コリアうめーや!!第77号

コリアうめーや!!第77号

<ごあいさつ>
ゴールデンウィークも過ぎ、
日々の忙しい生活が戻ってきました。
なんとも残念なことですが、
これでまた長い休みはしばらくありません。
そういえば6月って祝日ないんだよなあ……。
なんて、カレンダーをしみじみ眺めたりして。
夏休みが心から待ち遠しい今日この頃です。
さて、今号のコリアうめーや!!ですが、
本題の前に全号のお詫びをしなければなりません。
詳細はメルマガの最後に書きましたが、
久々に大失態をやらかしました。
読んでいて「おや?」と思った方も多いはず。
コリアうめーや!!第77号。
頭を深々と下げつつ、スタートです。

<犬からヤギへのバトンリレー!!>

ソウルで犬を食べた翌日、済州島でヤギを食べた。

などと書くと、さもゲテモノ好きのようであるが、
ここで顔をしかめたり、眉をひそめたりしてはいけない。
韓国では、犬も、ヤギも、特に驚くものではない。
食文化のひとつとして、ごく当たり前に存在しており、

「お昼ごはん、何たべた?」
「あたし、サンドイッチ」
「おれ、犬」

とか、

「今日の夕ごはん、カレーとヤギとどっちがいい?」
「昼にカレー食べたからヤギ」

という会話が成立するほど、生活に密着した食材なのだ。

なんて話を書くと、2割くらいの人は本気にすることだろう。
もちろん真っ赤な嘘で、食文化のひとつとして存在はするが、
そこまで頻繁に食べるものではない。

犬はスタミナ料理のひとつで、夏負け防止に効果があるとされ、
ヤギも栄養価が高く、特に妊婦には最適と言われる。
だが、普段の食事に食べるものではなく、やはり特別な料理なのだ。

例えて言えば、日本人が、スッポンや、イノシシを食べに行くような感覚。
どちらも立派な日本料理だが、日本人でも好みは分かれるし、
特別なことでもない限り、そう口にするものでもない。

「ソウルで犬を食べた翌日、済州島でヤギを食べた」

というセリフは、さもゲテモノ好きのようで、
やっぱりゲテモノ好きの評価を免れない、極めて特異なことなのである。

では、なぜそんな食事をわざわざしたのか。
そこには、ちょっとばかりの理由があった。

話は済州島から始めるとしよう。

ソウルで犬を食べた翌日、僕は済州島へと向かった。
済州島行きの目的は、単純にうまいもの探しである。

なにしろ済州島といえば、食文化の宝庫。

新鮮なタチウオ、サバを刺身で食べ、とれたてのアワビをお粥にする。
チゲにはサザエ、トコブシ、ウニ、イセエビなどの海産物を豪快に放り込み、
高級魚のアマダイは干物にして食べる。

黒豚が有名で、キジ肉料理があり、ミカン、デコポンなど柑橘類の名産地。
スズメダイという小さな魚や、ホンダワラという海藻を使った料理も有名で、
豚の胎児を羊水に浸し、刺身で食べるというスゴイ料理もあるのだ。

「食べたいもの、いっぱいあるなあ……」

とウキウキ気分で飛行機に乗ったのだった。

済州島に到着した初日の夜。
最初ということで、僕は繁華街をふらふらと歩きながら、
ぱっと目に付いた「何か」を食べようと考えていた。

特に名物とまではいかなくとも、ちょっとそそられる料理。
そんなものはないかと、キョロキョロしていると、
ある店の看板がふっと目に飛び込んできた。

黄色い看板に「ヨムソタン」の文字。

韓国語で「ヨムソ」とはヤギのこと。「タン」はスープ。
すなわち「ヤギのスープ」、あるいは「ヤギ汁」となる。

僕はそれまで、ヤギを食べたことはなかった。
ふらりと来て食べるには、ちょっとディープすぎる気がする。
移動につぐ移動でぐったりしているところに、
さらなるチャレンジメニューは精神的にもつらい。

「ヤギはまた今度でもいいな……」

と店の前を去りかけて、僕はふと考える。

待てよ。ヤギは、ネタになるのではないだろうか。
おりしも、昨日は同じスタミナメニューの犬である。
犬からヤギへのバトンリレー。この2連発はなかなかある話ではない。

「昨日が犬で、今日がヤギ……」

正直に言おう。僕はゲテモノが好きな訳ではない。
あれこれ好き嫌いが多く、珍味の類も苦手なほうだ。
単純にヤギと聞いて、動く食指は一切ない。

だが、ネタにするならば話は別である。
拾えるネタは、拾えるときに拾わねばならない。

「なぜヤギを食べるのか」
「そこにネタがあるからさ」

僕は覚悟を決め、店の中へと入った。

「ヨムソタン、ひとつください」
「はーい、ヨムソタンひとつー!」

と、厨房に元気な声が飛び、やがて大きな器が出てきた。
ぐつぐつ煮え立ったスープ。中にはエゴマが大量に入れられている。
ぱっと見る限り、ヤギの姿は見当たらない。
メエーという鳴き声も聞こえない。

「これがヤギ汁か……」

しばし呆然と見つめていると、
大きな器の他に、小皿がたくさん運ばれてきた。

練りカラシ、おろし生姜、味噌にゴマ油とエゴマを入れて混ぜたもの、
タデギと呼ばれるペースト状の唐辛子調味料、そして味噌だけの皿もあった。

むむ、これはどうやって食べるのだろう。
さっぱりわからないので、店の人に声をかける。

「あの、僕これ初めてなんですが、どうやって食べたらいいんですか?」

すると、やけに目と声が大きい店の主人が、身振り手振りで説明してくれた。

「おお、これはだね。スープの味が薄いから、唐辛子とカラシと生姜で好みに味付けをしなさい。そして、この味噌とゴマ油を混ぜたやつは、肉をつけて食べるんだ。この味噌だけのやつは青唐辛子やタマネギをつけて食べる。そしてニラのキムチが……来てないな。ちょっと待ちなさい……。このニラのキムチをたくさん入れるとおいしくなる」

指示に従って、あれやこれやと投入していく。
ある程度加えたところで、おもむろにスープをすすってみた。

「ずず、ずずず、ず。ありゃ、なかなかいける」

思ったより臭みがない。
むしろ、エゴマの香ばしさと、投入した薬味類の味が強い。

続いて、肉のほうを食べてみることにする。
見た目は何か、引き裂いた鶏肉のような感じである。

「ヤギ肉、ヤギ肉、ヤギ肉……」

と、ぼそぼそとつぶやきながら、
言われた通り、味噌ダレにつけて口に運ぶ。

クニクニ、シャキシャキした、繊維質の歯触り。
牛肉のようでも、豚肉のようでも、鶏肉のようでもない。
どことなく不思議なクセをもつ肉だ。

でも、どっかで食べたことがあるような……。
と、ここで、はっと気がついた。

「あ、この肉、犬肉に似てる」

よくよく考えてみると、エゴマや唐辛子を入れるスープといえば、
犬肉料理の代表格である、ポシンタン(補身湯)そのものではないか。
繊維質な肉の歯触りも、犬の足肉とそっくりである。

独特のクセがそう感じさせるのか。
それとも、基本的な味付けが似ているからなのか。
食べれば食べるほど、犬肉にイメージが重なっていった。

「実はヤギといいつつ、ポシンタンだったりして」

と、口の端で軽く笑った瞬間。
心の奥底から、疑惑の種がひょろりと浮かび上がってきた。

「まさか、本当にポシンタンじゃないだろうな……」

慌てて店内を見回すと、ヨムソタンというメニューのすぐ横に、
堂々たる太字で「ポシンタン」なる名前が掲げられていた。
なんと、この店は、ヤギあります、犬もあります、という、
全面的にスタミナ系料理を貫いた専門店だったのである。

「ま、まずい。もしこれが犬だったら、ネタにならない」

ソウルで犬を食べて、済州島でも犬を食べる。
それでは「あんたよっぽど犬が好きなのね」で終わってしまう。

「あ、あの、これはどこの部分の肉なんですか?」

恐る恐る、ちょっと遠まわしに尋ねてみた。
だが、答えは無常である。

「うん、ああ。『ポシンタン』に使う犬肉はだね。足の肉と腹の肉だ」
「え、ポシ……い、犬!?」

ガーン。やっぱり犬のほうだった。

チャレンジメニューは、一瞬でハズレネタに決定。
ガックリときて、目の前が真っ暗になった。

ところが、そのとき。
厨房の奥から、天使の声が聞こえてきた。

「違ーう、そっちはヨムソターン!」

調理担当のおばちゃんがはりあげた声だ。
それを聞いて、慌てて店の主人が撤回する。

「あれ、ヨムソタンだっけ。ヤギのほうは、えーと、足の肉とカルビだね」
「はあー、そうですかー」

思わずもれる安堵のため息。
僕が食べているのは間違いなくヤギ肉だった。

「これでネタになる……」

僕は、心の底から安心して、残りのヨムソタンを味わった。

ちなみに、味のほうを語るならば、
決してまずくはないが、喜んで食べるほどでもないというくらい。
犬肉料理もそうなのだが、やはり味云々よりも、栄養と、
そして「食べた」という事実に価値がある料理ではないかと思う。

僕はヤギを食べた。それで満足なのだ。

ということで、その経緯をメルマガにしてみた。
きちんと話になったのだから、ネタとしては合格だったのだろう。
あのときのチャレンジ精神。決して、無駄ではなかった。

だが、ここまで書き終えて、思った。

あのときは、ヤギで安心したが、
ネタ的には、犬のほうがよかったのではないだろうか。
犬からヤギへのバトンリレーを画策しつつ、
もう1度犬でガチョーン! こちらのほうが断然面白い。

うまくいったつもりで、まだまだ詰めが甘い。
ネタの神を味方につけるには、さらなる修行が必要なようだ。

<お知らせ>
ヨムソタンの写真がホームページで見られます。
よかったらのぞいてみてください。
http://www.koparis.com/~hatta/

<お侘び>
議政府市の議政府チゲを語るために、「博多モツ鍋と博多市」という例をあげたのですが、日本に「博多市」という市は存在しませんでした。あくまでもあの地域は「福岡市」であり、よく確認をせずに書いてしまったことを心よりお詫び申し上げます。なお、お詫びとともに訂正をしなければならないのですが、「博多モツ鍋と福岡市」では内容を伴わなくなってしまうため、書き換えることができません。バックナンバーにお詫びを掲載するということをもって、訂正にかえさせて頂きます。申し訳ございませんでした。

<八田氏の独り言>
これまで0時ちょうどの配信にこだわってきましたが、
そろそろ考えを改めるべきなのかもしれません。
バタバタ慌てず、しっかりと見直しをして、
翌朝までに配信する、という方針を検討中です。

コリアうめーや!!第77号
2004年5月15日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



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