コリアうめーや!!第85号

コリアうめーや!!第85号

<ごあいさつ>
9月15日になりました。
今日は敬老の日で祝日……と思ったら、
来週の月曜日に移動しており、ただの平日でした。
今日、15日は敬老の日ではなく、
なんと「老人の日」なのだそうです。
なんでも敬老の日の移動にともなって、
平成14年からそう定められたのだとか。
それだけでなく、今日から1週間は、
「老人週間」となっているそうです。
いやあ、知らなかった……って僕だけですか?
さて、そんな小さな雑学を披露したところで、
今号のコリアうめーや!!の始まりです。
これまで書こう書こうと思っていながら、
写真がなくて断念してきたネタのひとつ。
先日の訪韓でやっと写真が揃いました。
コリアうめーや!!第85号。
食欲の秋に向かって、スタートです。

<大丈夫、ヘジャンククがあるさ!!>

目覚めると同時に激しい頭痛。
眉間の奥でズキンと弾けた痛みは、
その余韻が消えぬまま、ガーンガーンと連続して襲ってくる。
まるで、寄せては返す波のようだ。

朦朧とする意識の中、
僕はやっとのことで身体を起こし、台所へと向かう。
腹部には鈍い倦怠感。胃が岩のように重い。

喉はカラカラに渇き、舌のつけねが突っ張る。
目があかない。ふらついてうまく歩けない。
死ぬ思いで冷蔵庫までたどり着き、麦茶を取り出して飲む。

コクンコクンコクンコクン……。
はああああああああああぁぁぁ……。

澱んだ空気を肺から搾り出して、やっと人心地がつく。
胃のあたりを、すりすりとさすり、
こめかみ、眉間のあたりを指の先で押す。

「なんで、こんなに飲んだんだっけなぁ……」

動かない頭で、昨夜の記憶を掘り返す。

「あー、昨日は会社の飲み会だったんだ」

歓迎会ということでイタリアンレストランに繰り出し、
ガラにもなく、白ワインなどをカパカパ飲んだのだった。

「ポルチーニ茸のパスタはうまかったな……」

と、少しずつ記憶をたどっていくうちに、
二日酔いの引き金となった直接の原因に思い当たる。

「そうだよ。グラッパを飲んだんだ……」

グラッパとはイタリア特産の蒸留酒。
ブドウの搾りかすを利用して作った酒で、
無色透明ながら、なんともふくよかな香りがする。

口当たりもよく、飲みやすいのだが、
ひとつ難点があって、アルコール度数がえらく高い。
確か昨日飲んだグラッパは42度のものだった。

そのグラッパをストレートで3杯。
翌朝の二日酔いは、ある意味当然の報いだといえる。

「さて、どうしたものだろうか……」

多くの二日酔いは時間の経過とともに改善するが、
それまでの間、悶えるほどの苦しみに耐えなければならない。
そのため、多くの人は少しでも苦しみを軽減しようと、
さまざまな方法を試みる。

水を飲む。熱いお茶を飲む。シャワーを浴びる。
梅干を溶かした番茶を飲む。軽く何か食べる。
人によっては、グレープフルーツジュースを飲んだりもするだろう。
小ビンのビールで迎え酒、という荒技も稀に耳にする。

僕の場合は立ち食いそばのつゆをすする、
というのが経験上、もっとも効果がある。
麺は食べずに、あくまでも汁だけをじるじるとすする。

これで7割の二日酔いは改善していく。
ただし、日本では。

これが韓国に行くと、話は180度かわってくる。

韓国は言わずと知れた、酔っ払い天国の国。
キンキンに冷えた焼酎と、辛くてうまい料理だけでなく、
二日酔いを一発で治す、特効薬も用意されているのだ。

韓国では二日酔いの心配は一切いらない。
人呼んで復活のスープ、ヘジャンククがあるからである。

ヘジャンククという料理については、
ちょっとした説明が、まず必要になる。
厳密に言えば、ヘジャンククという名の料理はない。

ヘジャンククというのは、料理のカテゴリを表す名で、
「鍋」とか「どんぶり」、あるいは「煮物」などと等しい。
店によってはヘジャンククとだけメニューに書かれていることもあるが、
基本的には、ある料理群を総称した言葉なのだ。

では、どんな料理を総称しているのか。
これが、本当にスゴイ。

「二日酔いのときに飲むスープ!」

うーん……。
世の中にこれほどまで目的のはっきりした料理があるだろうか。

言うなれば「高枝切りばさみ」くらいの専門性。
これなら今まで手の届かなかった枝の剪定もラクラク。
今まで手の出しようがなかった二日酔いもラクラクなのだ。

名前もピンポイントで特徴を表している。
ヘジャンククは漢字で書くと、解腸クク(ククはスープの意)。
疲弊した胃「腸」を、「解」きほぐしてくれるスープという意味だ。

二日酔いの苦しみを知る人であればあるほど、
この名前が魅惑的に聞こえるはず。

「ああ、ヘジャンクク……」

それは酒飲みに与えられた免罪符のようなものだ。

では、そのヘジャンククを具体的に語っていこう。

といっても、地方ごとにさまざまなヘジャンククがあるため、
一言でこういう料理だと表現するのは難しい。

名目上は「二日酔いのときに飲むスープ」であるから、
極論すると、僕の好きな「立ち食いそばのつゆ」もヘジャンククたりえる。
酔っ払い相手だけあって、相当にフトコロが深い料理なのだ。

とりあえず思いつくまま、つらつらと紹介してみよう。

まずはソウルの、ソンジヘジャンクク。

ソンジとは煮こごりのようにプリッと固めた牛の血のこと。
と、聞くとグロテスクだが、臭みはなく、味もほとんど感じられない。

牛骨でダシを取り、豆モヤシ、白菜の外葉などの野菜を加える。
味付けは唐辛子を控えめに入れ、味噌を薄めに溶く。
さっぱりとした味だけでなく、栄養もたっぷりのスープだ。

ソウルの清進洞(チョンジンドン)に専門店通りがあり、
ここは24時間、ヘジャンククを食べる人でにぎわっている。

明け方の4時頃からは、飲んだ後のシメに立ち寄る人たちが詰めかけ、
6時を過ぎると出勤前に復活を求める人たちが押し寄せる。
ソウルの中でも、かなり地元密着型の雰囲気が味わえる場所だ。

地方のヘジャンククも魅力的だ。

江原道(カンウォンド)は韓国の北東部に位置する地域。
東海岸に面しているため、海からの恵みが豊富である。
スルメイカ、ハタハタをはじめ、多くの魚介類がとれるが、
その中でも特に有名なのがスケトウダラ。

このスケトウダラを山の中まで運び、
自然の風の中で、じっくり乾燥させたものをファンテと呼ぶ。
このファンテで作ったスープが泣くほどうまい。

これでもかという量のファンテを鍋に放り込み、
長時間じっくり煮込むことによって、金色のスープが出来上がる。

香ばしく、ほんのり甘く、旨味はぎゅーっと目一杯。
スープの味はどこまでも透き通っていて、雑味がない。
干したスケトウダラとは、ここまでうまいものかと驚かされる。

具はあっさりと、豆腐、長ネギ、溶き卵。
韓国料理といっても辛いだけではない。
なんとも穏やかな気分にさせてくれる一品だ。

江原道のファンテヘジャンククは芸術的ですらある。

次、韓国の南西部に位置する全羅道(チョルラド)。
この地域は韓国でも、食文化の豊かな土地として名高い。

中でも特に全州(チョンジュ)という街は、
良質の米と、最高級のモヤシが育つ土地として有名。
その両者を巧みに利用したビビンバは、韓国が世界に誇る料理だ。

そして、そんなモヤシを利用したもうひとつの名物が、
全羅道のヘジャンククとして知られるコンナムルクッパプ。

スープは煮干でダシをとった淡い風味のピリ辛。
そこに半煮えのシャキシャキモヤシをたっぷり、どっさり。
生卵を落とし、ちぎった海苔と、刻みネギをパラリ。
底にはスープをたっぷり吸い込んだ、柔らかごはんが沈む。

モヤシが醸し出す大地の味が、刺激の少ないスープによく合う。
疲れた胃袋をやさしく揺り起こしてくれるような料理。
これもまた、たまらなくうまい。

韓国の南東部、慶尚道(キョンサンド)も負けてはいない。

まずあげられるのが、チェチョプクク。
シジミをたっぷりと使った薄味のスープで、
ほんのり塩味の中に、独特の渋みがじんわりと広がっている。

滋味深く、胃にやさしいのみならず、シジミは肝臓にもよい。
二日酔いの身には、ダブルで嬉しい料理だ。

また海岸部では、贅沢なことにフグもヘジャンククとなる。
高価なトラフグではなく、安いサバフグやヒガンフグで充分。
フグでとったスープに、セリとモヤシ、青唐辛子を刻んで少々。
あっさり、すっきりとした、上品なスープに仕上がる。

数えはじめると、本当にキリがない。

忠清道にはオルケンイ(カワニナ)という淡水貝のヘジャンククがあり、
済州島にはアマダイや、ウニなどを入れた贅沢なワカメスープがある。

それは、ヘジャンククだけをテーマに、
全国行脚の旅に出られるくらいの豊富さ。
韓国のどこに行ってもヘジャンククがある。

日々飲んだくれて生きる酔っ払いにとって、
これほど心強く、安心させてくれることはない。

夜は贅沢に肉でも焼きながら焼酎をガンガン。
気分が乗ったら2軒目、3軒目へと繰り出してゆこう。
場合によっては朝までコースだってかまわない。

なあに、翌朝起きて二日酔いだったとしても……。

「大丈夫、ヘジャンククがあるさ!」

それを合言葉に、今日も人々は酔っ払う。

韓国は酔っ払いに寛大な国。

飲め。酔っ払え。そしてヘジャンククを食え。

明け方のシンとした空気の中で、熱いヘジャンククをすするとき。
韓国という国が、またちょっと身近に感じられてくる。

<おまけ>
ヘジャンククに対し、酔い覚ましを目的として飲む酒のことをヘジャンスル(スルは酒の意)と言います。つまりは日本で言う迎え酒のこと。全州のコンナムルクッパプ専門店には、モジュ(母酒)と呼ばれるマッコルリ(韓国のどぶろく)を材料にして作った酒があり、これをヘジャンスルとして出しています。小さな杯に入って1杯1000ウォン程度。モジュを飲んで、コンナムルクッパプを食べると、どんな二日酔いでも一気に治るのだとか……。

<お知らせ>
ヘジャンククの写真がホームページで見られます。
よかったらのぞいてみてください。
http://www.koparis.com/~hatta/

<お知らせ2>
9月1日配信の第84号ですが、発行スタンドのシステム不具合により配信が遅れました。読者皆様にはご迷惑、ご心配をおかけ致しまして、本当に申し訳ございませんでした。

<お知らせ3>
9月25日午後2時より、TBS系全国ネットで「ステイ」という番組が放映されます。「半年で韓国語会話ができるようになる!」ことを目標に出かけた3人の日本人を、半年にわたって密着リポートしたドキュメンタリーです。実は八田氏、アドバイザーとして企画段階にほんの少しだけ携わりました。そういうこともあって、ぜひ多くの人に見て欲しい番組です。

詳しい内容はこちらのページを参照ください。
http://mbs.jp/tv/stay/index2.html

<八田氏の独り言>
映画「猟奇的な彼女」にもヘジャンククは登場。
留置場からでた主人公が、彼女に朝食としてご馳走してもらいます。

コリアうめーや!!第85号
2004年9月15日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

 

 
 
previous next