コリアうめーや!!第234号

コリアうめーや!!第234号

<ごあいさつ>
12月になりました。
と、いつも通りの前置きを書いた瞬間。
じゅ、じゅ、えっ、じゅにがっ!!
じゅ、じゅにっ、じゅ~にがつ~っ!?
と噛み倒してしまうぐらいの、
絶望的な驚きが全身を貫いています。
いやはや、もう今年が終わるんですねぇ。
光陰矢のごとしとはよくいいますが、
昨今の感覚では矢どころの騒ぎではありません。
音速を超えて、もはや光速に近い感じ。
「光陰光のごとし」で、オセロ効果が加わり、
「光光光のごとし」ぐらいの体感速度です。
と、もはや何を書いているかも意味不明ですが、
そんな師走突入に心を動揺させつつ。
今号のメルマガでは久々の出張報告を、
ぴちぴちの状態で書かせて頂きます。
コリアうめーや!!第234号。
基本の大切さを学ぶ、スタートです。

<NHKに学んだ明洞の隠れた魅力!!>

韓国旅行に出かけるという人から、
こんな質問を受けることがある。

「明洞で美味しいお店ありませんか?」

うん、よくある。
それもけっこう頻繁に。

いうまでもないが明洞はソウル有数の繁華街。
ホテル、飲食店、ショップが密集しており、
ビギナー観光客にとっては定番のスポットである。

激安コスメ店は豊富すぎるほど揃っているし、
ファッション関係の店や、免税店もある。
そもそも人が多いので、歩いていても活気が楽しい。

だが、である。

他の観光要素は順当に楽しめるにもかかわらず、
とかく飲食店に限っては、それが当てはまらない。
もちろん、明洞にも飲食店は多数あるのだが、
観光客が多い分、どうしても観光客向けになる。

「美味しいものを食べるなら明洞を出ろ!」

というのがリピーターとしての正直な意見だ。

従って、コリアン・フード・コラムニストは、
上記のような質問を受けると、思考停止に陥る。

「明洞で美味しいお店ありませんか?」
「んー、美味しさを求めるなら明洞を出たほうが……」
「スケジュール的にも明洞がいいんですよ」
「あー、そうですかぁ……」

という会話を何度したことか。

韓国料理の奥深い魅力を伝える立場としては、
明洞という箱庭が、なんとももどかしく歯がゆい。
ほんの10分、15分歩いて出るだけでも、
美味しいものの揃う、魅力的な街はたくさんある。

ただ、その一方で。

ここ1、2年、僕の中で少し心境の変化もあった。
契機となったのは2009年2月である。

その前年からのウォン安がピークに達し、
そのお得感から、旅行客が爆発的に増えた時期だ。
僕はこのメルマガにて、その過熱ぶりを紹介し、
取材にも影響が出ていると報告した。

あまりに観光客が増えすぎ、取材陣も殺到し、
人気店の多くが、対応できなくなっていたのだ。

コリアうめーや!!第192号
http://koriume.blog43.fc2.com/blog-date-20090304.html

この時期、韓国に集まった人は大半がビギナーである。
前々からのリピーターや、韓流ファンとは異なり、
初めて韓国に来るという人たちが多かった。

自然、ビギナーの街である明洞に大半が集まる。

その異常なまでの熱気と盛り上がりを見て、
僕は明洞という街の重要性を、改めて強く意識した。

「やはり韓国の入口は明洞なのか……」

ビギナーの多くは明洞をまず見て韓国を感じる。
明洞から出れば、より世界が広がるのは確かであるが、
短い旅行日程の中で、制限があるのは当然だ。

「明洞で美味しいお店ありませんか?」

という問いに、明洞から出ろというのは、
真理である一方、プロとして無責任なのではないか。
ニーズに正面から応えるのが義務ではないか。

その思いから、僕は、

「僕はもっと明洞を学ばねばならない!」
「明洞を愛するフードコラムニストになろう!」

と雑踏を眺めながら、ひとり誓ったのであった。

それから約2年。

僕は先月の取材で明洞付近に泊っていた。
カメラマンさんと2人で、その日の取材を整理しつつ、
翌日に向けての軽いミーティングなどを行う。

その中では、

「明日の朝食はどうしましょうねぇ」
「んー、どうしようかねぇ」

といった話題も出てくる。

「明洞の朝食って何にもないですよねぇ」
「そうだよねぇ」

というあたりで、ハイご明察。

雑踏での誓いは帰国と同時に霧散し、
明洞を愛することは、結局なかったのである。
ふとしたきっかけで発作的に気分が盛り上がり、
その後、急速にしぼむのは僕の日常茶飯事。

明洞での飲食店ストックはまるで増えず、
そのため明洞に来ると、途端に行き場を失うままだ。

「明洞ねぇ……」

とベッドでのたくりながら悩んでいたら、
なんとこのとき、不思議な奇跡が起こったのだ。

なんとはなしにつけていた部屋のテレビから、

「今日の特集はソウルの明洞です!」

といった声が流れてきたのである。
韓国のホテルはNHKなら普通に見られるところが多く、
NHK-BS1、2もけっこうな確率で見られる。

素晴らしいタイミング流れてきたのは、
「世界ふれあい街歩き」という番組。

世界のあちこちをカメラ視点の映像で紹介し、
視聴者に街歩きを疑似体験させる構成だ。

そのためソウルの明洞を取り上げるといっても、
いわゆるお店紹介ではなく、路地歩きがメインであった。
細い路地に分け入って、地元の人々と交流を重ね、
繁華街の顔とは違う「生活の魅力」を引き出した。

店頭の大釜で豆腐を手作りしている食堂。
狭い路地で、何十年も雑貨を販売している老人。
表通りにはあり得ない「栄養湯(犬鍋)」の看板。

観光地としての明洞とはまったく異なる姿であり、
また路地の選び方、見せ方も素晴らしかった。

「明洞をテーマにこんな番組が作れるのか!?」

と驚き、画面に釘付けとなった。

僕もカメラマンさんも明洞には何度も来ており、
取材のたびに、路地も含めてうろうろするが、

「こんな路地があったんですねぇ」

と驚くばかりである。
NHKらしい切り口といえばその通りなのだが、
その切り口で明洞を選ぶこと自体がすごい。

よほど嗅覚の鋭いプロデューサーがいたか、
あるいは優秀なコーディネーターがついていたか。
僕にとっては、まさに目からウロコだった。

そして、翌朝。

僕らはさっそく番組の店へ繰り出した。
NHKの番組では、表立って店名を紹介しないが、
画面の随所にハングルの看板が映り込んでいた。

豆腐を手作りしている食堂は昼からだったが、
もうひとつ映った小さな路地の店が開いていた。
大衆的な食堂で、チゲ系統の料理が自慢とのこと。
どの料理も4000ウォン前後と明洞にしては安い。

入った瞬間から、いい店だなと思ったが、
それ以上に、社長のキャラクターがなんともよかった。
とにかくにこやかで笑顔があふれ出ている。

「昨日NHKに出ていましたよ!」

と伝えると、その笑顔がさらに輝き、
まんまるの目で、子どものように喜んだ。

「いやー、嬉しい知らせだなー」
「今日はあんまり嬉しいから2人とも料金タダね!」
「いい知らせを持ってきてくれたお礼!」

あまりの喜び方に、逆に僕らが慌てた。
取材陣ならいざ知れず、僕らはただの客である。
出します、出します、と必死になだめた。

だが、社長の興奮はまったく消えない。
今度は自ら、店のセールスポイントを語り始めた。

「僕はねー、7年前にこの店を始めたんだけどねー」
「田舎の母が、とっても料理上手な人でねー」
「特にチョングッチャン(納豆汁)が自慢なんだよ」
「え、田舎? 驪州ってとこだけどわかる?」

「ええ、僕らこないだ取材に行きました」

「そう! いいところなんだよねー」
「また行くときは、ぜひ僕に連絡してよね!」
「僕がしっかりガイドしてあげるから!」
「あ、チョングッチャンの味はどう!?」

「はい、美味しいです」

「でしょー!」
「店に来る日本のお客さんもみんな喜んでねー」
「スンドゥブチゲなんかも美味しいしねー」
「あ、これサービスね!」

社長があまりに嬉しそうなので、
ついついこちらも楽しくなる店であった。
味も値段も、接客態度も大満足。

「うーむ、さすがNHK!」

と唸りながら僕らは店を出た。

そして、さらに翌日。

別件の仕事で、ひとり行動になった僕は、
昼食時を狙って自家製豆腐の店にも足を延ばした。
これまた狭い路地に引っ込んだ場所にあり、
知らなければ、韓国に慣れていても入りにくい。

扉を開けて入るときは恐る恐るだったが、
店のお母さんが、フレンドリーに話しかけてきた。

「お客さん、観光で来たの?」
「ええ、一昨日NHKの番組を見てきました」
「あら、そうなの!!」

ここのお母さんもえらい喜びようであった。
NHKのスタッフはよほど丁寧に取材したのだろう。
途端に下へも置かぬ大歓待となった。

「ほら、この豆腐がうちで作っている豆腐よ」

と厨房からわざわざ豆腐を持ってくるぐらい。
ずっしりと重みがあり、密度の濃さがうかがえた。

お店のイチオシというテンジャンチゲには、
この豆腐が大きめに切られ、ゴロゴロと入っている。
具にはアサリやワタリガニも加えられており、
なかなか豪華な仕立てで値段も6000ウォン。

こちらは激安とまではいかないものの、
副菜6品を含めれば、値段相応の満足感である。
明洞という場所を考えればなおさらだ。

さて、まとめである。

2日間の明洞ごはんで僕はようやく気付いた。
NHKで紹介された店は、いずれも地元密着型で、
繁華街らしからぬ、あたたかい店であった。

明洞という地名だけで思考停止していた僕は、
それが大きな誤りだったことを、身を持って体験した。
明洞においても、穴場店は確かにある。

その発見をもとに、僕はもう1度心に誓う。

「僕はもっと明洞を学ばねばならない!」
「明洞を愛するフードコラムニストになろう!」
「路地裏を探索していい店を探そう!」

今度こそ、この決意を霧散させないように、
メルマガを書きつつ、気合いを入れ直している次第である。
読者諸兄においても、明洞におすすめの店があれば、
ぜひメールでも、直接でも教えて欲しい。

<店舗情報>
店名:イェジ粉食
住所:ソウル市中区明洞1街42-1
電話:02-777-1820
備考:笑顔のお父さんがいるチゲの店

店名:プフン食堂
住所:ソウル市中区芋洞1街88
電話:02-754-7173
備考:自家製豆腐を使ったテンジャンチゲの店

<お知らせ>
仕事が忙しくHPの更新ができません。
落ち着いたら、まとめて更新したいと思います。
http://www.koparis.com/~hatta/

<八田氏の独り言>
ただしこの後、さらに2軒の店を巡って大失敗。
明洞での食事は、やはりリスクも大きいようです。

コリアうめーや!!第234号
2010年12月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



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