コリアうめーや!!第108号

コリアうめーや!!第108号

<ごあいさつ>
9月になりました。
ジリジリと暑かった夏の日々が過ぎ、
吹き抜ける風が少しずつ温度を下げています。
まだまだセミの声もミンミンと聞こえますし、
扇風機やクーラーとのお付き合いも止められません。
夏の姿はそこここに残っておりますが、
ふと青空を眺めると、突然秋の気配を感じたりして。
夏の終わりという物悲しさがつきまとう季節です。
そういえば今年は1度も花火大会に行かなかったなあ。
スイカもろくに食べず、プールや海にも行っていません。
夏生まれ、夏男と大騒ぎしても、
夏らしく過ごすのは意外に難しいようです。
さて、今号のコリアうめーや!!ですが、
新しく生まれ変わった料理をひとつ紹介します。
ごくごくありふれた料理ではあるのですが、
一工夫が加わってイメージが一新されました。
その見事な変化ぶりをレポート致します。
コリアうめーや!!第108号。
爽やかな秋風とともに、スタートです。

<トースト新時代がやってきた!!>

トーストとアパートはよく似ている。

どちらもカタカナ4文字であり、
語の真ん中に「ー」(音引き)が入っている。
最後が「ト」で終わるのも共通点だ。

発音したときの語感も非常によく似ている。

フレンチトーストとフレンチアパートが並んでいたら、
どちらを食べてよいのか混乱してしまう。

同様に賃貸アパートと賃貸トーストが並んでいたら、
どちらを借りて住めばよいのか悩ましくて仕方がない。

トーストとアパートは本当によく似ている……。

という話をもう少し引っ張ろうかと思ったが、
冒頭のヨタ話にしては強引すぎるのでやっぱり止める。

でもよく似ていると主張するのは別に嘘ではないのだ。
トーストとアパートには明確な共通点がある。

日本で言うアパートとは小規模な賃貸住宅のこと。
だが、韓国では日本で言うマンションを指してアパートと称する。
もとの英語をたどれば韓国のほうが正しいのだが、
指摘したいのは日韓で同じ言葉の使い方が違う点である。

そしてトーストも同じように日韓で微妙に意味合いが異なる。

日本でトーストといえば薄く切った食パンを焼いたもの。
韓国でも同じ意味で使われるが、そこにプラスアルファがある。

日本のトースト同様、食パンを焼いたものであることに加え、
そこにハムやオムレツをはさんだ屋台料理という意味もあるのだ。

日本の感覚で言えばトーストというよりサンドイッチ。

普通のトーストに比べればはるかにゴージャスであり、
サラリーマン、OLなど、忙しい人たちの朝食として人気が高い。

韓国でのトーストは、広く認知された立派な料理名なのだ。

というところで冒頭の一文がうまく意味をなした。

トーストとアパートはよく似ている。

うまくまとまったことで僕としては非常に気分がいい。
鼻の穴を目一杯広げて得意がりたい気分だ。

「トーストとアパートを結びつけるって斬新じゃない?」
「何の関係もない両者をくっつけるあたり才能がほとばしってない?」
「後光がさして解脱を始めちゃうくらい天上天下唯我独尊?」

なんていい気になってはいるが、ついさっきまで冒頭のネタに苦しみ、
ひらめきを求めて2時間ほど外を散歩していたのは秘密だ。

はい。パシンと手を叩いてトーストの話である。

韓国のトーストはなかなかに手が込んだ料理だ。
トーストは作り置きしないので、すべてが注文から始まる。

「すいません、トーストひとつ!」

また同時に中に何を入れるかも伝えなければならない。
ポピュラーなのはオムレツにハム、ベーコン、チーズなどを加える形。
好みとその日の気分に応じて中身を選択していく。

注文が決まって、そこから食パンが焼かれ始めるのだ。

店によって専用の鉄板があったりホットプレートだったり。
この鉄板でその他の調理も行うので、トースターはまず使わない。

鉄板にマーガリンをたっぷりと塗り食パンを敷く。
両面ひっくり返しながら焼くのだが、焼けるまでの作業が忙しい。
中に入る具の準備も同時にしなければならないからだ。

まずはオムレツの準備から始めるとしようか。

いや、その前にハムを鉄板で焼くほうが先だった。
5ミリ程度の厚さに切ったハムをまずはジリジリと焼き始める。

食パンとハムの準備が終わってオムレツだ。

千切りにしておいたキャベツ、ニンジンを引っ張り出し、
容器に移し替えて、そこに生卵をコンコンカシャッ。
菜ばしでチャキチャキとかき混ぜたら鉄板の上にジャーと流す。
後で食パンに挟むので、できるだけ四角く成型するのが望ましい。

食パンをひっくり返し、ハムをひっくり返し、
オムレツにも段々と火が入っていくのを確認する。

マーガリンの焦げるにおいがふわっと漂ったら折り返し地点。
屋台の前でじっと待つ客が、ゴクリとつばを飲み込む。
ここでおもむろにドッキング作業に取り掛かるのだ。

食パンにハムとオムレツを乗せケチャップをかける。

そして忘れてはいけないのが砂糖の存在。

屋台トーストにはなぜか砂糖がパラパラとふりかけられる。
知らないとトーストに砂糖? と一瞬驚いてしまうが、
ハムやオムレツの塩気にほんのりとした甘さが不思議と合う。
むしろこの甘さこそがトーストの持ち味であると言えよう。

最後にもう1枚の食パンを上からかぶせ、
食べやすいようにヘラで半分に切ったらできあがり。

これで1人前が1000~1500ウォン程度。
100~150円で朝食がまかなえるのは本当に嬉しい。

韓国の屋台トーストは素晴らしいなあ、と食べるたびにいつも思う。

と、ここまでが話の前置きだったりする。

実は去年あたりから、韓国のトースト事情が大きく変わった。

その場でちゃっちゃっと作ってもらえる屋台トーストは、
家庭料理の延長とも思えるアットホームな料理である。
屋台のおじちゃん、おばちゃんに声をかけて朝ごはんを作ってもらう、
そんな気軽さとあったかさが売り物だったように思う。

そんなトースト業界に新風が吹き荒れたのは、
新興チェーンのIsaacトースト(イサクトースト)が登場してから。
Isaacトーストはおしゃれ、清潔、ヘルシーを売りにした、
ファストフードのようなトースト専門店である。

昨年あたりから爆発的な勢いで人気を集め始め、
1年そこそこで一気に全国展開を果たしてしまった。
韓国トースト界に地殻変動が起こった瞬間である。

僕がIsaacトーストの存在に気づいたのは昨年夏。

「最近あそこのトーストがはやっているんだよ」

と教えてくれたのは韓国人の友人であった。
ただそのときは、「ふーん」という程度の認識だったと思う。
写真を撮ろうとして、まあいいやと止めたことを覚えている。

明確に意識しだしたのは、同じことを何度も聞くようになってからだ。

「あそこのトーストはもう食べた?」
「ここのトースト美味しいんだよ」
「最近いろんなところにできているんだ」

「Isaac」の文字が刻まれた赤紫色の看板を見るたびに、
隣を歩いている韓国人が、ああこれこれという感じに教えてくれる。
ふと気づくと「Isaac」の看板は街に大増殖しており、
ちょっとした繁華街なら必ず見かけるほどになっていた。

「あ、これ本当に流行っているんだ」

と気づいたのは流行から1年も過ぎた頃である。

ここまで遅れたのにはなんとなくの理由があり、
僕自身がトーストらしさを感じなかったことが大きいと思う。
これまでアットホームな朝ごはんだったトーストが、
突如ファストフードとして姿を変えてしまったのだ。

これまで愛着を持って食べていた料理だけに、

「えー、あんな風になっちゃったんだ」

という冷めた感じが僕の中にあったような気がする。

親しみを込めて見ていた存在が、突如手の届かないものになったような感覚。
好きな女の子が夏休みを経て、妙に派手になった新学期の戸惑いに近い。

だが、全国的に流行しているというなら話は別。

派手になった女の子が、そのまま国民的アイドルになったようなもの。
だとすればこちらも気後れせず、野太い声で応援させて頂く。

「エルオーブイイー、ラブリートースト!」

ということで遅まきながらもIsaacトーストを食べてみた。

まず驚いたのはメニューの細かさである。

もっともシンプルな卵だけのトーストから始まり、
ハム、チーズ、ベーコン、野菜(刻みキャベツ)に至るまで。
単体でも組み合わせても注文できるようになっている。

注文後に目の前で焼き始めるのは屋台方式と同じ。
屋台と違う点は、オリジナルの果物ソースを使う点である。

従来の屋台トーストが砂糖で甘みを加えていたのに対し、
Isaacトーストはヘルシーな果物で甘みをつけている。

キウイ、バナナ、リンゴをはじめとした果物をふんだんに使い、
ブロッコリーなどの野菜も加えた秘伝のオリジナルソースだ。
従来の直線的な甘みから、重層的な甘みへと進化させた。

折しも韓国の2004年はヘルシーブーム(ウェルビンブーム)の年。
Isaacトーストは栄養面からも高い評価を得たようだ。

食パンを焼き、果物ソースを塗り、ハム、オムレツが乗る。

目の前でどんどん仕上がっていくIsaacトーストは、
僕が屋台で見ていたものよりも、はるかに洗練されたイメージだった。
チェーン店ならではのシステマティックな作られ方。

これはもう違う料理なのかもしれない、とも思った。

できあがったトーストが紙ナプキンに巻かれて手渡される。
たっぷり入った刻み野菜で、中央がこんもりとふくらんでいる。

食パン、チーズ、刻み野菜、ピクルス、ハム、オムレツ、そして食パン。

地層のように見える断面が、なんとも食欲をそそる。
端っこにガブリと噛み付くと、酸味のきいたソースが流れ出てきた。
急ぐ朝ではないので、1口1口を味わって食べる。

「うん、美味しい」

従来のトーストが普段着の着飾らない味つけなら、
Isaacトーストは上から下までフォーマルに固めたような味わい。
なるほどねえ、と思わず感心させられる味であった。

ごくごくありふれた料理に一工夫を加え、
従来とはまったく異なった新しい料理を生み出す。

工夫の方向性としてはあまりにも一般的だが、
ピタリとはまったらそれだけで大ブームが起こる。

チェーン店の定着で、トーストは新時代を迎えたと言えるだろう。

韓国の屋台料理はどんどん進化を続けており、
昨年はオデンが激辛になって新たな境地を見出した。
ありふれた料理が大化けする可能性は今後もまだまだあるはずだ。

目のつけどころひとつで一攫千金。

僕に商売人の才覚はないが、その視点は学ばせてもらおうと思う。
固定観念にとらわれず、柔軟な姿勢で韓国料理を見つめたい。

新しい料理にはどんどん食いついていこう。

アタリもハズレもあるだろうが、前向きな姿勢を持つことが大事。
ニュートラルな立場で新しい料理に立ち向かっていきたい。

その姿勢がきちんと身についた暁には、
女の子が突然派手になっても戸惑わなくなる……かなあ。

<お知らせ>
トーストの写真がホームページで見られます。
よかったらのぞいてみてください。
http://www.koparis.com/~hatta/

<八田氏の独り言>
こんなオチを書くから「何かあった?」と聞かれるのです。
何もありません。もうずいぶん昔の思い出です。

コリアうめーや!!第108号
2005年9月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



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