コリアうめーや!!第133号

コリアうめーや!!第133号

<ごあいさつ>
9月15日になりました。
僕の住んでいる東京はすでに寒いです。
雨が降り続き、急激に気温が下がりました。
半袖姿で外に出たら風邪を引きそうになるくらい。
厳しい残暑も、秋の気配もどこへやら。
いきなり季節が飛んで初冬のような雰囲気です。
このまま冬になったり……しませんよね。
もう少しだけ夏の名残を感じさせてください。
さて、今号のコリアうめーや!!ですが、
最近の衝撃的な体験より昔を振り返ります。
いつの間にか、もう6年前になるんですね。
韓国へ留学していった頃の話です。
栄養満点の、あの食材をテーマにしつつ。
コリアうめーや!!第133号。
季節を丸飲みにする、スタートです。

<ああ、愛しのお卵様ごめんなさい!!>

つい最近、卵関係でショックなことがあった。
自分自身に驚き、失望し、そして深く落ち込んでいる。

以前より、僕は大の卵好きで通っていた。
自分自身でも自分の卵好きを誇りに思っていた。
むしろ卵さえあれば充分に幸せだった。

韓国での留学生活中などは極端に貧しかったため、
卵で生きていた、いや卵に生かされていたと言ってもよい。

そんな僕の韓国における輝かしい卵ライフ。

それを語るには、まず寄宿舎の話から始めねばならない。
僕は語学堂(語学学校)が管理する外国人向けの寄宿舎で、
留学生活のまるまる1年3ヶ月を過ごした。

普通の留学生であればワンルームを借りるか、
または食事付きの下宿で生活するのが一般的だ。

僕がそれをしなかったのはひとえに費用のため。

平均的な下宿が1ヶ月に4~50万ウォンかかるのに対し、
寄宿舎は3ヶ月、48万7500ウォンですんだのだ。
(当時のレートは1万ウォンが1000円程度)

もちろん寄宿舎は朝夕の食事がつかないので、
食費のことまで考えると、必ずしも格安だとは言えない。

だが、安い学食を利用したり、あるいは自炊したり、
食費を安くあげる工夫などいくらでもある。
さらに言えば夜は飲み会などで外に出ることも多い。

「だから寄宿舎がいちばんよいのだ!」

とは、僕が入った当時の班長Cさんのセリフである。
韓国に到着してまだ3日目だった僕は、
そのきっぱりとした口調に感動し、

「今日からお世話になります!」

とその場で寄宿舎入りを決めてしまった。

だが実際に入ってみると、寄宿舎は予想以上に狭く、
また、思いきり老朽化の進んだオンボロ家屋であった。
定員もわずか10名。もちろん男子のみで女子禁制。
2人1部屋のむさくるしい生活だった。

だが、この寄宿舎ライフがものすごく楽しかった。

いくつもの笑いとドラマがあり、数々の伝説も生まれた。
いつか機会があれば、このときの話を「寄宿舎物語」としてまとめ、
なんらかの形で世に出したいと思っている。

実はもう第1稿が原稿用紙400枚程度あるのだ。
没原稿として今はハードディスクで眠っているが。

寄宿舎での食生活は必要最低限で成り立っていた。

あるのはカセットコンロといくつかの鍋、食器のみ。
僕が入って3ヶ月目からは流しだけのキッチンがついたが、
それまではラーメンを作るだけでも一苦労だった。

従って、当時僕らのご馳走と言えばこの2品。

・卵かけごはん
・インスタントラーメン卵入り

炊飯器は寄宿舎生みんなで資金を出して買った。
最大で10合炊け、20キロの米を3週間で食べた。
ちなみにこのときの寄宿舎生は全部で7人。
定員は10人でも、不人気なので満員にはならないのだ。

面白かったのは寄宿舎にキッチンが出来たときである。

これで多少はまともな料理が作れるようになると、
それぞれの寄宿舎生が嬉しそうに買い物へ出かけた。

翌朝、冷蔵庫の中には70個の卵があった。

以後、卵の買出しは資金供出での当番制となり、
担当者が30個入りのパックをまとめ買いすることになった。
遠くのスーパーまで行って30個入りが3000ウォンである。
それをみんなで仲良く少しずつ食べたのがいい思い出だ。

寄宿舎での暮らしが、そんな状態であったため、
僕の留学生活はかなり卵寄りなものになっている。

外で食べる料理も、卵が入っていたらポイント大幅アップ。
今でも好きな韓国料理には卵がらみのものが多い。

例えば、スンドゥブチゲ。

つい最近、朝日新聞のインターネットサイトでコラムを始めたが、
そこでの第1回もスンドゥブチゲをテーマにして書いた。
http://www.asahi.com/international/korea/TKY200609130248.html

スンドゥブチゲとは押し固めない豆腐のチゲ。
食感がフルフルと滑らかで、とろけるように柔らかい。
唐辛子たっぷりの赤いスープに、豆腐の白さが美しい料理だ。

そしてこの料理は、卵が重要な役割を担っている。

グツグツと煮え立ったところに生卵をポトン。
半熟になったところをスープに溶いて食べるのだ。
ほのかな甘味の豆腐とからめて食べると、
味わいがこってり濃厚になり実に美味しい。

僕の場合は半熟の卵をごはんの上に移し、
チゲの汁をかけて食べるのが大好きだった。

自己流の韓国式卵かけごはんである。

あるいは、街中で売られているケランパンも好きだ。

これは今川焼きに目玉焼きが入った変り種。
外側の生地がほんのり甘く、目玉焼きは反対に塩味。
白身のプリプリ感と、黄身のホクホク感という、
2つの食感が、中から飛び出してくるのが楽しい。

屋台で売られて1個500ウォン。
小腹が空いたときに嬉しいオヤツであった。

韓国では定番、人気の屋台料理だが、
不思議と日本ではほとんど見かけることがない。
以前、一時期だけ東京のコリアンタウンで売られていたが、
あっという間に消えてなくなってしまった。

日本の今川焼き店が作ってくれればいいのに。
などとワガママなことを呟いてみる。

もうひとつ。ケランマリという料理も好きだ。

こちらはシンプルに卵焼きのこと。
日本のような出し巻きではなくオムレツに近い。
中にはちょっとした野菜やチーズなども入る。

このケランマリにはちょっと切ない思い出がある。

韓国の友人たちと定期的に通っていた某居酒屋でのこと。
その頃、僕はやっと韓国での暮らしに慣れ始め、
韓国語での会話も拙いながら、こなせるようになっていた。

そんな僕に友人のひとりがメニューを投げてよこす。

「さ、好きなものを注文してみなよ」

それまでは、ただ出て来るものを食べていた。
友人任せにしていた注文を、自分ひとりでやってみる。
それもまた韓国語習得に向けての大事な1歩だ。

僕はメニューのハングルを見ながら考える。
えーと、こないだ食べた卵焼きがうまかったな。

「うん。これだ。すいません、ケランマリ!」

と大声で叫んだその瞬間。
そばにいた友人たちが慌てて僕を止めた。

「ば、バカ。それは頼まなくていいんだよ!」
「それはいつも出てくるだろ。サービスなんだよ!」
「いつも来ている常連だから出してくれるんだ!」
「他のもっとマシなつまみを頼め!」

韓国語学習の桧舞台から一転して四面楚歌。

そして僕の手からメニューも取り上げられた。
留学時代の悲しいひとコマである。

そんな心の傷を持つ僕が、最近同じことをした。

東京のとある韓国料理店での会話。
日本人の友人からこんなことを尋ねられた。

「ケランチムの美味しい店ってどこですかね?」
「ケランチム……って、あの茶碗蒸しに似た料理のこと?」
「ええ、僕あのケランチム大好きなんですよ」

そのセリフを聞いて僕は答えに窮する。

「んー、ケランチムってサービスでついてくるイメージですよね」
 普通はあえて頼まないからどこが美味しいかとかは……」

僕は立場を変えて同じことを言っていた。

ケランチムは韓国版茶碗蒸しと表現される料理。
違うのは茶碗ではなく、チゲ用の小さな鍋を用いる点。
そして蒸さずに、直接火にかけて沸騰させる点だ。

火力が強いので溶き卵は、吹きこぼれんばかりの状態で固まる。

こんもりモコモコとした卵の山が目に美しい。
ちなみに韓国では「す」が入ることは一切気にしない。

韓国では家庭料理として作られるほか、
居酒屋など酒の席でのつまみとしても食べられる。
あるいは定食類の副菜としても稀に顔を出す。

ポジション的にはケランマリと共通する部分が多い。
どこかオマケ的な役割を担っている料理だ。

そして、僕もオマケ扱いし存在を軽んじていた。

この一連の話を、ブログにまとめて書いたら、
自分もケランチムファンだという人が我も我もと出てきた。
そうだ。やはりオマケなどではなく立派な一品料理なのだ。

留学生活を終え、日本に戻ってきて5年半。

今も自分を無類の卵好きであると信じていたが、
いつの間にやら、その思いが軽くなっていたかもしれない。
あれほど愛した卵料理をオマケ扱いするなんて……。

「これではいけない!」

大恩ある卵料理に感謝の念を忘れてはいけない。
特定の韓国料理を無意識に色眼鏡で見てもいけない。

悔い改め、韓国料理全体への広い視野を!

などと心に誓いつつ……。
とりあえず丼で卵かけごはんを食べた。

うん。とても美味しかったのだな。ゲフッ。

<お知らせ>
卵料理の写真がホームページで見られます。
よかったらのぞいてみてください。
http://www.koparis.com/~hatta/

<お知らせ2>
朝日新聞のインターネットサイトでコラムを書き始めました。
本文中でもリンクを貼りましたが、下記ページから見られます。

アサヒコム 朝日新聞国際ニュース
http://www.asahi.com/international/
第1回記事 スンドゥブチゲ
http://www.asahi.com/international/korea/TKY200609130248.html

<八田氏の独り言>
かつて「卵かけごはん」と呼ぶか「卵ごはん」かで、
友達と一晩中議論したことがありました。結論出ません。

コリアうめーや!!第133号
2006年9月15日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

 

 
 
previous next