コリアうめーや!!第160号

コリアうめーや!!第160号

<ごあいさつ>
11月になりました。
いつの間にやら今年もあと2ヶ月。
バタバタとひたすらに忙しかった今年ですが、
終盤を迎えると少し寂しかったりもします。
7月から続いた超長期の修羅場もやっと一段落。
最後にお知らせとしても書きましたが、
今年いちばんの大仕事がようやく形になります。
本編であるメルマガも楽しんで頂きつつ、
お知らせまで、読み進んで頂ければと思います。
ちなみに今号はとある洋風の料理に着目。
コリアンナイズされた姿が特徴です。
コリアうめーや!!第160号。
また新たな夢へと、スタートです。

<新大久保を巡るチキン探検隊!!>

山岡士郎になりたかった。

2000年に韓国留学から戻り、
韓国料理を語る人になろうと決めたとき。
まず心に浮かんだのが山岡士郎の姿だった。

山岡士郎とは漫画『美味しんぼ』に出てくる主人公。

新聞社に勤め「究極のメニュー作り」を担当。
幼い頃から培った食への深い造詣を元に、
さまざまな角度から食の魅力を極めていく。

2007年11月現在、単行本は100巻を数え、
掲載誌での連載期間はなんと24年にも及ぶ。

なにしろ作中における山岡士郎の活躍ぶりは目覚しい。

料理を味わえば食材から産地までをズバリ当て、
かすかな隠し味から、調理法までをも見極めてしまう。
その上で、プロの料理人が作ったその料理を、

「もっと美味しくする方法がありますよ」

といとも簡単にグレードアップさせてしまうのだ。

また、友人、知人が困った境遇に陥れば、
そのすべてを料理によって見事解決。
それがフィクションであることを差し引いても、

「いやん、山岡さんカッコイイ! 惚れちゃう!」

となる。

いつか僕も韓国料理界の山岡士郎になろう。

コリアン・フード・コラムニストを名乗り始めた頃は、
恥ずかしながら、本気でそう考えていた。

例えば、飲食店でサムゲタンを食べる。
アツアツのスープをひと口すすり、

「へえ、ずいぶんたくさんの漢方薬を使っているね」
「この香りからすると高麗人参は錦山産の6年根」
「ナツメのほかに甘草が入って甘味を加えている」

そこへ横で食べていた栗田ゆう子も割って入る。

「鶏肉がすごく柔らかいわ」
「ほろりとほぐれるのに脂くささがまったくないの!」

それに答える山岡士郎気取りの僕。

「健康的に育てられた鶏なんだろうね」
「しかもこれは胸部に脂の少ないオスを使っている」
「丁寧な仕事をしているのがうかがえるよね」

もう、なぜそこまでわかるというくらいお見通し。
そんな光景を自分に重ねて悦に浸っていた。

だが、現実というのは基本的に非情である。

「む、この高麗人参は錦山産ですね」
「どうですかね。業者から仕入れていますので」

「スープにほのかな甘味。もしや甘草などの漢方薬を?」
「んー、鶏か野菜の甘味じゃないですかね」

言えば言うほどドツボにはまる状況。
何も見えていないフードコラムニストだった。

やはり僕ごときでは山岡士郎になれないのだ。

最近ではしっかり身の程をわきまえて、
取材時も極力、当てにいく無理はしないようになった。

だがそんなある日、僕に届いた1通のメール。

「新大久保のチキン事情を知りたいのですが……」

から始まるメールは、某企業のチキン担当からのものだった。
なんでもチキンを使った新たな惣菜を開発しており、
その一例として韓国風のフライドチキンに目をつけたという。

僕がブログに書いた、

「新大久保に韓国式フライドチキン店急増!」

という記事を読み、連絡をくれたのだった。
僕にぜひ新大久保を案内して欲しいとのことである。

僕にとってもネタになりそうな面白い話。
断る理由などなく、ふたつ返事で快諾した。
そして、そのとき僕の脳裏によぎったのが……。

「これもちょっと山岡士郎っぽくないか?」

というもの。

漫画の中でも山岡士郎は企業などから助けを求められると、
それにふさわしい店や産地を案内して、問題を解決する。
となるとこれは僕に与えられた大きなチャンスである。

1、チキン担当氏を新大久保に案内する
2、韓国式のフライドチキンを味わって担当氏おおいに感動
3、商品化への道がモーゼの十戒並にザザザザッと開け
4、なんとその商品が爆発的な大ヒット
5、これもみんな八田さんのおかげです!

という山岡士郎路線が明確になったではないか。
これだ! と大喜びしつつ、僕は約束の日を待った。

そして迎えた10月のある晴れた日。
僕はチキン担当氏と新大久保駅で待ち合わせた。
名刺交換を無難に終え、まずはと1店舗目に案内する。

その道すがら、僕は韓国のチキン事情を簡単に説明した。

韓国はもともと鶏料理が豊富で丸鶏をよく使う。
スーパーや市場に行くと、丸鶏が山積みになっており、
買う人の好みで、使いやすいようにぶつ切りにしてくれる。

フライドチキンも1匹丸ごとを揚げることが多く、
新大久保の専門店も1羽、半羽での注文が一般的だ。

味付けは塩、コショウをベースとしたフライドチキンと、
甘辛い薬味ダレをかけたヤンニョムチキンの2種類。

フライドチキン自体はごく普通の味付けなので、
ヤンニョムチキンこそが韓国式フライドチキンの真骨頂。
コチュジャン、ニンニクなどを使った刺激的な味わいで、
水飴などが入るため、どろりと甘い。

韓国には全国展開する大規模なチェーン店もあるほか、
近所の家に出前する、小規模な専門店も多い。

夜食や間食としてテイクアウト、出前の需要が高く、
韓国人の生活にはなくてはならない料理のひとつと言える。
だからこそ新大久保にも、専門店が増えているのだ。

そんなことを僕はつらつらと語った。

中でも、ヤンニョムチキンの魅力を力説し、
その甘さと辛さの混じった味わいこそ韓国式と強調。
あおりにあおったところで店に到着した。

「……ということでコチラがその専門店です!」

ビシッと効果音が鳴るほど力を込めて指差す。
タイミングも含めて、ほぼ100%の滑り出しである。

ところがここから状況が一変。

席に着いてヤンニョムチキンを注文すると、
店員はメニューを指差しながら困った顔で言った。

「当店のおすすめはコチラになりまして……」

見るとそれはニンニク醤油で味付けたフライドチキン。
これはこれで美味しそうだが、いま食べるべきメニューは違う。
だが、メニューに載った他の種類に目を走らせてみるも、
いわゆるヤンニョムチキンが見当たらない。

「あれ、ヤンニョムチキンはないんですか?」
「ええ、当店には置いておりません」
「え、本当に……!?」

フライドチキンといえばノーマルかヤンニョム。
その2種類こそが鉄板級の2大看板だと思っていたが、
この店はそれを置かずオリジナルの味付けで勝負。

専門店が乱立し、競争が激化している新大久保だけあって、
フライドチキンといえども、差別化が図られているのだった。

僕は店舗が増えているという事実だけで興奮していたが、
そこをもう1歩進めて、実際に味わってみるべきだったのだ。
表面的な情報だけで満足した僕の大きなミスである。

予想外の事実に、内心激しく動揺しつつも、
韓国語で話していたのをいいことにごまかしに入る。

「韓国といえばニンニク。このニンニク醤油がうまいんですよ!」

うん。
山岡士郎どころか、これではインチキガイドだ。

ともかくも1軒目でニンニク醤油味のチキンを味わい、
早々にそこを立って、2軒目のチキン専門店へと移動する。
2軒目も実際には足を運んだことがなかったが、
看板を見る限り、ヤンニョムチキンはあったはず。

「さあ、今度こそ真打ち登場です!」

などと盛り上げつつ、同じ通り沿いの別店舗へ急ぐ。
だが世の中、間の悪いことというのは続くもの。

真打ちとまで言って案内したその店は、
そろそろ営業時間になるという時刻なのに一面真っ暗。
定休日なのか、単純に店員が遅刻しているだけなのか。
店内をのぞいても、まるで人の気配がなかった。

「あは、あはは。韓国の店ではこういうことがあるんですよね」

全面的に店のせいにしてその場を取り繕う。
もはやインチキガイド以下。ただの大嘘つきである。

「では、ちょっと遠いですけど確実な別の店に!」

ということでチキン担当氏をさらに連れまわし、
ようやく本命のヤンニョムチキンにたどりついた。

その店にはフライドチキン、ヤンニョムチキンのほかに、
タッカンジョンと呼ばれる別の定番メニューもあった。

飴状の濃く甘いタレをかけた骨なしのフライドチキン。
それにチキンナゲットを加えた4種類セットのメニューを頼む。
最初からここに来ればよかったというほどの充実ぶりだ。

あちこち無駄に連れ回されたチキン担当氏も、
それぞれのチキンを味わいながら、

「衣がずいぶんとサクサクしているな……」
「これはウチの別商品と近い味かも……」
「このタレで味付けるとすると技術的な問題もありそうだ……」

などと一気に仕事モードへ突入。
ようやく案内人としての本分を果たせたようだった。

とはいえ、僕が最初妄想していたような、
おおいに感動、一気に商品化という妄想にはほど遠く、

「ふむ。なるほど」

といった実に冷静な反応であった。

最後にチキン担当氏が思い付いたかのように言った。

「韓国には唐揚げ粉みたいなものはないんですか?」
「唐揚げ粉? たぶんスーパーにはあると思いますが……」

ちょうどすぐ近くに大きな韓国スーパーがある。
行ってみると、まさにフライドチキン用の粉が売られていた。

「おお、やっぱりあるんですね!」

途端に興奮を見せるチキン担当氏。

「原材料名とかって書いてあります?」
「ええ、裏面に。えーと、小麦粉、食塩……」

読み上げる僕の一言一言に、チキン担当氏はさらに大きく反応。
さすがプロだけあって、原材料名で中身が判断できるようだ。
サクサクとした衣の秘密もそれでつかんだようで、

「では、これを買って研究してみます!」

と満面の笑顔でレジに向かって行った。
どうやら今日いちばんの収穫がこれだったようだ。

なんとか最後の最後で役には立てたようだが……。

やはり山岡士郎への道ははるか遠いようだ。

<お知らせ>
仕事が忙しくHPの更新ができません。
落ち着いたら、まとめて更新したいと思います。
http://www.koparis.com/~hatta/

<お知らせ2>
しばらく前からメルマガでもお伝えしていた、
東京の韓国料理店ガイドがいよいよ発売になります。
本当にいい店だけを厳選し180店舗を紹介。
新大久保、赤坂、銀座、麻布、六本木、上野などなど。
本場をもしのぐ名店揃いの1冊です。

タイトルは『東京 本気の韓国料理店』。

実業之日本社より11月16日に発売予定です。
定価1200円(税込)で全国書店にて取り扱い。
飲食店だけでなく食材店、韓流グッズ店も含まれているので、
すべての韓国ファンみなさまにオススメです。

僕にとっては長年の夢がついにかなった気分です。
魂のこもった1冊をぜひご購入ください!

<八田氏の独り言>
クッキングパパにも憧れます。
山岡士郎と足して2で割った人になりたいです。

コリアうめーや!!第160号
2007年11月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



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