コリアうめーや!!第54号

コリアうめーや!!第54号

<ごあいさつ>
6月になりました。
先月21日から韓国を旅行中の八田氏です。
しばらくソウルに滞在した後、
全州、晋州というビビンバの本場2ヶ所を訪ねました。
石焼きビビンバの器工場も見学し、
ビビンバをテーマにした旅は順調です。
おいしいビビンバにたくさん出会いました。
ビビンバ以外にもおいしいものをたくさん食べています。
帰国予定日は明後日の6月3日。
旅の日程も残り少なくなってきましたが、
最後まで精一杯、腹一杯食べてこようと思います。
それではコリアうめーや!!第54号。
ビビンバ総まとめのスタートです。

<晋州のユッケビビンバに感動落涙!!>

ある男が言った。

「その昔、朝鮮には全国的に有名な3つの郷土料理があった。平壌冷麺、開城湯飯、そして全州ビビンバだ。これを朝鮮3大料理という。平壌と開城は北朝鮮に位置するので、今は本場まで食べに行くことはできない。韓国で今食べられるのは全州ビビンバだけだ。」

男は続けて言った。

「ビビンバにも全国的に有名な3つの郷土ビビンバがある。全州ビビンバ、晋州ビビンバ、海州ビビンバの3つだ。これを朝鮮3大ビビンバという。ただしこの中のひとつ海州は、これまた北朝鮮の黄海道にあって本場まで食べに行くことはできない。誰よりも南北の統一を願う料理。それがビビンバなのだ。」

男はそういうと、静かにうなずいた。
まなじりを熱くする男の横で、僕は静かによだれを拭った。

そのビビンバ、全部食べてみたい……。

北朝鮮に位置する以上、海州ビビンバは簡単には食べに行けない。
そのため安東ビビンバを代わりに入れて、韓国3大ビビンバとする人もいる。
安東ビビンバとは、第48号で紹介したホッチェサパプのこと。

全州ビビンバも第47号で紹介したので、残るは晋州ビビンバのみである。
現在韓国で食べられる最高のビビンバの残りひとつ。
晋州のユッケビビンバを食べてきた。

ユッケビビンバの名は日本でも広く知られている。
ユッケとは牛の生肉を細切りにして醤油、砂糖、ゴマ油などで味付けたもの。
そのユッケを主材料にして作ったビビンバがユッケビビンバ。
晋州ではこのユッケビビンバこそが、ビビンバのスタンダードなのである。

僕は晋州中央市場に位置する老舗のひとつを訪れ、
その店でユッケビビンバの製作過程を見学させてもらった。
厨房ではその店の創始者であるハルモニ(おばあさん)が、
具のひとつひとつに至るまで、詳細に解説をしてくれた。

以下、順を追って報告、検証し、晋州ビビンバの真髄に迫ってみたい。

ビビンバの注文が入ると同時に、ハルモニは器を手にする。

ここで最初の驚きがあった。
ステンレスの器がお湯の中にどっぷりと浸されている。
ビビンバが適温で食べられるようにとの配慮である。

「むむむ。器ひとつにまで仕事がされている。」

僕はハルモニの背をみつめながら、ひとり唸った。

器にごはんを盛ると、そこに各種ナムルをのせていく。
この日のナムルはホウレンソウ、キュウリ、緑豆モヤシ、
ホバク(カボチャの未熟果)、ワラビの5種類。

全州ビビンバには大豆モヤシが使用されるが、
晋州ビビンバは細く柔らかい緑豆モヤシでなければならない。
ナムルを1種類ずつテンポよくのせていく。

ナムルをのせ終えると、ハルモニは大きな寸胴鍋にお玉をつっこんだ。
底のほうから何やらすくいとり、ビビンバの器にびちゃっとかけ回す。
僕には何かのスープがかけられたように見えた。

「おおっ、いまのは何ですか?」
「これかい、ひき肉だよ。」
「ひき肉?」

ハルモニもう1度お玉ですくってみせてくれた。
少し茶色がかったスープの底に、大量のひき肉が沈んでいる。

「よく叩いた肉をじっくりと煮る。それを醤油とニンニクで味付けたものさ。」

スープをびちゃっとかけたのではなく、
煮込んだひき肉を具のひとつとしてざっとかけ回したのであった。

「な、なるほど……。」

これは重要な秘密を知ってしまった。

全州ビビンバも店によっては牛のスープでご飯を炊くという。
全州でも晋州でも、旨さの底にあるのは牛肉の旨みなのである。

それでなくともユッケビビンバは牛の生肉をメインとするビビンバ。
そこにじっくりと煮出した牛肉の旨みが加わるとどうなるか。
複雑に絡まりあった旨みが、人々を限りなく魅了することになる。

あまりの感動に石化しかかっている僕を横目に、
ハルモニは慣れた手つきで着々と作業を進めていく。

ナムルの上に煮込んだひき肉、そして次に海藻がのった。

ソッテギという岩のりのような海藻の一種。
晋州ビビンバには欠かせない大事な一品だそうだ。

ソッテギまでのったら、味の決め手となるコチュジャンをひと匙。

「コチュジャンも醤油も全部手作りなんだよ。味をみてみるかい。」
「ええっ、いいんですか。」

と驚いたふりをしつつも、僕はその一言を心待ちにしていた。
いそいそとスプーンを手にし、ねっとりとしたコチュジャンをひとすくい。
あーんと大口を開けて、舌先でペロリ。
そして……。

僕は固まった。

こ、こ、こ、こんなにうまいコチュジャン食べたことない。

原料であるもち米の香りがぷんぷんと広がり、
続いて、まったくクセのない、上品な甘さを感じる。
唐辛子味噌であるはずなのに、辛さはほとんど感じない。

誤解を恐れず、大胆に表現するのならば、
もち米の香りと、上品な甘さは「あんこ」を連想させるものだった。

このままコチュジャンだけをペロペロとなめていたい。
どんなにお行儀が悪くても、ペロペロペロペロとなめていたい。
そう思わせるような、素晴らしいコチュジャンであった。

「う、うまいです。辛さをほとんど感じません。」
「辛さはビビンバの味を損ねるだけだからね。」

ハルモニは静かにそう語った。
そう。このコチュジャンは晋州ビビンバのために、
特別に作られた最高のコチュジャンなのだ。

最後にメイン材料のユッケがのった。
このユッケにはゴマ油と白ゴマを加えるだけで、味付けはなされていない。
ゴマ油をかけまわし、白ゴマをぱらぱらとふりかけ、丹念に揉み込んでいく。
前足の柔らかい肉だけを使い、肉そのものの味を活かす。

器の真ん中にユッケをのせて、晋州ビビンバは完成。
香りをさらなるものにするために、ゴマ油を数滴かけて客に出す。

僕は厨房を後にし、客席に戻った。
制作過程の一部始終を見届けたビビンバが目の前にある。
否が応にも、期待は、天井知らずに高まっていく。

まず、生肉をひとつ箸でつまんで食べてみる。
ゴマ油の鮮烈な香りが鼻腔を駆け抜けていく。
文句のつけようがない、本物のゴマ油だった。

箸をスプーンに持ち替えて、全体をかき混ぜていく。
ご飯の中に生肉を混ぜ込み、コチュジャンをまんべんなく行き渡らせる。

全体がよく攪拌されたら、スプーンを口に運ぶ。
混ぜる過程でへばり付いたご飯を口で拭いとると、
それを食べ始めの合図に、あとは無我夢中。

見た目も味も、辛さ一色に塗りつぶされてはいない。
ナムルの瑞々しさ、生肉の軽快な舌触り、ひき肉からにじみ出る旨み。
意外に自己主張をしているのが、海藻から放たれる海の香りだ。

そして、これらを優しく抱きとめるのが自家製コチュジャン。
吟味された材料の数々が、渾然一体となる。

僕は最後のご飯1粒まで。
晋州ビビンバの魅力に酔った。

晋州ビビンバは全州ビビンバのような派手さ、華麗さはないが、
腰の座った旨さがある、いぶし銀のビビンバであった。

全州ビビンバ、晋州ビビンバ、安東ビビンバ。
それぞれに個性があり、それぞれに大きな感動があった。
唯一まだ食べていない最後のビビンバ。

海州ビビンバを食べられる日は、いつ訪れるのだろうか。

<お知らせ>
旅行中につきホームページの更新ができません。
写真のアップは帰国後の6月3日以降になります。
http://www.koparis.com/~hatta/

<お知らせ2>
「韓国料理好きに100の質問」という企画を行っています。
回答者を広く募集しておりますので、よかったらご協力ください。
http://www.koparis.com/~hatta/question/question_000.htm

<八田氏の独り言>
今回の韓国訪問は韓国のテレビ局から出演依頼を受けたものです。
晋州ビビンバ体験をも含め、旅の一部始終をカメラが追っていました。
韓国だけでの放送になりますが、放送予定は8月頃とのことです。

コリアうめーや!!第54号
2003年6月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

 

 
 
previous next