
http://www.koparis.com/~hatta/

<八田氏の独り言>
昌原にはピーナッツ豆腐なるものもある様子。
もっと探索すれば面白い予感もあります。

コリアうめーや!!第238号
2011年2月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



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